第27話 次、行ってみよう!

 「ほんでな、詩音はん。次の依頼やねんけどな。」

 「ハァ?何よ、次って。私、そんなに付き合うつもりはないわよ。私はね、女神様から、平和に安穏と暮らすためにこの世界に転生させて貰ったのよ。それなのになんで、次、とか?あり得ないです。」

 「そうは言うてもなぁ。そりゃ、シオンの世界に比べたら平和かも知れへんけどなぁ、なんつうか、色々こっちも手ぇ足りてへんねんなぁ。人間が科学一辺倒になってもて、あやかしとかを忘れてしもたやろ。ほんでもって、もともと持ってた霊感つうんかな、あやかしを視たり、対抗したりっていう力を失のうてしもてんねん。それどころかな、この星を守っとる神レベルのあやかしを、自然破壊と一緒にようさん殺したり傷つけたりな、自覚なしにしよるんや。」

 「それは!・・・まぁ、なんとなく分かるけど・・・」

 「あんな、実際、この星は相当ヤバイこともあるんよ。とくに生物にとったら、なぁ。まぁ、これが自然淘汰や、言うて、手ぇこまねえてもええんやけどな。言うても、霊体の世界だけ切り離したら、こっちはなんとでもなるんや。」

 「それって、この物質の世界を見捨てる、とか?」

 「最悪、そうなる。」

 「人間も?」

 「はは。そんなん一番最初に滅ぶんは人間やろ。」

 「・・・眉唾、って言い切れないのは、土蜘蛛のことで分かったけど・・・おとぎ話の生き物はいる、って、見せられちゃったし。」

 「ほんまに想像上のもんもあるやろけどな、人間が想像出来るもん、ちゅうのは、ほとんどある、思ったらええ。むしろ遠い血に刻まれた記憶が浮かび上がったのが想像上の動物、や。」

 「はぁ。この世界が人間だけじゃなく、いろんな知的生命体が共存してる、ってのは、分かったよ。でもね、だからって、私の平穏は破られたくないの。」

 「それは理解しとる。悪いなぁ、ていう気持ちもあるねんで。せやけどな、シオンが手伝ってくれへんかったら、最悪、この辺、地震ですごい被害出る、という案件やねん。」

 「はぁ?今、さらっと、聞き捨てならないこと、言った気がするんですけど?」

 「地震でわやくちゃならんように手伝ってぇな、って言っとる。」

 「・・・・」

 「てことでや、次の依頼やねんけど、ええか?ええよなぁ?」


 私は、自分の平穏を守るため、手を貸すことにきめた。



 ということで、放課後。


 私は、タツと、なぜか現れた中川さんの3人で、隣町に来ていた。

 学校から電車で4つ。でも、特に何があるわけでもない駅で、私も中川さんも初めて降り立った駅だ。

 駅前は小さいながらもロータリーになっていて、バス停が1つ。

 タツの案内でバスに乗りさらに15分ほど。

 降りたのは、特に何の変哲もない町中で、グルッと見回しても、ほぼ似たような2階建ての家が並んでいるだけだった。


 「なんもないよね?」

 私は、シオンにステータスを切り替えて、辺りを感覚で探ったけど、特に怪しい気配は感じ取れない。

 「シッシッシッ。このあたりは新興住宅地のようです。もともとは田んぼや畑があったんでしょう。水気が感じられますね。」

 「水気?」

 「木火土金水もっかどこんすいという考え方があります。霊力は基本的にはこの組み合わせだと考えられています。どんな土地にも癖、というものがあって、大体はそのどこかに偏りがありますねぇ。この辺は水気が多い。前身は田んぼか、そのためのため池、というところでしょうか。」

 「あたりや。もっと昔は、沼やった。そこを開墾して田んぼとため池に分けてん。当時はあやかしの力もようさん借りてんけどなぁ。」



 タツが迷いなく、住宅地を進んでいく。

 5分ほどいくと、残ったため池なんだろう、小さな人工池があって、その周りを菱形が並ぶ鉄線の塀で囲んであった。

 「あぶないさかい、中川さんは枠の外でおり。シオンはついてきてな。」

 そう言うと、140センチぐらいの高さの、その塀をピョン、と乗り越えた。

 「シオンもおいで。」

 いや、これ、立ち入り禁止って看板あるけど?

 ためらう私を手招きしながら、タツは、急な崖になっている、そのてっぺんを器用に奥へ進んだ。

 「シッシッシッ。大丈夫。私が見張ってるから。」

 中川さんにまで促され、私は仕方なく塀に手をかけ、反対側へと飛び込んだ。



 「ここやここ。」

 ちょうど対面の崖へ到着したタツは、私が到着するのを待って、積み上がっている石をペチペチと叩いた。

 「何?」

 「よう見てみ、この積み上げた石、くっついとるやろ?」

 確かに、どう見て不安定に積み上げられた石だが、軽くつついてもビクともしなかった。それに、何か赤っぽい色で書いてる?

 「これなぁ、呪文みたいなもんや。こうやってな、ポンポンって石を叩きながら呼ぶねん。」

 そう言うと、タツは、ポンポン、とその石を手のひらで掴むように、または、小さなこの頭をポンポンと愛でるように、叩いた。

 よく見ていると、リズミカルに叩きながら、魔力、いや、こっちの世界では霊力と言うんだったか、を、軽く流していて、それが赤い文字らしきものに反応しているようだ。


 「おぉい、儂や。儂が来たで。助っ人つれてきたさかい、出てきたりいな。」


 ・・・・・


 数十秒の沈黙。


 と、何かが水中に現れた気配。

 土蜘蛛が現れるときと同じように、どこからかにじみ出る気配がしたから、どこかの次元と繋がっていて、そこに拠点があるのだろう。


 そのため池の水は、黒に見えるほどの深いグリーンだった。が、その気配の辺りに目を凝らしていると、プクップクッと、泡がでてきて、深緑が揺らぐ。

 そして、その泡の周りに何重もの円が浮かび上がり、その中心部から、やわらかい光が発生した。そのグリーンの光はゆっくりと水に溶け込んで広がり、やがて、下から光源があるように、水から空中へと幾筋もの光となって広がった。


 何、これ?

 と、見てる間に、一段と強く緑の光が発し、思わず腕で目を覆う。


 光が収まる気配を感じて、私はゆっくりと、腕を外し、目を開けた。


 下=水面を見る。


 目が、合った。


 そこには、紛れもなく、河童が、眩しそうにこっちを見上げていた・・・

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