第25話 開発計画阻止計画(9)

 「じゃあ、公平にクジなぁ。」

 本日は川で魚釣り。

 この時期だと鮎もいる、らしい。

 川魚は臆病で、少人数の方がいい、そんな風に説得?したタツ。

 グループを3つに分けてバラバラに行くぞ、ということになり、そのグループ分けのクジをすることになったけど・・・


 第1組、お姉ちゃん、ピーチ、ナコ。

 第2組、ミコ、タチバナ、

 第3組、私、中川さん


 「各班に地元民が入るけど、儂は中川さんとこに入ろかぁ。同級生の男、ちょうどばらけるやろ。」

 正確に言えばタツは同級生じゃない。同学年ではあるけどね。

 そして、さらに正確に言えば、これは、

 3組目はすでに決定してた。

 クジの目を思い通りにするのは、神様の専売特許、らしい。タツ談だけど・・・



 1組目から順に車で移動。適度に間隔を開けての、チーム対抗戦。

 そこそこ盛り上がりつつ、出発したようで・・・


 「はな、行こか。」

 他の2組が見えなくなると、タツがそう言った。



 時間は遡る。


 私が目覚めると、もうみんな起きていて、ほとんどは温泉に行った、らしい。

 お姉ちゃんが私を待ってたみたいだけど、温泉の気分でもなく、もうちょっと寝る、と言えば、じゃあお留守番よろしく、とだけ言って、普通に出かけていった。

 女子部屋に残されたのは私1人。

 と、入れ替わりに帰ってきた中川さん。

 昨日のことがあって、ちょっと気まずい。


 「起きた?」

 「あ、うん。おはよう、ございます。」

 「はい、おはようございます。あ、今日の作戦、いいかな。シシシ。」

 「作戦?」

 「そ。今、龍神様と練ってきた。」

 へ?

 どういうこと?


 話を聞くと、早朝タツの気配を感じて(!)会いにいった、らしい。

 どうも、中川さんもだけど、タツだって、中川さんが霊感少女ってやつでタツが人間じゃないって分かってるってことを知っていたんだそう。お互い知ってるけど内緒、っていうのは、この業界のあるあるなのよねぇ、と笑っていたけど、その業界、って?


 まぁ、それはいい。

 どうやら今日、我妻社長が来るか来ないかは微妙だけど、来るとしたら土蜘蛛の姫と会わせるってことになったらしい。タツが姫と約束を取り付けたとか。

 タツに言われたらノーは言いにくいと思うよ、って言ったんだけど、あっちのトップ=番頭さんが話を通したから問題ない、んだそう。

 そんなのだから、私たちは遊びに行って貰って、タツだけ立ち会うとか言ってたらしいんだけど、ってのがあったら、ケアできる人物=シオンがいた方がいい、という話になったそうです。

 それで、自然にチームわけして、私が洞窟に行っても問題ない状況を作れないかって考えて、中川さんが今回の魚釣りでバラバラ、を、思いついたのだとか。



 「中川さんが私と組む形になれば、そりゃ不自然じゃないけど、そのまま洞窟行くとしたら、危険じゃない?」

 「うんにゃ、大丈夫ですわよ。私は、洞窟前に待機してますから。」

 「いいの?」

 「私は謎は好きでも、危険は好みませんの。シッシッシッ・・・」

 「はぁ。」

 「それに連絡あったときに、受けれないとダメでしょ。ほら。」

 ん?

 あれ、それ、私のスマホ?

