第35話 コドモオオトカゲ

電車を降りると聞いたことのあるメロディーが耳に飛び込んでくる。

なんだったかな、この曲。

東京からおよそ2時間、随分と長く感じられた。

一目見たくてここまで来たのだ。

コモドオオトカゲの赤ちゃん、コドモオオトカゲを。


幼い頃図鑑でその存在を知ってからコモドオオトカゲを実際にこの目で見たいと願ってきた。

しかし現在日本で飼育している施設はなく海外に行ける準備が出来るまで無理かと諦めていた矢先、コモドオオトカゲの赤ちゃんがこの街の小さな動物園に迎えられるという話を聞いたのだ。

駅からバスに乗り換える。

ちょうど開園時間の少し前には着きそうだ。


エントランスの前で待っていると

「あら、学生さん?

どちらからいらしたの?」

受付から出て来たおばさんが話しかけてくれた。

「やっぱりコモドドラゴンを見に?」

頷くと、彼女の顔が一気に曇る。

「遠くから来てくれたのにごめんなさいねぇ

亡くなっちゃったのよ

昨晩遅くにねぇ」

目の前が真っ暗になった。

「本当に悲しいわぁ」

おばさんの声ももうよく聞こえない。


それからのことはあまりよく覚えていない。無意識のうちに重い足取りでなんとか駅まで歩いてきた。

またあの曲が聞こえてくる。

ああ、この曲は。

思い出した。


シャボンだま きえた

とばずにきえた

うまれて すぐに

こわれて きえた

かぜ かぜ ふくな

シャボンだま とばそ

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