記録 7ページ目

今、俺は椅子に、先輩はベットに座り見つめあっている。


これだけ聞けばドラマのような素敵なシュチュエーションに思えるかもしれない。

だが、相手はあのアホな人である。


「……俺が何を言いたいのかわかりますか」


「……わかんない」


一発、いや五発は殴っていい?

俺は、今すぐにでも振り上げたい拳を抑えた。これが俺みたいに寛容な人間でなければ、今頃この人はボコボコにされているだろう。


「何食べたから倒れていたんですっけ?」


「3日前のおにぎりを食べたの」


「おにぎりはどこに置いていたんですか」


「窓の近く。ぽかぽかしてたから温まると思って」


馬鹿なの? アホなの? 脳みそスポンジで出来てるの? あっスポンジに失礼だわ。


「それで食中毒になったと」


「ホットミルク飲もうと思って窓辺に置いてあった牛乳も飲んだよ」


ダメだわ、この人。アホの子ってレベルじゃないよ。アホの子に失礼だわ。


「……それでお腹痛くなって倒れたところにケチャップが置いてあったと」


「片付けるの面倒くさかったんだもん」


「倒れる場所を考えてください」


「お腹痛くてそれどころじゃなかったの!」


もう、今すぐ帰っていいかな。疲れてきた。救急車に同行したせいで中学初めての授業の日なのに休んでるんだわ。

さすがにお隣さんが死ぬのは嫌だからこうして説教してるんだけど。


帰っていい?


「で、あの野球バットはなんなんですか」


「あぁ、あれは発砲スチロールで作ったの。上手でしょ」


「今すぐご先祖さまに会いに行くことをおすすめします」


会えるの、すごいねぇ! とか言って感動しておりますが、いっぺん死んで来いって意味ですよ。頭の中お花畑なんですね。


「ていうか、あんたなんで一人暮らしなんですか」


「あー、親が私たちが死んでも生きていけるように今から一人暮らししなさいって」


「まぁ確かに今、現時点で一人暮らしして死にかけてますもんね。昨日のボヤ騒ぎとか」


「いや、あれはほんとにごめんね!? また起こしちゃって」


どうすればいいのこの人。このままだとこの人が1人アホな死に方をするバッドエンドしか見えないんですけど。


俺は頭をフル回転させ、ひとつのバッドエンド回避方法を見つけた。


「あなた、生活能力向上を死ぬ気でやりませんか」


「死ぬのは嫌だけど、まぁ必要だろうね、生活能力」


「まぁ、確実に今のあなた1人じゃ無理なので……」




そして俺は中学生活をドブに捨てる一言をこの時言ってしまうことになる。





「俺が手伝いますよ、あなたの生活能力向上を」






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