第8話 死ぬより、殴られる方が怖い

 俺は拷問部屋から解放され、相手のスパイ問題を解決するべく、取引成立したか分からないけど、なんとかして相手の上層部らしき人がどこかの部屋に連れてきてくれた。


 まぁ、もちろんその間は目隠しされて、耳栓もされてた。

 そしてそれは到着後も解いてくれない。


「あの〜……ここはどこですかね?」


 解放してくれた男の人の声が、耳栓を外してくれたことで判別出来る。


「死にたくないなら出来る限り黙っているのがお利口だぞ? 

 私は貴様の力を部下の説明と貴様の言葉である程度理解した。

 つまり私は貴様の唯一の理解者であることを知れ。

 お前が無駄口を吐いて、別の誰かに殴られない保証は出来ん」


「ア、ハイ、スミマセン」


 と言う訳で俺はお口にチャックすることを決めた。死ぬことは最早慣れているけど、殴られて時間が巻き戻るのは勘弁なんです。

 ただ黙れば殴られないという保証すらも無いけれど、確率は大分下がるだろう。


 だから俺はとにかく耳を澄ませる。相手の情報をとにかくかき集めるんだ。

 目は見えないからむしろ神経が集中して好都合ってか?

 あまりの緊張で腹を下さないかが心配だよ。

 そうならないように、とにかく深呼吸だ。ふううううう〜。


「よし、全員集まったな。既に事前情報は私が伝えた通りだ。

 こいつが現在スパイ疑惑のあるどこぞの人間だ。なにか協力してくれるらしいが、信用はするな。


 さて、今回の作戦は現在判明中の人間陣営の調査だ。そして同時に制圧する。

 出来る限りは殺しはするな。これは、この人間スパイによる宣戦布告なのだ。

 相手がそのつもりなら、こちらも多少の攻撃は許されるのが筋ってもんだろ。


 あくまでも制圧してからの調査。抵抗するなら無力化を徹底し、それでも無理なら殺せ。

 それこそ向こうがこちらを一人でも殺すつもりなら、最早戦争の火蓋は切って落とされた言えるからだ」


 さっきからなんか話しているけど、この人実は隊長さんか?

 それなら宣戦布告だの、戦争の火蓋だの言っていることが分かるな。

 そろそろ会議は終了かなと思っている矢先に質問が投げかけられる。


「リーダー。武器は何を使うんです?」


「遅効性神経麻痺薬でも塗った矢で良いだろう。さっきも言ったが無力化を徹底するんだ。これがあれば、人間がすぐに反撃の意思を見せない限り、少し悩んだ頃には身体が動かなくなっている。


 使うのは即効性でもいいが、撃ちどころによっては死に至るからな。それだけはこちらとしても避けなくてはならない」


 リーダーねぇ。すげえなこの人。流石俺の能力をすぐに理解するくらいの頭はあるようだな。

 俺の話を真っ向から理解しようとはしないけれど。


「他に質問はないか? 無いようだな。よし、作戦を開始する! 全員準備が整い次第、作戦地点に集合しろ。解散!」


 そう言えば恐らく五人は行かない足音がバタバタと部屋を出ていく音が聞こえる。

 俺はここで大きく息を吐いた。


「怖ええぇ……」


「さ、貴様もいくぞ。腹は減ってるか? 疲れていないだろうな?」


「な、なんだよ急に……」


「貴様は今回によって私が作った作戦を全て記憶したのだろう? この先のどこかで貴様が死んだ時、お前はきっと出しゃばるだろうな。

 作戦はこうするべきだとか、何があればどう問題なのかを。


 これ以上疑われたくなければ一文一句全て記憶しろ。それが貴様の能力の強みなんだろう? 知っているはずのない、分かっている訳がない情報を事前に知ることで、相手を丸め込ませる。


 作戦考案者としては是非欲しい能力だ……。

 だがまだ死ぬべきではない。お前の死ぬ要因が少しでもあれば私に言え。いいな?」


「おっけぇ〜。あんたとは何度死んでも何故か仲良くなれそうだぜ。

 それじゃあいくとするか。俺は何をしていたら良いんだ?」


「黙って私たちについてくれば良い。制圧作戦とは言ったが、貴様自ら射線に入った時はどうしようもないからな」


「あぁ、うん。俺はそこまで馬鹿じゃねぇよ」


 そうして俺は男に腕を引っ張られながら部屋を出て、初めて目隠しも外してくれた。

 次にそれぞれの準備時間が終えたようで、俺は何と、例の森の中にいた。


 まさか作戦とか言ってまたここに戻ってくるとはな……。


「そういや俺も弓くらいなら作れるんだけど?」


「馬鹿か貴様は。スパイ疑惑の人間に武器なんぞ持たせる訳が無いだろう」


「えぇ、そうですよね。うん」


 そうして森の定位置に俺と男と他の仲間が三人。集まってくる。

 まさか精鋭ってリーダーを含めるたったの四人!? え……!?