 夜のうちに充電してたけど・・・

 「安心してください。放電させてます。ね。」

 「2%?」

 残り電池2%って・・・

 「これで詩音ちゃんに電話がかからなくても不思議じゃないでしょ?連絡は私のところにくるから、替われって仮に言われても、お花摘み中、でことが済みます。シッシッシッ。」

 「うわぁ・・・」

 「これは、出発ギリギリに気付いたことにしてくださいね。」

 ニコッと、笑う中川さん。

 その頃、みんなもお風呂から帰りはじめ・・・・


 気がつくと、こんな感じ。




 「あいつが来たらな、姫が洞窟の前で待ち構えとく。で、姫に会いに洞窟に入ったところで、屋敷の応接に空間を繋ぐことになっとる。」

 「えっと、洞窟に入ったと思ったら屋内だった、と?靴はいいの?」

 「むっ。・・・・中庭にしよか。」

 「中庭なんかあるんだ。」

 「ああ。結構ええ感じの日本庭園やで。」

 「だったら隠れるところもいっぱいありそうね。」

 「そや。完璧な計画やろ?」

 「いやいや。最初応接、とか言ってたよね?あの屋敷の応接なら隠れるところなんてないよね?どうするつもりだったの?」

 「そ、それは・・・そんなんなるようになる、っちゅうねん。」

 ・・・・

 私は、神様というのは、決して万能の存在のことを言うのではない、ということを知った。はぁ・・・



 そんな感じで、神社の社殿に入って休憩(!)しつつ、外の様子を見張っていた、私たち4人。タツ、私、中川さんに、番頭さん。


 「おっ。」

 まずはタツが気付いたようだ。

 しばらくして、車が停車する音。ドアの開け閉めのバタン、という音。

 スッ、と、番頭さんが気配を消した。

 どうやら、屋敷に行ったらしい。タツが教えてくれた。


 そこそこ時間をかけて、階段を登って来る足音。それに、激しい息づかい。

 あの体じゃ、山の上まで階段で上がるのも大変そうだ。そういや、ここにエスカレーターをつける計画もあったっけ?

 正直、山を切り開くスペースもほとんどないよね?邪魔でしかないって思うのは、体が丈夫だから、なんだろうか。


 おっ。

 なんとかたどり着いた我妻氏。

 キョロキョロしたけど、無人の境内。

 頭をガシガシとかきむしりつつ、裏へと回っていく様子が、隙間だらけの社殿からは丸見えだ。

 けど、裏側はさすがに見にくい。

 ということで、私は社殿から出て、身を隠しつつ、彼の様子をうかがった。


 さほど時間をかけることなく、我妻は洞窟の近くにたどり着く。

 番頭さんの連絡があったからか、入り口には姫がスタンバっていた。

 

 私に続いて、我妻も彼女に気付いたのだろう。後ろ姿でも分かるぐらいテンションが上がっている。どうやら昨日の幽霊云々は、姫のことで正しかったらしい。

 あれだけゼイゼイと言っていたのに、鼻息荒く、洞窟へと走り出していくその後ろ姿を唖然として見てしまった。


 「よっ。」

 そんな呆然としていた私の横にはいつの間にかタツ。

 軽く声をかけるとともに肩を叩かれた。

 タツの顔を見ると、目が合った。と、同時に、軽く頷いて、ちょっとした酩酊感。

 思わずよろけた私の肩をタツが抱いてくれて、転ばずに済んだ。

 そのまま顔を上げると、私は、ザ・日本庭園というような、そう、武家の庭、とでも表現するような庭の片隅に立っていた。


 私たちは、広い空間の取られた中央、ではなく、片隅の木々の合間にいた。

 が、その広い空間、には、唖然とした顔の我妻氏、と、土蜘蛛の姫が向かい合って立っていた。


 「あ、あの、こ、ここここは?」

 「フフ。龍神様から聞いてませんか?」

 「いや、あの、え、ええ?」

 狼狽える様子の我妻氏を姫が静かに見守っている。

 昨日のあの根性ありそうな様子はどこへ行ったのだろう。顔を耳まで真っ赤にして、モジモジしている。

 「あの、お、お姉さん、その、あの・・・」

 お姉さんって・・・・どう見てもあんたの娘さんぐらいにしか見えないんだけど。

 いやいや、こういうことは笑っちゃいけない。良くあることだ。前世では長寿の種族や逆に短命の種族もいて、見た目だけで年齢なんて想像出来なかった。目の前で起こっているのもその類いだろう。土蜘蛛=あやかし、なんて種族が、人間と同じような寿命とは限らないんだから。


