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 香織は役者だった。法に関わる仕事に就く瀬戸家の人間の中ではイレギュラーな存在で、親族から疎まれていた。

 彼女は嘘と狂気で充ちている。そして危険を顧みない演技をしていた。メソッド演技法、というものをご存知だろうか。経験をそのまま演じる方法。専門家曰く、「人のトラウマを呼び起こしたり、完璧を求めるあまり、何としても『 体験 』しようとしてしまう可能性がある演技」らしい。

 彼女はまさにその悪い例であった。人を洗脳し、殺人教唆をしたのだから。人を意のままに操って、自分の思考にしてまった。そして殺人を犯す。自分の利益の為だけに。

 お騒がせ女優の名がよく似合う彼女は、世界の視線を虜にした。あらゆる意味で。

 テレビを付ける。相変わらず、彼女は画面の中で美しく笑っている。人に恐怖を植え付けるのは、彼女にとって至極簡単なことなのだろう。

 彼女の嘘が数秒流れて、本来のニュース番組のセットに戻る。『こんなに輝く彼女が何故?』といった題を掲げ、議論を繰り広げている。

 「……馬鹿みたい」

  考えたって、彼女の裏側が暴けるわけが無い。家族にも見せなかった所なのだから。見抜けなかった私たちに彼女を語る権利など、ありはしない。


 暫く、ただテレビを眺めていた。一時間ほどみっちり議論した箱の中の住人は、勝手な解釈を結論付けた。『瀬戸香織は我々の為に、最高の演技をしようとした。そして道から外れてしまった。我々は彼女を信じよう。彼女が帰ってくるまで』と。

 なんて、浅はかで醜いのだろうか。

 押し付けてしまっているから、本当に綺麗なものも見失ってしまうのだろう? そんな疑問は解決されない。この狭い部屋で静かに廃れていくのだ。

 あぁ……なんて。


 「馬鹿なのかしら、ね」


 知るはずも無い。そうでしょう? 義姉ねえさん。

 

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