「作戦の最終確認をする。まず今回は殲滅ではなく制圧、私が指定した武器を使って出来る限り人間を無力化し、それでも抵抗するなら殺せ。

 次に手順だが……、まずは人質にこの人間を盾に正面から入る。

 貴様には気の毒だが、最悪の場合死んでもらう。殺すのは我々ではない。人間らにだ」


「いやいや、俺も人間だぜ? 捕虜にされている人をそう簡単に殺すか?」


「それはどうだろうな? エルフと人族の緊張関係は互いの水面下にある。

 だがお前はもしかしたら事情も何も知らない、何故かスパイ疑惑を掛けられている謎の一般人。

 人間たちはそんなお前を見逃すだろうか? それに森林のど真ん中だ。人一人殺したくらいで、人間たちになんらデメリットは無いだろう」


「えぇ……? そういうもんなの?」


 途端に背筋が凍る。けどすぐに治る。何なんだこれ……。これが恐怖無効の効果か。まるで感情を無理矢理押し殺された気分だ。


「なるほどね。まぁ、いいんじゃない?」


「ほう? まさか既に死にすぎて頭でもおかしくなったのか? 肝が据わっているレベルではない落ち着きようだ」


「いちいち五月蝿えな。じゃ、行ってくれ」


 俺は男の作戦通りに、今度は両手だけを後ろに縛られながら、ついに人間の陣営。

 恐らく駐屯地か、拠点に侵入する。


「人間ども! ここで何かしらこそこそやったいるのは知っている! 今まではあまり気にしていなかったが、今回は度が過ぎたようだな!」


 男が俺を抑えながら陣営の方へ叫ぶと多分、五十代は超えている濃い髭を生やしたおっさんが出てきた。

 顔の彫りも深く、いかにも厳つい。そして口に咥える喫煙具のパイプが、さらに雰囲気を増させていた。


「なんだぁ? エルフに兄ちゃんたちじゃねぇか。そんな声を張り上げなくても分かるっつーの。

 やり過ぎたって? 何の話だよ」


「とぼけても無駄だ! スパイなんぞ我々に送りやがって。

 ただの物乞いを装って我々の兄弟に近づいたようだが……あまりにも素人すぎた。ただの一般人にしては不自然な点が多すぎる」


「はは〜ん、スパイねぇ。そいつは面白いことを言うじゃねぇか」


 はい俺これから死にまーす! この反応絶対関係無いし、なんかすっげぇおっさんこっち睨んでるし、あー死んだ。俺死んだー。


「面白いだと?」


「あーっとすまねぇなぁ。別にあんたらを笑った訳じゃねぇ。

 俺は別にスパイなんざ送ってねえし、部下が勝手にやったことだ。

 でもどちらにせよ、スパイが捕まっちまったんなら、こちらにメリットは何もねぇ。ここは一つ見逃してくんねぇか?」


 おっさんは一つ会釈をしながら、「ごめんね♪」とか言っているようなおちゃめな表情を見せる。

 怖いいいいい、怖いよおおおぉ!


「部下の躾がなっていないだけの話だったか。ならば今ここで解放しよう。

 ほら、行け」


「え、あ、はい……」


 俺は男に背中を押されて、よろよろとおっさんの元に近づく、そしてあと一歩というところまで近づいた瞬間、意識が飛ぶ勢いで胸倉を掴まれる。

 もうおっさんの息が顔に当たるくらいまで引き寄せられると……。


「あんちゃん、すまねぇなぁ。死んでくれ」


「あーうん。知ってたわ……」


 そういうとおっさんはニヤリと微笑むと、俺の心臓に深々とナイフを突き刺した。

 痛みは無い。ナイフが俺の皮膚を刺激した瞬間に俺は死んでいるのだから。


「おっとっと、疲れて寝てちま……」


◆◇◆◇◆◇


ショック死無効、光属性無効、恐怖無効、言語理解、殴打耐性0.2%、刺突耐性0.3%、食らいつき耐性0.3%、グロ耐性0.1%、精神的苦痛耐性10%、獣耐性0.1%、疲労耐性3.0%、水耐性0.1%


 俺は目を覚ます。また拷問部屋だ。


「目が覚めたか?」


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