第26話 開発計画阻止計画(終)

 なんとなく、もう危ないことなんて起きないよね、と思い、タツを見ると、彼も同意見のよう。

 この場は土蜘蛛の姫に任せても問題ないようだ、と、私たちは洞窟を出た。



 ちょうど外に出たとき、中川さんに電話があったよう。

 釣果と、集合、の話だったみたい。

 当然、私たちはボウズ(=全然釣れないってこと)だったんだけど、ちょっと待っててって一瞬姿を消したタツが大量の魚を持ってきたから、びっくり、なんてプチどっきりがありました。

 それどうしたの?て聞いたら、川へ行って獲ってきたって言う。

 あまりにもの量、そしてあまりにも短時間、なんかおかしい、って問い詰めたら、どうやら龍神として命じて魚たちを籠に入るようにした、という。


 「戻してきなさい!」

 「なんでや。」

 「そんなズルしてまで勝ちたくないです。」

 「自分の持ってる力で魚獲って、何が悪いねん。」

 「じゃあ、タツがこんなずるしてとっちゃいましたって発表してもいいよね?」

 「いや、それは・・・」

 「何?」

 「ほら、儂が龍神や、なんて言われへんやん?」

 「じゃあ言えないような力を見せるのもダメだよね?」

 「・・・まぁ。」

 「だったら返してきて!」

 そう怒鳴ったら、大人しく放流してきたみたい。

 「シッシッシッ。詩音ちゃんは、龍神様にはてきぱきしてるのね、新発見。シッシッシッ。」

 と、中川さんには笑われてしまった。



 で、けっきょく釣果0で集合した私たち。

 川縁でBBQだって。

 他のチームが獲った魚とか、村で調達してくれたお肉やお魚を焼いて、ご満悦です。なんで、外で食べるごはんってこんなにおいしいんだろう。

 昔(=前世)は、むしろ外のご飯はいやだったけどなぁ。


 あ。ラノベでよくある干し肉と固いパン。外だからって、そういうのだけ、ということは全くなかった。

 マジックバック的な物はなかったけど、大きなリュックを持っても体力的に問題はなかったし、それなりに食べる物は各地にある。

 肉を狩り植物を採ることは難しくなかったし、鍋なんかは盾とかで代用するんだ。煮沸消毒ぐらいの知恵は、あの世界でもあったし、そもそも窯だって火だって、簡単に魔法で作れるから料理道具なんてそんなになくても現地調達できる。あ、水も魔法で大丈夫だったし。

 あと、スパイスは普通にあった。高級というわけでもなく、旅に持っていく食料は、メインがビスケットみたいなパン、そして各種スパイス。そんなもんでよかった。冒険者はそれなりに調理ができる。できなきゃ生きられない。

 むしろラノベあるある、の、まずい食事をがまんして料理もしてない、なんていうのが信じられないくらいだ。戦いはまずは体力。食事がまずけりゃ、そんなもん体力が持つはずがないだろう?


 まぁ、それでもやっぱり町中のレストランで食べる方がうまいにきまってる。あの頃はそう思っていた。

 でもなんだろう、現世では、このなんの変哲もない、塩コショウだけのお肉がおいしい。ただ外で食べるっていうだけで、いつもの何倍も美味しい。


 こういうのがところ変われば、って言うのな?そんなことを思いつつ、BBQを楽しんだ後は、帰途につく。

 タツはまだ残る、というけど、そもそも、もう学校に来る必要はないんじゃないか?と思う。彼が学校へ来たその原因は私だって聞いたし。

 私が何者で、この世界にとってまずい存在ではないか?なんてことを見にくるのが目的で、その目的はもう達成した、と、思いたい。

 サブで、土蜘蛛たちのことだろう。

 これはもう私の手を離れた、といっていいと思うし・・・


 「シッシッシッ。タツ様は戻ってきますよ。」

 私が、車窓を眺めつつ、そんな風に思っていたら、いつの間にか隣に座っていた中川さんかそんな風にささやいた。

 「まだまだ調査は続行中、でしょうからね、シッシッシッ。」

 まだ、私の疑いはあるってこと?

 私はちょっと眉をひそめてしまった。

 「シッシッシッ。まぁ、それは言い訳で、もっと知りたいんだと思いますよ。私も、ですけどね。シッシッシッ。」



 そうして、無事帰宅して、もう少し残る休みの後、普通に学校が始まる。

 ゴールデンウィーク開けの学校は、なんとなくけだるい雰囲気が立ちこめていて、でも、やっぱり何にも替わらない、いつもの世界だ。


 「おっはよーさん。詩音、ちょい顔貸せや。」

 朝っぱらから大きな声で、他クラスのタツがやってくる。

 本当にまだ学校に来るんだ、と思いつつ、そちらの方に行くと・・・


 「帰れ帰れ!他のクラスのやつが勝手に教室に入るんじゃねぇ!てか、慣れ慣れしすぎだろ?し、詩音ちゃ、ちゃん・・・に!なんつーうらやま、じゃねえ、失礼な呼びかけするんじゃねぇよ!」

 と、なぜか、くってかかっているタチバナが・・・

 「シッシッシッ。まぁ、タチバナ君。タツ様は詩音ちゃんと込み入ったお話しがあるんです。さぁさ、あんた様はこちらへ。シッシッシッ。」

 そしてそのタチバナの肩を押しながら、タツから離す中川さん。

 中川さんは、私とタツにウィンクをしてきたけど、何がやりたい?

 「お、おう。」

 タツもちょっとキョドったけど、私についてこい、と再び言い、以前二人で行った屋上へ。



 「あのあとな、我妻が土蜘蛛の保護を本格的にやる、言い始めよった。」

 タツはそんな風に、話し始めた。


 どうやら、姫の説得(?)により、洞窟には手をつけず、境内や社殿は、綺麗に修復する程度にすることになったそうだ。神社に向かう階段も、修復程度。しかし、その下の駐車スペースおよびそこへ至る道は整備して人を呼び込む。

 人を呼ぶことにより、お金を得れば今後の修復にも土蜘蛛の生活改善にも役に立つだろう、ということだった。

 つまりは、もともとタツたちがやっていたことをレベルアップして行う、そんな開発になるとのこと。我妻の所有になったことで、不必要な侵入を排し、人の絶対入らない時間を確保する。もちろん土蜘蛛の出入りがしやすいことを狙ったものだ。まぁ、我妻はそれが土蜘蛛だとは知らず、龍神の加護を受けた神秘の生命、と言っているらしいが。


 まぁ、あの土地を買ったのは、成功した彼の自己満足、のためだった、というのが唯一の正解だったらしい。

 その自己満足の内容が、愛するものの遺骨を探して奉ること、可能ならその悲劇を起こした神に復讐する、ということから、愛する人の一族を自分の手で守る、というようにシフトした、ということだそうだ。


 とにもかくにも、一件落着。

 自分が何かできたのかどうか怪しいけど、まぁ、少しでも役に立てたなら、良かった、そんな風に思ったのだけれど・・・


 「ほんでな、詩音はん。次の依頼やねんけどな。」

 は?

 次?

 ちょっと待ってくれませんかねぇ。

 私は単なるJK。

 ちょっとばかり、昔の記憶があるだけの普通の女の子。

 もう無茶降りはたくさんなんですけど?

 私はニヤニヤ笑う、自称神の顔を、思いっきり不機嫌な顔で睨み付けた。

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