第46話 騎士と守人と
「何、さらしとんのや!」
私が、突然のベリオの行動に絶句していたそのとき、ものすごい大声が聞こえた。と、同時に私の前にその身体を挟み入れ、私を自分の背後へと押しやる。
「タツ?」
「おお、タツ様やで。なんやえげつない霊力が詩音の近くにある、思ったらなんや、このデカブツ。前世絡みのおっさんか?」
「ハハ、まぁ、そんなとこ・・・」
「確か、前世関係の人間は許可なく詩音にちかづいたらあかんことになっとったんやがなぁ。」
私を背後に隠し、顔はベリオに向けたまま、タツが言った。
て、初耳なんですけど?
「詩音ちゃんはそんなん信じんかもしれんけどなぁ、一応、こっちの世界を預かっとるもんたちは、異世界の神さんの願いは極力叶えるンやわ。まぁ、いろいろ因縁もあるしな。でもって、詩音の気持ち優先で、詩音が手伝う思ったことだけ、やってもらえたら嬉しいなぁ、いうことみたいやなぁ。まぁ、なんや。こんな偉そうなこと言うても、こっちの世界、神にも格があってなぁ、儂らレベルのんがこのこと知ったんは、つい最近なんやけどな。姫巫女あたりが止め取った、ちゅうこっちゃなぁ。」
なるほど。
私のシオンになったときの霊力を追ってきた、と最初、言ってたけど、タツたちレベルの神様での話、ってことなのかぁ。まぁ、日本って八百万の神なんて言うし、いっぱい神様がいて、ランクっていうか、格?そんなのがあるんだろうね。
「まぁ、儂としては、上の連中に言いたいこと聞きたいことはようさんあんねんけどな、ひとまずはこのおっさんや。何もんや?詩音の雰囲気から言うて、リーゴはんみたいに完全なダチってわけやなさそうやけど?」
「はは、えっと・・・一応、前世で魔王討伐したときのパーティーのリーダー、かな?例の姫様の騎士っていうか・・・」
「それって、シオンを断頭台に送った奴ちゃうんか?」
タツには前世のざっくりとした死に様、っていうか、なんでこの世界に来たか、程度の話はしてる。そのときに、メンバーの一人、王国の姫とその国の騎士だったメンバーに断頭台に送られたってことは言った、と思う。
「貴殿は、この世界の神の一柱か?まことに、貴殿の仰るとおり。私が直接、そこのシオン殿を断頭台に送りし者。これは言い訳だ。当時の私には彼のシオンの言動がまったくもって理解出来なかった。私は姫様が、産まれた時から見てきたのだ。シオンは信じられないだろうが、姫が男に積極的になったのは、あの旅が初めて、いいや、生涯でシオン殿に対してだけなのだよ。たかだか下民の分際で、その姫様の好意を無碍にするなど、まったくもって理解の外だったのだ。だから姫が、貴殿を断頭台へと仰せられた、そのことに、まったくもって、疑問を抱かなかった。」
「ど・・して?だったら・・・どうして・・・」
思わず私は心がギュッとなって、口を開いた。
どうしてなの?
「シオンが殺されたのは、百歩譲っても、分からなくはない。けど、どうして?どうして、リーゴやマリーブまで・・・」
かすれた声しか出なかった。
替わりに、かどうか、目から水分が頬に流れ落ちていた。
「あのふたりは、最後までシオンの味方、だった・・・」
ああ、自分のせいか。自分のせいで二人は殺されたんだ。
そうだろうとは思っていた。
けど、それが確信に変わった。
なのに、この世界まで、自分を追ってきてくれた?
なんか私の身に危険かも知れないことが起こってるから、だから助けよう、なんて言って、異世界までやってきて・・・
転生では間に合わないからと転移をして・・・
けど、私はそんなことは知らず、のほほんと生きてきて・・・
それなのに。
そんな状況で尚、私を蚊帳の外に置いても良い、なんて思ってくれたんだろう。
だからこそ、詳しいことは決断してからって待ってくれて・・・
ハハハ。
いつだって、あの二人はそうだ。
いつだって、かなわない。
どんなに強い敵をやっつけることができだって、どんなに彼女たちを肉体的に守ったところで・・・
いつだって守られていたのは、・・・俺・・・・。
「あー、もう。詩音ちゃん。こんな奴のせいで、せっかくのお姉ちゃんの気遣いもパーやん。むっちゃ腹立つ!」
ベリオに敵意がない、ということを、さすがに認めたのか、タツがこちらを振り返って、盛大に自分の頭を掻いたと思ったら、地面を見つめていた私を思いっきりハグしてきた。
「ああ、知ったからにはしゃあないな。儂も最近聞いてんけどな、なんや、えげついストーカー女がシオン狙って世界を渡ったんやて。そこのおっさんの話は知らんけど、一応、ストーカー女のことは、この世界の勢力上げて探ってる。ええか。シオンはあっちの世界の子かもしれん。けどな。転生して詩音はこっちの世界の子や。儂らの庇護下にある魂や。せやからな、儂かてストーカーなんか近づけたれへん。シオンを殺した奴に守られる必要なんか、あらへんねんで。」
じっくりと語りかけるように、ハグをしたまま、頭上から言葉を降らすタツ。神様、だからだろうか、なんか、言葉を聞いていながら、土に水が染み込むように、心にじんわりと気持ちが染みていく。
私は、その声に静かに頷いていた。
「分かった。」
そんな私たちを見ていたベリオが言った。
ゆっくりと立ちあがって、私を、私たちを見る。
「確かに今更側で守らせてくれ、などと、虫が良すぎたな。それだけではなく、善き守人もいるようだ。だがシオン。俺の気持ちは変わらん。サーミヤからシオンをそして、この世界を守ると、わが大盾に誓って宣言しよう。タツ殿と言ったか。シオン、いや詩音をよろしく頼みます。私は、影ながら尽力させていただく。」
そう言うと、大男の気配が消えた。
しばらく、そのままでいたけど、タツが私から離れて言った。
「送るわ。」
そして、その声を合図のように、周りの喧噪が、私の耳を打つ。
ああ、なんだ。
タツの結界の中だったのか。
そのとき、初めて私は気付き、歩き出したタツの背に向かって、小さく「ありがと。」と言った。
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