第17話 『くろーずど・るーむ!』

 四日目、木曜日の朝。

 建物から少し離れたところにに四人の男女が佇んでいた。

 そこの看板には、『7階▶卯月太陽後援会事務所』と書かれてある。

「真島さん、ここで合ってますか?」

 根岸が高校の制服を着た、黒髪で目を隠した少女に話しかける。

「はい、大丈夫です(返事)。仲間の一人を尾行して確認しました(隠密)。」

「ありがとうございます。…卯月太陽、無所属。25歳という若さで衆議院選挙に立候補し、見事当選。それ以降43歳に至るまで常に当選し続けている。…才能を持っている上社会的強者、殺すべきですね。」

 根岸と尖った歯を持つ茶髪の女性が看板を睨む。

「ヒャーハハッ!俺様はどっちでもいいぜ?この俺様、珈砕凛画伯を評価しない奴に生きる価値はないからな!」

「えぇ…(ドン引き)いつも思いますけどこの人、大丈夫なんですか(不安)?」

「個人の信条は罪ではないだろう。強い殺人衝動を持った人間も、抑え込めれば善人だ。よって彼女は善人、まして大義の元に集いし同胞はらから。ならば可能な限り理解を試みるべきではないのか?」

 フードを被った犬神が答える。

「そうですかね(疑念)?ところで根岸さん、あの『目』がさっきから入口を監視しているようですが(警戒)。」

「他に出口がないことは確認済みです。珈砕さん、ビルに能力は使えますか?。」

「この大きさだと流石にキツイな。プランBで頼むわ。」

「了解…すまないな、私がリーダーなのに作戦立案を任せてしまって。」

「いえいえ、気にしなくて結構です。それでは行きましょうか。」

 真島が手を叩くと銃が生み出される。

 バンッ!

 銃弾は『目』の死角を通り、壁を跳ね返って『目』に命中する。

『目』はグチャグチャになって、地面へと落ちていった。

「それでは、強者を引き摺り降ろしましょうか。」








「大変であります!入口の監視をしていた『目』が潰されたであります!」

 伽堂が大慌てで卯月に報告する。

「落ち着け。侵入者…一応想定はしていたが。さながらゲームのラスボスのようにここで待ち構えるか?」

 窓の外を見ていた車田が戻ってくる。

「…それが彼奴あいつ等、建物に入って来ねぇんだよ。」

「ほう?」

「建物の前で何か…」

 ズズズズズ…

 車田が言いかけた瞬間、ビルに強い揺れが起こる。

 少しずつ、ビルが前に傾いているようだった。

「一刻も早く出た方がいいな。」

「しかしここはビルの7階でありますが…」

「問題ない」

 卯月が窓に近づき思い切り開ける。

 下を見ると、ビルの前面が腐食しているように見えた。

「乗ってこい」

 車田と伽

 堂が卯月に負ぶさると、窓からヒョイと飛び降りる。

「…落ちてきますね」

 卯月は真島に蹴りを浴びせようとする。

 ─が、見えない壁のようなものが立ち塞がる。

(この中の誰かの契術か?だが問題ない。)

「車田!」

 三人は壁を通り抜けて行った。

「…えっ!?」

 真島は避けようとするが、間に合わなかった。

 ズドォンッ!

 顔面に蹴りが当たる。

 血が飛び散り、真島の顔は原型を留めないほどグチャグチャになっていた。

「…3on3。これでフェアだな。」

 卯月は二人を降ろしながら、ニッコリと笑う。


「お、お、お前ぇぇぇぇ!!!!!よくも私の仲間を殺したなァァァァァ!!!!!」

「落ち着いてください犬神さん。悪いことばかりではありません。奴らの契術、加護は大体解明したようなものです。」

「身体強化、透過、目、あと一つだが…今の所犬神なら有利だな。」

「あぁ落ち着け…クールダウンだ私…透過使いをなんとかすれば奴らは逃げることはできない…珈砕、あれを使うか?」

「まだいいだろ、下がっとく」


「どうするでありますか?ここから撤退も可能でありますが。」

「…戦闘しよう。こいつ等を後半に残すのは少しキツい。伽堂は下がっていろ。」

「OK」

「了解であります!」


 先に動いたのは傲慢陣営の二人だった。

 車田は根岸に、卯月は犬神に向かっていく。

「ゴロゴロ!」

 車田は放たれる電撃をすり抜けていく。

「ドカンッ!」

 根岸は次にペンを投げて爆発させる。

 しかし、それもすり抜けていく。

 一方、卯月は犬神の手前に接近する。

 犬神は卯月の前に壁を作って、これを防ぐ。

「悪いな、壁を作っているのは私だ。透過使いでないと私に攻撃はできないぞ?」

(クッ…、だがこれでいい。一度に生成できる壁の量には限界があるだろう。そうでないと根岸の方を放ったらかしにする理由がない。だから私のやるべきことは車田の邪魔をしないこと、そして壁のリソースを私の攻撃に使わせること。)

 根岸の目の前に、車田が迫る。

(すり抜け…なかなかどうして、厄介な契術ですね…。とりあえず色々試したいところですが、おそらくあと一回…なら)

「グサグ…」

 グドォォォォォ!

 そう言いかけた瞬間、地面に爆音が鳴る。

 車田と卯月は一旦引いて振り返る。

 地面に、穴が空いていた。

 そこから入ってきたのだろうか、四人の男女がそこにいる。

 地面から上がっている途中の龍崎。

 目の光を失った伽堂の首筋に噛みつく宮藤。

 辺りを見廻している杉。

 そして、穴を空けた男、米沢。

「おいおい、楽しそうなことしてんじゃねぇの!俺らも混ぜてくんね?」

「悪いが…定員オーバーだ」

「一人始末しとるから足りるで。これで文句ないやろ?」

 奇しくも嫉妬陣営、虚飾陣営、憂鬱陣営と縦に直列で並ぶ。

 卯月は、静かに冷や汗をかいていた。

 残り21人

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る