眼をそらしたら負ける……!

 翌日の放課後。


「第一回、新ボドゲ部活動をここに開きます!」


 部室に4人が揃うや否や、翠川先輩が声高らかに宣言しました。


 たった今やってきた安居院先輩が、鞄を置きながら苦笑いを浮かべます。


「テンション高いな」

「そりゃあ、記念すべき第一回よ? 部長である私は、場を盛り上げる義務があるの!」

「部長だったんですか、翠川先輩」


 どちらかと言うと、落ち着いている印象の安居院先輩の方が適任のような思いますが……。


「安居院君より、私の方がしっかりしているから当然よね」

「さりげなく俺をディスるな」


 得意顔で腰に手を当てる翠川先輩、可愛い。

 頭撫で撫でしたい。


「んで、何やるんだよ?」

「ふふん」


 ドヤ顔のまま、翠川先輩は会議室に常設してあるホワイトボードの後ろに回り込んでペンを走らせます。

 一通り描き終わると、「バァン!」と音を立てながらホワイトボードをひっくり返しました。

 ……うまくひっくり返らなかったので、「あわわ」と角度を調整していました。


「……これよ!」

「おう」


 少しだけ恥ずかしそうに顔を赤らめながら、改めて「バァン!」とホワイトボードを叩きました。


(……手、痛い)


 何でもなさそうに振る舞っていますが、手は痛いようでした。


「好きなもの当てクイズ、ねぇ」


 安居院先輩が、ホワイトボードの文字を読み上げます。

 翠川先輩の心の声が聞こえる私は、どんなゲームか、何となくですが理解はしました。


「どんなゲームなんだ?」


 チャチャが聞きます。


「簡単よ。まず、それぞれ自分の好きなものを、周りに見えないように紙に書いて、他の人に渡すの」

「ふむふむ」

「そしたら、自分の紙を他の人にだけ見えるように頭の上に掲げて、質問をしていくのよ。他の人は、それに対してイエスかノーで答えなきゃいけないの」

「なるほど、何となく読めてきたぞ。他人に自分の好きなものを当てさせるゲーム、だな?」

「……安居院君の癖に察しがいいわね」

「一言余計なんだよチビ」

「あ?」

「お?」


 唐突に顔を突き合わせて睨み合うお二人でした。

 ほんと、この流れ好きですね、この二人。


(あわわ、安居院君の顔がこんな近くに……! 目、目を逸らしてはいけないわ! だ、だって!)

(や、やばい、近すぎる! は、恥ずかしいぞ……でも、先に逸らすわけにはいかねぇ……!)


((先に目を逸らしたら好きだってバレる……!))


 馬鹿可愛いなぁ。


「ツ、ツッキー、鼻血出てるぞ? ほら、ティッシュ!」

「ありがとうございます、チャチャ」


 私はティッシュを受け取って、お礼をいいます。

 このまま眺めていてもいいのですが、しかし、このままでは話が進みません。

 今日の目的は、あくまで親睦を深めることですからね。

 ………それに、私、ちょっと思いついてしまいました。


「紙は、どれを使えばいいですか?」


 ひとまず話を進めようと、私は聞きます。

 良いタイミングだとばかりに、二人はこちらへと顔を向け、顔を離しました。


「ち、違うわ。一応、誰が書いたかわからないようにするためにパソコンを使うのよ」


 そういいながら、翠川先輩は部屋に備え付けてあったパソコンを指さします。

 その隣にはプリンターまで完備されていました。


「なるほど」


 私はそれを見ながら、うなずきます。

 どうやらこの無駄に広い部室は、会議室の役割もあるようで、スクリーンに映す用に共用パソコンが一台置かれているらしいですね。

 多分、先生同士の会議とかで、使うのでしょう。


「それじゃあ、早速、それぞれソフトを使ってプリントアウトしていきましょうか」


 翠川先輩が、パソコンの電源を入れながら言います。

 さて、楽しい楽しい、好きなもの当てクイズのお時間ですよ。


―――――――――

次回、翠川・安居院視点

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る