第24話 開発計画阻止計画(8)

 「うわっ!」


 我妻邸を後にして、番頭さん運転する車で宿に戻った私は、2人と別れて、そおっと、宿の中へと入った。

 タツが、みんなが寝ているように術をかけてるから安心せいとか言っていたが、大きな物音を立てると起きるかもしれない、そう思って静かに入館したんだけど・・・


 「うわっ!」と思わず小さく叫んでしまったのは、まさかのロビーに人影が見えたから。

 ロビーに並べられたソファの1つに誰かが座っている。


 「シシシ、お帰りぃ。」

 「な、中川、さん?」

 「シシシ、びっくりした?みんな寝てると思った?シシシシ・・・」

 いつもと同じ雰囲気だけど、なんかいつもよりももっと不気味で、ってお友達のことそんな風に思っちゃいけないわ、と詩音は、思う。


 「ほらこれ!」

 中川さんが左手の手首を見せてきた。

 彼女はいつも複数の数珠ブレスをしている。

 私がそれを見ると、握っていた左手をパッと開いた。

 なんの石か知らないけど、黄色っぽい色の、切れた数珠ブレスを、親指と人差し指で挟んでいるのが見えた。


 「あぁ、気にしないで良いよ。これ、お守りね。呪いとか邪法とか、とにかく私を害するものから一度だけ守るお守り。これがね、切れたと思ったらみんな寝ちゃったみたいでね。シッシッシッ・・・」

 えっと、タツの術を防いだ?

 「そしたらね、なんか詩音ちゃんが起き出して、しばらくしたら車の音。んもぉ、ワクワクが止まらないですよ、シッシッシッ。」

 「えっと、あの・・・。」

 「あ、気にしないでください。あっと、座りませんか?」

 ニカッと笑って、自分の前の席を指さす。

 私は、中川さんに視線を向けたまま、そのソファに腰を下ろした。



 座ったはいいもののどうしよう、と、頭を悩ませる。

 悪いことをしたわけじゃないけど。・・・て、悪いことしたよね?住居侵入とか器物損壊?ひょっとして恐喝も?

 やばっ。言えない・・・


 「えっと、神社のことやってきたのですよね。シッシッシッ・・・なんか脅したり、とかできました?」

 「なんで・・・」

 「あー、その、詩音ちゃん、霊感強い系ですよね。実は私も、です。」

 「え?」

 「私のひいばあちゃん、中川梅子って言うんですけど、知らない?知らないですよねぇ。そこそこ有名な霊能者っていうか、預言者?的な、そんな人でぇ。なんか、母方の方は、たまぁにそういう霊能者が出る家系、ていうか。あ、ちなみに中川は、母方の姓です。ずっと旦那を迎えてる家系、ていうか、そんな感じ。て、今更?いまさらなのかな私?シッシッシッシ・・・」

 ぽかぁん、です。


 中川さん。

 オカルト好きの不思議ちゃん。たしか中学からオカルト研究会、なんてのに入ってたはず。

 小学校からずっと一緒、とはいえ、あんまりしゃべったことはない。

 私がなんていうかちょっとトロく思われてて、早口で話されるとなかなか入っていけない子だったっていうか、正直前世を思い出してから、変なことを口走らないように、慎重になっていたら、無口な子扱いになっていたっていうか・・・

 まぁ、そんなことはいい。

 私と中川さん自体はそんなに仲が良いとか、おしゃべりをする、って仲でもないんだけど、いつの頃からか双子と仲良くなってて、気がつくといっしょのグループ内にしれっといたっていうか。なんか、なんとなく一緒にいる人、としてもう長いかもしれない。

 けど、今言ってたみたいな話って、初めて聞いた。っていうか私が知らないだけ?


 「あっとぉ、この、我が家は霊能者の家系で私は隔世遺伝の霊能力者だ、って言うのはオフレコで。てか、厨二満載でしょ?シッシッシッ。黙っててくれたら、詩音ちゃんが霊能者で、力を見初められて龍神様に連れ回されてる、なんていう、私以上に危なそうなお話しもオフレコにするっていうか、どうでしょ?」

 「あ、その、龍神って・・・」

 「タツ様、この村の龍神様でしょ?シッシッ。そういうのも分かるんで。てか、この龍神村って業界じゃ、相当メジャーっていうか、ふつう分かるっていうか・・・」

 業界ってどこぞの?

 てか、ふつう、って何?


 「ま、そういうことで、同士、ってことでいいよね?」

 ニコッ。

 ・・・・

 中川さんが、右手を差し出してきた。

 握手?ってこと?

 おずおずと、その手を握る。

 と、同時に初めて見るような屈託のない笑顔で、ブンブンと手を振られた。


 「いやぁ、緊張したよぉー。もうずっと、詩音ちゃんにカミングアウトしようと思ってたし。苦節ン年。中川友香、ついにやったよぉ。ひいばぁちゃん見てるぅ?」

 高っ。テンション高っ。こんなキャラだったの、この人?

 「ひいおばあさんって、その梅子さん?」

 「そっ。そうなのよぉ。てか、会ってくんない?」

 「え?幽霊に?」

 「は?へ?あぁ。ハハハハ、受けるぅ。違う違う、ひいばあちゃん生きてるよ。もうピンピンしてる。90超えて詩吟とかバリバリやってるし。」

 「はぁ。」

 「えっとね、はじめはね、ひいばあちゃんに詩音ちゃんの側にいなさいって言われたんだ。小4の時だったかなぁ。それから、ずっともう詩音ちゃんしか見てなかったよぉ、シッシッシッ。まじかわゆい、って、もう、今日私、人生で一番嬉しいです。」

 な・・・・

 どう、反応するべき?これ・・・


 「とまぁ、それはいいでしょう。で、どうなったの、開発業者?」

 「え、その、明日ちょっと洞窟に呼んだっていうか・・・」

 「洞窟?てことは、あそこにいてたあやかし関連かしら?」

 「へっ。そんなこと分かるの?」

 「まぁ、何かいそうな気配してたよね。それも相当な数、奥にいそうって感じたけど、違う?」

 「えっと・・・ちが、わない・・・」

 「そ。じゃあまだ片付いてないってことね。明日、って、今日のことよね?みんなには内緒?だったら友ちゃんにお任せ、ってね。」

 「あ、うん。」

 「てことでももうすぐ朝だけど、ほら、ちょっとぐらい寝よ。いくら若いっていっても、お肌に良くないもんねぇ、シッシッシッ。」


 中川さんは、すくっと立つと、私の手を取り、私は引っ張って女子部屋へと連れて行かれた。

 私は、手を引かれるまま部屋に入り、寝静まっているお姉ちゃんたちの横の布団に潜り込んだのだった。

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