第10話 あまりにも濃すぎる一日

 ギクッ!!

 あれ? ちょっと詳しく話しすぎたか? 私と会うのは何回目だって? えーっと……。


「スーッ……初めて……ですけど?」


「嘘をつけ。恐らく二回目だな? もし三回以上私と会っていたなら、"私と全く同じ言葉は使わないはずだ"。

 二回目があり三回目があると言うことは、私の言葉を使うのは失敗だった。と言うことになるからな。私が貴様の能力を持っていたら、間違いなくそうする。


 そのように考えるならば……貴様、素人を装うために大分私の言葉を噛み砕いたな?

 恐らく……一回目の時に私は貴様にこう言っただろう。"私の言葉を一文一句全て覚えろ"と。

 一回目に私の言葉を覚え、二回目に私の言葉を使った。つまり私の性格からすれば、貴様の能力を利用して、道具のようにこき使うからな。

 そうじゃなきゃ、本当の素人が私の考える作戦内容をここまで意識して覚えられるわけが無いだろう」


 うわああああ! 完全にバレてるうううう! てかこのリーダー。どんな頭の回転の仕方しやがってんだ!!

 いくら現状はただの想定だからって、ここまで俺の行動を当てるか!?


「や、やだなぁ〜。制圧戦で、敵を殺すなと言われたら素人でも考え得ることでしょ」


「ほう? 誰に言われたんだ?」


「ギクゥッ!? あ、はい。すみません二回目です……」


「素直でよろしい。それでは話は以上だ。こいつの言う通りに作戦を実行する」


 ちょ、リーダー。それは不味いのでは? 二回目と言えど実質会ったのは一回目としか言いようが無い。

 しかも素人だってことは本当ですよ?


「リーダー。そいつの話を信じるんですか?」


「信じるも何も、私が考えた作戦と同じだからな。二度も長ったらしい内容を聞きたいのなら喜んで教えてやる」


「いいえ、大丈夫です。了解しました」


 と、いう訳で以上で解散となり、それぞれ準備が整い次第、指定位置に集合という話になった。

 ならば俺はそこで空かさずリーダーに言う。


「リーダーってなんて名前なんすか?」


「ん? あぁ、教えていなかったのか。私の名前はウェルス・シルフィード。ウェルスと呼べ。

 貴様は何という? まぁ、次回になったら忘れていると思うが」


「俺は死際しにぎわ 玄人くろとだ」


「シニギワ・クロト……貴様の言葉では随分と不吉な名前だな」


「まぁな。良く言われてたよ」


 死際玄人。死際で本気になれる人間とも読めるが、そもそも死際なんて苗字はどこにも無いだろう。

 もしかしたら昔の祖先は、読みだけ同じでも書き方は違ったかも知れない。だがどこかで、どうしてかこうなったんだ。由来は全く聞いたことが無い。


「ま、これで互いの名前が分かったことだし、そろそろ寝かせてくれ。

 俺、過労になると死ぬから」


「貴様の能力は聞けば聞くほど不思議だな。一体どれだけの死因があるというのだ。

 過労死など我々でもあり得ることだが、過労と断定した時点で死が確定するとは……。

 貴様の身体がとても弱いのか、それとも能力の呪いとでも言うのだろうか。

 まぁ良い。どうせ私が知る以上は話してくれないのだろう? 寝床なら王宮の物を使わせてやる。

 なに、言い訳ならいくらでも思いつくからな」


「お、それはありがてぇ。ふわぁ〜あ……。五回の拷問繰り返しから心労が凄まじいぜ。

 全く、心労では死ぬことは無いとか。それだけで救いだ」


 俺はそれからウェルスと一緒に会議室を出れば、すでにそこは王宮の中で、兵士の休憩室まで案内された。

 部屋の名前を聞く限りはあまりいい寝床では無いと想像するが、そんなことは無く。

 ふかふかで気持ちのいいベッドがあった。


 うっひょお! こんなベッドは転生以来だぜ!

 これは今まで以上に良く眠れそうだ……。


 俺はベッドに飛び込むと、その羽毛布団の心地さといい、弾むたびに分かるいい香りに、疲れた体に一気に眠気が襲ってくる。

 いびきをかいて寝るまでに一分も掛からなかった。


 ──────────────────

 《セーブが完了しました》

 《特殊条件達成。全耐性に+1を獲得》

 ──────────────────


 時間不明。

 俺はふと目を覚ます。今何時だ? 窓一つもないせいでなんか変な感覚だ。まぁ、身体の疲れと心労は大分回復したと思う。


 そのほぼ同時に寝室の扉が開かれ、ウェルスが顔を覗かせてきた。


「目が覚めたか? まだ夜中だが、そろそろ行くぞ。準備が出来たら外に来い」


「うーす」


 準備もなにも、顔を洗う洗面台なんて無いし、着替えは転生前に来ていたこの白のTシャツと、ベージュのズボンだけだ。

 と言っても実はここまでに一日しか経っていないから、不思議と気持ち悪さは無い。


 俺の転生直後は木の枝や日差しの苦しみから始まった。

 実質半日で例の人のテントを発見し、何とかそこで一日を過ごした。


 そして実質その日の昼間までにエルフ族の都に到着し、実質その日の夕方までに言語を理解する。

 そして夕方から日が暗くなりかける時間までに五回の拷問を繰り返し、一度は夕方に作戦を実行するが失敗死亡

 それで今回の五回目でようやく夜になった訳だ。


 濃すぎる……一日が濃すぎるよぉ!!


 とまぁ、心労は凄まじいせいで、その疲れが体に来ているだけで、夕方から夜中にかける短時間の仮眠で疲れが取れてしまった。ということになる。


 何だろう。ひでぇなぁ……。


 俺は準備という名の何もせずに部屋から外へ出れば、ウェルスは腕を組んで壁に寄りかかりながら待っていた。


「よし、行くか」


 俺はウェルスと一緒に都を出て、また例の森に戻ってきた。

 次こそ作戦を上手くやらなくてはならない。あんな長ったらしい説明は二度もしたくない……。

 あぁ、ウェルスの言う通りだ。もし三回目があったなら、同じ言葉を言うはずが無いって、こういうことを言ってたのかな?

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死ぬたびに少しだけ成長するけど、肉体は愚か精神ダメージでも即死。そんな男の異世界冒険者譚 Leiren Storathijs @LeirenStorathijs

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