第13話 『どーる・ますたー!』

 音無量碁の契術は、印をつけたものと自身を対象に位置を自由に入れ替える能力である。

 ただし、印をつけられるものは2つまでであり、それ以上は印を消さないと増やせない。




 吹き荒れる砂嵐の中、二人と一体が対峙していた。

「…来るぞ」

 人形の手から竜巻が放たれる。

 平はそれに炎を放つ─が、それは竜巻を相殺しているだけに留まる。

 ヒュッ

 その隙に音無は人形の後ろに石を投げた。

 音無が念じると、石と平の位置が入れ替わる。

「もらっ─」

 次の瞬間、人形の周囲に竜巻が生まれた。

 咄嗟に音無が平と石を入れ替える。

 石は竜巻に飛ばされて、天へと登っていく前に消えてなくなった。

「サンキュー音無…あぁはなりたくねぇな…」

「切れ味もあるなら触れたらアウトだぞ…。」

 今度は複数の竜巻が飛んでくる。

(チッ…炎で防ぎきれるか?)

 急いで平は炎の壁で周囲を囲む。

 音無は石をいくつか持ち、同時に再び印をつけた石を一つ投げる。

 竜巻が炎の壁にぶつかると、音無は石と自分の位置を入れ替える。

(攻撃をしようにも、竜巻のせいで人形に近寄れない…)

 竜巻の内一つが音無の所に向かう。

 炎が竜巻から音無を庇うも、それ故竜巻に少しずつ押されていく。

「どうすればいいかわからん!…最悪の場合は見捨ててくれ。私の火力では奴は倒せない。」

 しばらくの沈黙の後、平は口を開く。

「確かにその方が後々楽だけどよぉ…、今思いついた策はテメェがいないとできないんだわ。タイミングシビアだけど、しっかりやれよ?」

 平が音無に策を伝える。

「うむっ!任せれた!」

 平は炎を人形の方向に火力を集中させた。

 それにより竜巻に隙間が開くも、他が手薄になったためどんどん押されていく。

「今だッ!」

 音無は自身の上着を隙間に投げ込む。

 上着は案の定、竜巻に飛ばされていく。

「おいまだかっ!?」

「─いや、もう少しだ。」

 上着は風に切られながら、竜巻に乗って空高く飛ばされていく。

 竜巻が平の目の前まで迫ったその時、ズタボロの上着が竜巻を抜けて空へ舞い上がる。

 ─その瞬間、上着と平の位置が入れ替わった。

 ゴウッ!ドドドド!!!

 最大火力の炎が、人形を上から焼き尽くす。

 人形は一瞬で、焼け焦げて消えていった。

「…台風の目には風が吹かないってマジだったんだな。」

 消えていく竜巻に乗ってゆっくり平が落ちていく。

「その通りだ平殿!完勝、だぞ!」

「あぁ、んじゃ行くか。」

 二人はようやく、グラウンドを後にした。








 渋谷と出口は、4階まで来ていた。

 確率計算の契術で調べる方式で行くと、4階の音楽室が一番確率が高かったからだ。

 道中の人形は、全て渋谷に斬り壊されていた。

「…着いた」

「こ、この奥に人形遣いが…いやまだわからないけど」

「入るよ」

 ガチャッと、渋谷はドアを開ける。

 十数体の人形、そして─人形遣いがいた。

「この様子からして、貴方がここのボスってことで間違いないかしら?」

「That's right!僕は嵯峨山穂稀。ベルフェゴールから怠惰の魔王の力を貰ったウルトラ美少女さ。ま、悪いことは言わないけど白旗振ったほうがいいよ。」

「それはあなた。」

 渋谷は人形に突っ込んでいく。

 何体かの人形が彼女の行く手を阻もうとしたが、ノータイムで胴体を切断される。

「なっ─」

「遅い」

 ─嵯峨山の頭が、真っ二つにされた。

「意外と呆気なかったわね。」

 部屋の人形が、次々倒れていく。

「本体が死ぬと、人形は動きを止めるんだね。」

 ─渋谷が部屋を出ようとしたその時、だった。

「でん」

 足元のミニスカートの人形が、渋谷の足を掴む。

 ─顔や体は、嵯峨山のそれだった。

 ニヤリと、笑っていた。

「ッ…!?」

 慌てて契術を発動し人形を切ろうとする。

 ─が、その前に自身の体の異変に気づく。

 体が動かない。

 少しずつ固まっていく。

 頬や足の付け根には継ぎ目ができていき、体の内部が何かに侵されていく。

「渋谷ッ!」

 出口は慌てて確率を計算する。

(俺達が助かる確率…両方0%だと!?)

 振り返ると、人形がそこに立ち塞がっていた。

「おいおい、こんな人形化の仕方は初めてだなぁ!まるでアニメに出てくるアンドロイドみたいじゃないかぁ、ククッ…。」

「あっ…やめ…」

 渋谷の変化が、止まった。

「…再起動が完了致しました、御主人様。」

「喋りも自然、いいね!君には『ポチ』という素晴らしい名前をあげよう!」

「ありがとうございます御主人様…ポチは幸せでございます…」

 は跪き、嵯峨山の足に擦り寄り、靴を舐める。

「で、君もこうなるわけだけど…どう?」

 そう言って嵯峨山が出口に触れようとしたその時だった。

「状況説明要請」

「ッ─!?」

 出口のポケットから、声が聞こえる。

 聞こえた瞬間、嵯峨山は人形と携帯を奪い取ろうとするも遅かった。

「人形遣いは触れたらアウト!人形がいる限りダメージを押しつけてリスポーンする!渋谷は人形にされた!お前の契術を使え!校内放送を使…!」

 電話を切られる。

「へぇ、やってくれたねぇ」

 出口の機械化が進む。

「悪いがただで操られる訳にはいかない。私は弱い…が、痛みぐらいは与えられたはず…だ」

 機械化が完了した。

「…再起動が完了致しました、御主人様。」

「お前の名前は『カス』だ。敵を殲滅しに行け。」

「畏まりました」

 部屋の人形を全て、殲滅しに送り込む。

 ─しばらくして、校内放送が入る。

「ここから出ることを禁止する」

 すぐに切れた。

「そういう契術ね。やってくれるじゃないの。まぁいいさ、僕にはまだ手は残っている。フフッ…」




 ベルフェゴールは、静かに観測する。

(嵯峨山はトップクラスの才能と頭脳を持っている。『次』に一番近いのは、彼女か米沢で間違いないでしょう。今は心配ないでしょうが、懸念があるとすれば…)

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