第16話 『はんてぃんぐ・びぎにんぐ!』

 合理は火が消えたことを確認して廊下に出る。

 木炭は、かなり熱かった。

 合理が念じると、木炭が崩れていく。

 全身に火傷を負った、渋谷が倒れ込んだ。

「渋谷、生きてたのか!よかった…」

「いや良くねぇだろこの怪我だぞ。お前さては火傷フェチか?」

「違う、そうじゃなくて…」

 合理が渋谷に触れると、火傷がたちまち癒えていく。

「なるほど、それがお前の契術か。」

「うん、そっちは大丈夫?」

「同盟組んでるとはいえ敵に情けかけんじゃねぇよ…、まぁ怪我はない。」

「うぅ…あれ?私は確か…」

 渋谷が目を覚ます。

 自分が人形だった頃の記憶はないようだった。

「どう?体に異常はない?」

「…問題ない。よくわからないけど何となく察しはつく。…ありがと」

 最後は消え入るような声で呟いた。

「おは…そうだ!人形遣いはどこだ!」

 次いで音無と稲葉が目を覚ます。

「もう合理が始末してらぁ。」

「…万事解決」

「出口は犠牲になったけどな。」

 ほんの少しの静寂の後、合理が平に話しかける。

「とりあえず…解散ってことでいいのかな?」

「OKだ。またなんかあったら電話する。同盟関係の間は助け合おうぜ。」

 三人と二人は校門を出たあと、反対の道を進んでいった。




 稲葉がトボトボと歩く。

「…出口」

「気にしてんのか?勝てばOK、だろ?」

「感謝、そして後悔」

「自分がいたら助かったとでも思ったのか?それは奢りってやつだぞ。いいか、アイツもお前もやるべきことをやった。その結果がこれだ。だから後悔する必要はない。」

「…でも」

「でもじゃねぇよ。割り切るしかないんだ…今は。安心しろ。もうそんなことしなくていい世界を創ってやる。だから協力しろ。」

「…了解」








「一つの陣営が…敗退した。」

 自動ドアを抜けた直後、ルシファーが口を開く。

「おう、それはグッド・ニュースだが…それを聞くとやっぱ戦ってるって感じがするな。」

「まぁ武丸ちゃんよぉ、これで俺達がビリッケツつーことはなくなったしいいんじゃないか?テキトーにやって…」

 そう言って桐生はじゃがいもを取る。

「いや勝たなきゃだめだろ!…あ、ジェシカ。じゃがいも、牛肉、豆腐…あとはなんだったっけ?」

「携帯用の非常食ですね。カロリーメイトでいいですか?」

「俺それ好きなんだよなぁ…あ、チョコ味で」

「おじさんはチーズ味で頼むよ〜」




 会計を済ませて外に出る。

「ちょっと待てそこの三人」

 いきなり声がする。

 声をかけた方向には、禿頭の男…堀江がいた。

「おいテメェ何もんだ?」

「まぁ、あなたが神に逆らう愚かな人間なのですね。」

 堀江がキョトンと首を傾げる。

「…何いってんだお前、神なんざいるわけないだろ。そもそも神っつーのは弱い人間が自分を救うために創り出した想像上の存在なんだよ。それに縋ってるのは親のすねかじってるガキと変わりゃしねぇよ。」

 すると、なんとジェシカの目になみだが溜まる。

 そして、それは零れ落ちた。

「ご…ごめんなさい…」

「やーい!泣ーかした!泣ーかした!」

 武丸が煽り散らす。

「えっ…あ、おい悪かった!だからそんなに泣…」

「貴方を本当に救えなくて…ごめんなさい…あぁ、私もまだ修行が足りないのですね。救い難き者は死を以て救済せねば…」

 ジェシカの目つきが更に変わる。

 目には心做こころなしか、十字の光をその場にいた者は見た。

「…まぁやる気か。だがここは人が多い。場所を変え…」

「スーパーと公園の間のビルの壁の間」

「…ッ!?」

 キキーッ!ガシャンッ!

 次の瞬間、ビルを横切ろうとしたタンクローリーが急に方向を変え、ビルに激突する。

 ビル運んでいた石油が飛び散り、辺り一面燃え広がる。

「呰見ッ!?」

 振り返ったのも束の間、堀江はブラックホールに吸い込まれていく。

 慌てて近くの電柱にが、遅かった。

 ジェシカが放った光線が、その状況で避けられる筈もなかった。

「ゴブゥワァ!」

 腹を貫かれて、堀江は苦しみながら事切れた。

「へっ、ザコが!一昨日…来れねぇか!ナッハハ!」

「ふぅ〜、やっぱすげぇわジェシカちゃんは。」

「はぁっ!?俺だって凄いだろ?」

「二人共見事でしたわ。神もお喜びになっていることでしょう。さて、拠点に戻りますか。」

 三人は、談笑しながら拠点に戻っていく。








「なぁ米沢はん、もうそろそろええと思うで?明日からやろうや。」

 発言したのは、赤い髪を長く伸ばした、目つきの悪い女性だ。

 大量の血液を袋に入れて、ポケットに詰め込んでいた。

「お前なぁ、勝つためとはいえこんなことしといてよく平気でいられるな…」

 ため息をつくのは金髪のスーツの男─顔立ちは整っている。

「ええやんええやん、好きなことを仕事にできんねんで。羨ましいやろ?」

「だとしてもやっぱ…怖いです、はい。」

「私は大丈夫です!むしろ待ち遠しくてウズウズしてました!」

 龍崎は目を輝かせている。

「もちろんそのつもりだぜぇ。杉はどう思う?」

「別にいいですよ。後手に回りすぎるのもどうかと思うので。」

「まぁ俺も四日目から動くつもりだったしな。作戦は大体立てた。そして…実戦経験は積んでおきたい。」

 米沢は自信満々だった。

「見てろよアスタロト。お前はこれをお望みなんだろ?」

 三日目が、終わる。

 残り22人

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