第34話 深海生物

友達と大学の学園祭に行く。それも女子と一緒に。

そんなイベントが灰色の高校生活を送っているこの俺に発生するとは正直思っていなかった。

まぁ別に男の友達、オタク仲間は普通に何人かいるのだが、女子とは全く関わり合いのない俺にとっては相当のことである。

その女子というのが川間田さんであるとしてもだ。

川間田さんはその、俺がいうのもなんなのだが見た目は普通に可愛い方だ、と思う。

だが中身の方に少々難があるというか、些か苛烈すぎるところがあるようだ。

男子と喧嘩になっていきなりその男のカバンを窓から投げ捨てたであるとか、制汗スプレーを目に噴射したであるとか、そのような類の逸話をいくつか聞いている。

俺がいつもつるんでいるオタク仲間の大八木とはどういうわけか仲がいいらしく今回一緒に行く運びとなったらしい。

彼らが何故仲がいいのかは本当にわからない。

正直今まで川間田さんのことは気にしたこともなかったがプライベートで会うとなるとこれが悲しきモテない高校生男子の性なのか、何故か意識してしまうものなのである。


いざ集合場所の駅に行くと白いTシャツにパープルのサロペットを着て爽やかに決めた川間田さんが既に待っていた。

すぐに大八木ともう一人のオタク仲間の中坪もすぐに合流し、大学へと向かう。

そうして、早速お化け屋敷に入ろうという時であった。

待ち受けのお兄さんが今から男性何人、女性何人入りますよ、ということを恐らく奥のお化け役の人達に伝えるのだが、間違えて男性が4人入りますよ、と伝えたのだ。

暗かったのと、他の3人の男達の風貌を見てとても女連れとは思わなかったのだろう。

彼女の性格を聞いていたのでこれはもしやと慄きながら彼女の顔を伺うと彼女はただ俯いていた。

表情は暗くて読めない。

お化け屋敷を出ると、素人がやってるにしては楽しかったね、と涼しい顔で褒めすらしたのだ。

その後は適当に屋台で食べ物を買ったりして回っていたが、大八木が学生達の自作ゲームの発表を見つけ中坪と一緒に熱中してしまった。

俺と川間田さんは置いてけぼりになり、話すこともなく手持ち無沙汰だ。

なんとなく気まずい。

その時だった。


「オニキンメ、って深海魚がいるんだけどさ」

「へっ?」

「小さな魚だけど頭が全体の三分の一くらいあって、牙が大き過ぎて口を閉じることも出来ないんだって」

「そ、そうなんだ」

「間抜けな魚」

間抜けな顔をしているのは俺だと思う。

口も塞がってないかもしれない。

「私好きなんだよね」

憂いを帯びた目でボソボソと呟く。

「深海生物」


彼女の意図は全くわからないがどうやらとんでもないことになってしまったようだということは自覚している。

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