第7話 慣れって怖い
「はっ!? あー戻ってきたのか……」
「やっと目を覚ましたか。良いか? これから俺の質問だけに答えろ。素直に答えれば、すぐに楽にしてやる。
嘘はだめだぞ。嘘付いたら痛い目にあうからな」
「はいはい正直に言えば良いんでしょう? 俺は異世界人だ。これが嘘って言われるともう何も言えなくなるから殴るのは勘弁して。
何故物乞いしていた俺が、翌日になったら弓を作れる技術があり、その扱いも達人級だったか。
という問いについても俺は異世界人だからだ」
「質問の前に答えるなッ!! まぁいい。俺の質問したいことが分かるのなら話が早い。つまりお前はこの国のスパイだということを認めているという訳だからな」
スパイ!? よく分かんねえけど、話を続けるか。どうせ信じてくれねぇとは思うけど。
「そんで異世界人で俺は何なんだ? という質問には、俺は不死身なんだよ。あー今殺しても意味ないぜ? 何度でもお前が俺に『気が付いたか?』って質問するところまで戻るからだ。
この能力は相手に察されることなく復活できる能力なんだ。ま、なんて能力かは知らんけど」
「ほう? つまりは時間を巻き戻せるということだな? それなら俺が調べた情報と辻褄が合うな。
お前みたいな農民みたいな見た目をした奴がそんな魔法を持っているとは思えんが、お前はその魔法により、何度も時間を巻き戻し、弓の製作技術と射撃技術を磨いていたというわけだな……。
はぁ……。なら答えろ!! 貴様はそんなことをして何がしたかった!!」
「ただ森を抜けたかっただけだよ! 文句あるかぁ!! ごぶぇッ」
ショック死無効、光属性無効、恐怖無効、言語理解、殴打耐性0.2%、刺突耐性0.2%、食らいつき耐性0.3%、グロ耐性0.1%、精神的苦痛耐性10%、獣耐性0.1%、疲労耐性3.0%
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俺は椅子に座らせられ両手を縛られた状態でまた目を覚ます。これで二度目だが、流石に長々と尋問の質問を聞くのは俺の耳が疲れる。
どうにかしてこの場を抜け出さなくてはならない。
その方法ただ一つ。相手に納得してもらうしか無い。
「「やっと目を覚ましたか。良いか? これから俺の質問だけに答えろ。素直に答えれば、すぐに楽にしてやる。
嘘はだめだぞ。嘘付いたら痛い目にあうからな」」
「「は?」」
「って思うのは俺の能力で聞いたのは三度目だ。どうせ俺が何を言おうがお前らは俺をスパイ呼ばわりするんだろう?
例え森をただ抜けたかったから、何度も時間を巻き戻したと答えてもだ」
相手はあり得ないほどに戸惑っていた。そりゃそうだよな。自分の言おうとしていた、自分の考えを事前に全て見抜かれているように見えるんだから。
「おっと殴るなよ? まだ話は終わってない。俺はあんたを納得させなくちゃならない。これから何百回も時間を巻き戻す羽目になる。
恐らくあんたらは俺をスパイと仕立て上げることで、何らかの悩みを解決したいんだろう? ならば一つだけ取引をしないか?」
「犯罪者が……何が望みだ」
「俺は仮のスパイとして扱ってもいい。ならぼ、その問題。俺が解決してやろう。
勿論お前らも同行させてな。
時間を巻き戻す能力がどんな方法で、何があれば防げるのかってのは、何度説明してもどうせ分からねえ。
だから、そういうことに耐性があり、精鋭で、人間性のある人物を選べ。
俺の能力はある意味無敵だからな」
内心では手伝いなんて絶対にやりたく無い。でもこれはとにかく長い間生き残る方法であり、どうせこの先殴打無効を取っても、また別の方法で俺を痛めつけるからだ。
そんなことやってたら、通算一万回以上は死ぬことになるだろう。無理無理、それこそ心労がとてつもないことになる。
「どうだ? この取引」
「……。俺には決める権利は無い。話ぐらいは通してやる。そこから動くんじゃねぇぞ」
「動けねぇよ」
そう言うと男は俺の拷問部屋の外へ出ていった。
待つこと約一時間。
「ぐがー……すぴー」
「おい起きろ!!」
「ぎゃあああっ!」
ショック死無効、光属性無効、恐怖無効、言語理解、殴打耐性0.2%、刺突耐性0.2%、食らいつき耐性0.3%、グロ耐性0.1%、精神的苦痛耐性10%、獣耐性0.1%、疲労耐性3.0%、水耐性0.1%
どうやら手足を縛られて一時間も何もされないでいると、俺はいつの間にか寝ていたようだ。
そして恐らく冷水をぶっ掛けられたんだなぁ……。
あー、説明めんどくせ……。
俺はまた説明する。
相手は自分にスパイの疑いを掛けていること。
俺は時間を巻き戻す能力で、ほぼ無敵であること。
精鋭を同行させる代わりに、相手の問題の解決を約束すると。
だから上に報告しろと言うことも言った。
「あと行くまえに……飴玉くれ。どうせ時間掛かるんだろう? ちょっと刺激が無いと寝そうなんだよ。
また冷水ぶっかけられて死ぬのはごめんだ」
「お前はつくづく凡ゆることを先読みしてくるな。気味が悪いったら無え。
くそ面倒くせぇ。片腕だけ解いてやる。もう片方は背中に縛る。
ほら、ここに飴玉置いておくから、少し待ってろ」
「やっさしい〜!」
何度もあり得ない回数死に続けているせいか、全てを先読みした上での説明は、相手を無理矢理でも納得させられる。
それで気持ち悪がられても、飴玉をくれる彼の優しさに涙が出そうだ。
「あぁ〜! 飴玉美味え〜!」
「五月蝿え! 黙ってろ!」
そうして多分一時間後、飴玉を舐めすぎて口の中がガビガビになった頃に、上の者らしき人が来てくれた。
そういえばずっと気付いていたんだけど、さっきから出会う人は全てエルフなんだよなぁ。そう、耳長ってやつ。
緑のロープに腰まで伸ばした金色長髪の……男だ。
「貴様が我々のスパイ疑惑のある人間か。どうやら我々に取引を持ち込みたいようだが……、本当に我々のことは知らないのか?」
「知らん」
「なるほど。嘘だな!! まぁいい。どうせ犯人が自分と気付くのは時間の問題だ。
貴様のお遊びに付き合ってやるよ」
この異世界のエルフはめちゃくちゃ排他的で、やばいくらいに人間嫌いだなぁ……。
なんにも事情聞かずに嘘だと決めつけるなんて、自分の信じることに一切の疑いを持たない馬鹿より、流石に笑えてくるぜ。
「ありがてぇ〜……これでもう死なずに済むよぉ……」
「無敵だと話では聞いていたが?
……あぁ、時間を巻き戻すのだったな。確かにそれが本当なら、お前は死ぬたびに時間を巻き戻しているということになるのか?
そいつはご愁傷様だな。
例えお前が現在の問題を解決するキーマンだとしても、同行者に斬られないことは祈っといてやるよ」
「全くそうだ。あんたの顔をこれから何度も見るのもごめんだしな」
「ならばついて来い。おい、縄を全て解け。案内してやる」
俺は漸く縛りから解放されれば、長時間の縛りによって腕や足首についた縄の痕を摩る。
おや、特にこれで死ぬことはないんだな。良かったぁ……。
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