 「はい。」

 姫は、そんな我妻氏の様子を静かに見守りながら、微笑んで対応する。

 「あの、僕は、その子供の頃あなたに助けて貰いました。」

 「ええ。」

 「その、僕は、化け物に襲われて、足を踏み外して・・・」

 「その化け物、というのは、大きな蜘蛛だったんじゃないですか?」

 「え?は、はい。そうです。でっかい化け蜘蛛です。」

 「その・・・・その蜘蛛は本当にあなたを襲いましたか?ただあなたが驚いただけではありませんか?」

 「え?」

 「どういう風に、襲われたのでしょう?」

 「・・・・・わかりません。・・・その、僕は、よくいじめられて、それでその時にここに逃げてきていて。・・・だからここは僕の大切な場所だった。いつも座っていた場所。そこに・・・化け物がいたんだ。僕はビックリして悲鳴を上げかけて・・・そしたらそいつに見つかって・・・こっちを見た!燃えるような真っ赤な目で僕を見て、僕はそれで体が動かなくなったんだ。でも、頑張って震える足で後ずさって・・・・気がついたら、谷から落ちていて。お姉さんに抱きかかえられていた。」

 「そう。そうですか。それでは・・・」

 その時、伏せ目がちだった姫がキッと目を上げ、真正面から我妻の目を見た。

 「それでは、あなたが勝手に驚いて、後ずさって、落ちた、・・・だけですよね。」

 にっこり笑う姫。

 離れている俺の背中にもツーっと汗が伝わった。


 ゴクリ。

 我妻は、その視線を外せずに、固唾を飲む。

 「違いますか?」

 我妻は首を横に振った。はじめはゆっくりと、そして、狂ったようにブンブンと頭を振る。

 「そうですよねぇ。化け物があなたを襲った、という事実はなかったんです。そうですね。」

 今度は縦にブンブンと頭を振る。

 「あなたは勘違いで、ここに化け物がいて、それを払おう、とでも思ったんですか?」

 「違う!それは違う!確かに開発すれば、化け物が住みづらくなるなんてのは、この業界じゃ、常識だ。だから開発によって、化け物がいなくなるかもしれない、そう思ったのは事実だ。だけど、違う!僕は、・・・僕はあなたを、解放して上げたかったんだ!」

 「私?」

 「そうです。あなたは龍神に捧げられた供物、だったんですよね。龍神の力でこんなところに貼り付けにされてる。僕はあなたを解放して上げたかった。どこかにあるあなたのご遺体を探し出し、きちんと眠らせて上げたかった。そのためにここいらを買い取り、開発、という名の発掘をしようとしたんです。」

 「・・・・あなたは間違っています。」

 「なんで!あなたが犠牲になることはない!」

 「いいえ。そもそもそれが誤解なんです。あなたは、私のことを死した人間、すなわち幽霊だ、そう思っているんじゃないですか?」

 「・・・違うって言うのか!」

 「ええ、違います。私は人間じゃない。一種のあやかし、と呼ばれるモノです。そして龍神様は、他の地の開発で行き場をなくした私たちをここに匿ってくれた恩人です。あなたがた龍神村の人々と同じように、龍神様の加護のもと、かろうじて生命を保っているモノです。」

 「!???・・・そんな・・・」

 膝から崩れ落ちる我妻氏。

 それを悲しそうな目で見る姫の姿。


 「すべてはあなたの勘違い。あなたもあたしたちを、流浪の民へと追いやるのですか?」

 「そんな・・・そんなことはしない。僕はただあなたが・・・」

 「もし私のことを思ってくれるなら、そうっとしておいてくれませんか?少なくとも、この洞窟と神社だけでも、お願いします。」

 姫は深々と頭を下げた。

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