第四夜 家族旅行

「今年も夏の休みがやってまいりました!いつものこの旅館で家族全員サマーバケーションであります。拍手!!」


わー、パチパチパチパチ!!


「毎度の事ながらオヤジのテンションが高いなあ」


「それでは点呼を取ります。じいちゃん」


「おう」


「ばあちゃん」


「はいな」


「母ちゃん」


「はーい」


「健介」


「ハグハグ」


「お前何一人で勝手に食ってんだよ」


「そしてわしー。はーい」


「これで五人全員揃うたようじゃな」


「ひい、ふう、みい、よう、いつ、むう・・・むう? じいさん一人多いんじゃないかね」


「お義母さん、そんなバカな事無いでしょう。1・2・3・4・5・6。あらま、ほんとだ六人いるわ」


「どれどれ、いち・にい・さん・しい・ごう・・・・ろくぅ?やっぱり六人おるのう」


「シュポン。ドクドクドク。グビグビグビ」


「どう言うこった、一人多いって。おい健介お前、何一人でビールあけて飲み始めてるんだ。乾杯するまで待てよ」


「健介。みんな一人多いって言ってるのに何勝手にビール飲んでるんだ。本当にマイペースな奴だなあ」


「ねえあなた。それってやっぱり座敷童っていう事じゃないの。名前は有ってるのに一人多いってお話聞いたことがあるわ」


「そうか、座敷童か。それなら縁起物だから良しとするか。じゃあ乾杯しよう。カンパーーーーイ」


「って何オヤジ俺を無視して乾杯してるんだよう。健介も手酌で飲んでるんじゃねえよ」


「グビグビ、ㇷ゚ハーー」


「ああ健太、居たのか。お前影が薄いから忘れてた」


「オヤジ、長男に対してひどくないかその言い草は」


「グビグビ、そういえば兄貴は影が薄くてコンビニの自動ドアが開かなかったもんなあ」


「開いたわ! 開かななったのは五回に一回くらいだわ!」


「ホントに影が薄い子じゃったなあ。六人目が健太だってすっかり忘れてたわ」


「ばあちゃん、それってひどくねぇ」


「でも健太はその影の薄さを生かして美味しいところは全部持って行ってたじゃない。ケーキでもお寿司でも誰より多く食べてたしねえ」


「モグモグ、俺が早飯になったのも兄貴のせいだよなぁ。影の薄さを武器に俺の分まで食べてやがったからなあ。そのくせ嫌いなものはいつの間にか俺の皿に移ってるんだよな」


「母さんの言う通りだぞ、健太。影が薄くて忘れることは有ってもお前に不自由させた事無かっただろう」


「へーい。そうです。お年玉もちゃんともらってました」


「なあ健太。そのお年玉、わしから二回とった事が有ったよなあ。影の薄いのを利用して」


「そっそんな事もあったかなあ」


・・・・・・・・・・。


「結局、毎年恒例のお盆の家族旅行も俺一人に成っちゃったな。じいちゃんとばあちゃんは大往生だったけど、父さんも母さんも逝くのはちょっと早すぎたよな」


「兄ちゃんは影が薄かったから居ても居なくても変わらなかったけど、そのせいで三十童貞の魔法使いだもんなあ。皮肉だよなあ。生前影が薄かったのに死んでから有名人だもんなあ」


「暴漢から児童五人を救った勇気ある青年って、三十童貞の魔法使いだぜ。死んでから有名になるくらいなら影の薄いままで良いから生きててくれた方が俺としては嬉しかったよ」


「あっ、そうか。お盆だしみんな帰ってきてるのかな。じいちゃんもばあちゃんも父さんも母さんも。みんな、今年から兄ちゃんがそっちへ行ったから、影が薄いけど忘れずに面倒見てやってくれよ」


「この世じゃあ町の英雄で、俺の自慢の兄ちゃんになったんだからな。モグモグ、グビグビ」


「なあ兄ちゃん、あの世でもやっぱり影が薄いままなのかなぁ」

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しあわせのお宿 ヌリカベ @nurikabe-yamato

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