記録 8ページ目

俺は、アホな人の部屋の玄関で立ち尽くしていた。


「……えっと、なんすかここ」


「えっ? 私の部屋だけど」


「すみません、帰りますね」


「ちょっと君、言ってることが違うよ!」


今はもう昼の2時頃。病院を出たのが11時頃だったためお昼ご飯を外で済ませた俺たちは、まず手始めに部屋の片付けからすることにしたのである。


途中から学校に行くことも考えたが、俺が精神的に疲れたため今日は一日休むことにした。


ところが、このアホな人の部屋はなんか、もう、うん。

端的に言うと部屋ではない。人の住める環境ではない。つまり、ここが部屋だとぬかすこの人は人ではない。


「俺はあんたが人だと思ったから手伝うって言ったんです。俺に未確認生物を手伝う趣味はありません」


「おぉ、未確認生物ってなんか夢があるね」


「俺、思いっきりあんたを罵倒したんっすけど!?」


駄目だ、この人。ほんとダメだ、この人。


「……片付けましょうか」


「おー! がんばろう」


まず、部屋には人がまともに入ることができるスペースが無いので、俺の部屋のドアとこの人の部屋のドアを開ける。


この人の家に捨てるものを置いておくスペースがないから、一時的に俺の部屋にこの人のいらないものを置いておくためである。


俺、今朝こんなに汚いのによくなんとも思わなかったな。


「じゃあ、俺の部屋に3つ袋を置いておいたんで、いらないもの、いるもの、迷うものにわけてください」


「あいあいさー!」


ここからこの人のアホっぷりが存分に発揮されることになる。


「この牛乳の賞味期限一年前なんですけど」


「えー、そんなところに牛乳あったんだ。いるものの袋に入れてくるねー」


「待て、待て、賞味期限一年前なんですけど?」


「一年前なら大丈夫でしょー、賞味期限って味が悪くなるだけでしょ?」


「一年前ってことは夏も放置してたんですよね? ちなみにこの牛乳、冷蔵庫に入ってなかったんで常温ですよ? 真夏に」


「……冷蔵庫?」


今この人、語尾にはてなマークつけた?


は?


「あぁ、冷蔵庫ってあの冷やすやつね! 実家にあったわ」


「そういえばこの部屋の冷蔵庫どこですか?」


「ん? ないよ〜」


……冷蔵庫がないだと? ゴミの山に埋もれて見えないだけだと思ってた。


「冷蔵庫がないのに、なんで牛乳買ったんですか? 1リットル一日で飲むつもりだったんですか」


「冷蔵庫と牛乳になんの関係があるの。冷蔵庫は冷えたものが欲しい人のためにあるんだよ」


「確かにそれもありますが、食べ物を腐りにくくするためでもあります」


「あっ、そうなの?」


ふざけてんの、この人。さっき未確認生物って言ってごめんなさい。未確認生物に失礼だわ。


「片付けが終わったら冷蔵庫買いに行きましょうか」


「わーい、買い物だー!」


子どもかよ。精神年齢どうなってんだよ。




というか、どんな生活したらこんなにアホになれるんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る