第39話

「よう!久々だな!」


「お前……は……」


少年は天斗を見下ろし、そしてクルッと振り返り大木のような巨漢を見上げた。


「デケェな……」


天斗も透も、突如現れた集団がとりあえず敵では無いと判断し安堵する。


少年は極島に向かって


「お前ら……見たことねぇ面だな!他所もんが乗り込んで来て好き勝手暴れてくれやがって!生きて返さねぇぞ!!!」


そう凄んで見せるも、極島は天斗とそう変わらない子供だと判断し見下ろしながら


「プッ……何だよこのガキ……そこのガキ同様、小っちぇくせに粋がりやがって。この俺に楯突くなんざ100年早ぇよ!」


「ほざいてろよ!黒崎倒すのはお前じゃねぇ!こいつが敗北味わうのはお前みたいなブタ野郎じゃねぇんだよ!」


そう言ってまた後ろを振り返り、まだコンクリートの地面に首を押さえながら座り込んでる天斗を見て


「お前もいつまで寝てんだよ!さっさとこのブタ野郎始末してあの時の再戦やるぞ!」


「石田……」


石田は天斗の宿敵とも言える存在である。


「おぉ!お前ら!こいつら一人残らずぶっ殺すぞぉ~!!!」


石田がそう号令をかけると武器を手にした集団が怒号を飛ばしながら一気に鬼原達に向かって駆け出した!


天斗はゆっくり立ち上がり


「お前ら何しに来たんだよ!」


戦場と化した廃工場に鳴り響く怒声の中、それに負けじと大きな声で石田に言った。


「うっせぇ!!!俺等の仲間もこいつらにやられてんだよ!」


石田も大きな声で答えた。


極島が周りの乱闘を見廻し、その中に入ろうとゆっくり天斗と石田に背を向け歩き出す。


「ちょっと待てこらブタ野郎!!!」


石田が極島に向かって怒鳴った。

極島は立ち止まりゆっくりと振り返る。


「あまり調子に乗らねぇ方が良いぞ……俺はガキだろうがなんだろうが容赦しねぇからな……」


至って冷静に言った。


石田がズンズンと肩で風を切り極島に向かっていく。


「お前、こんな弱っちいチビを相手にして何勝ち誇ったようなこと言ってんだよ!!!」


石田が最後の言葉を言い切る前に踏み込んで極島のボディに向かって拳を放つ!


力強い重そうな拳が極島の身体をかすめる。

極島はほんの少し退がりモロにヒットするのを避けたと同時に両手を組んで頭上高く振り上げ、そしてそれを思いっきり振り下ろす!


ブオオォ!!!


石田はその大きなモーションを見切ってかわす。


「おい黒崎!ちょっと手伝え!今日のところはお前との勝負はお預けだ!俺もこいつらに復讐する為にここに来た。お前と目的は一緒だ!」


天斗はこの上無いほど力強い味方の加勢に、消えかけていた勝機を見出し始めた。


「わかった!一緒にやろう!」


そう言って二人とも極島の方へと向き直り構えた。


「良いねぇ良いねぇ!クソガキ共が仲良くこの俺と遊んでくれるのかい?頼むから期待を裏切らないでくれよ?」


まるで子供をからかうようにそう言って余裕の笑みを浮かべている。


「おい、黒崎!あいつは重量級だ、足から崩そう。図体デカいから小回りなら俺達に分がある」


「いや、あいつはデカいわりに意外と素早いんだよ!回り込もうとしても簡単にはいかなかったし……それに見た目に見合ったタフさもあるぞ!」


「だから二人でやるんだろが!二人でヒットアンドアウェイで徐々に足もとから崩して鈍くなったところで一気に攻めるぞ!」


「わかった、やってみよう!」


「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇよクソガキ!お前らがどんなに逆立ちしたって俺に敵うわけがねぇだろ!」


「良し、お前は後ろ廻れ!俺は正面だ!常にあいつの死角に立ち回れ!」


天斗は軽くうなずき、すぐに背後に回ろうとする。

極島が天斗に背後を取らせまいと振り向こうとした瞬間、すかさず石田がローキックの体勢に入るが、極島は挟撃に備えスッと移動して二人を睨み牽制する。


「黒崎!同時に行くぞ!」


二人は息を合わせて同時にローキックの体勢に入る……それを警戒した極島が再び移動するのを石田は読んでいた。


後ろに飛び退いた極島にローキックと見せかけ出しかけた足を軸に一歩踏み込んで腹に回転回し蹴りを放った!


ドォ!


それは見事に決まり一瞬極島は顔をしかめるが、その巨体に見合った肉の壁にはそれほどダメージは見られない。


「フン、地下格闘技優勝者とか何とか言ってる割には大したことねぇな!お前だろ?中学生にして高校生枠に異例の出場で優勝したって奴は。そこのクソ生意気なガキの方がまだやれる気がするけどな!」


石田は天斗に敗北を喫した傷が簡単に癒えるほどまだ精神的に成熟していない。極島の安い挑発により石田は冷静さを欠くことになる。


「てめぇ……舐めるなよ!」


「石田!こいつの挑発に乗るな!」


しかしその言葉は逆に火に油を注ぐことになる。


「うっせぇよ!!!」


石田は頭に血が上り無闇に突っ込みローキックの体勢に入った。

極島はその乱れたキックを読んで、カウンターで丸太のような足を石田の顔面目掛けてブン回す!


しかしその刹那に


バシィー!


という大きな音が鳴り響いた。

極島の体勢が崩れて丸太のような足は石田の頭上を暴風と共に駆け抜けた。


極島が苦痛の表情で後ろを振り返ると、天斗が背後から軸足にローキックを決めていた。


一方石田は極島の攻撃の圧力にバランスを崩して地面に手と膝をついていた。


「石田!二人でやろう!」


「うるせぇんだよ!いちいち癇に障る野郎だな!」


「いいねぇ、仲間割れ!もしかしてお前、このチビに負けたのか?だからそんなに……」


「うるせぇんだよ!!!どいつもこいつも……」


石田の目は血走り憎悪とも取れる表情で天斗を睨みつける。


「石田!こいつの安い挑発に乗るんじゃねぇよ!今は二人でこいつを倒すことを……」


「だから、イチイチうるせぇつってんだよ!俺に指図すんじゃねぇよ!」


「石田……」


「おうおう、良いねぇ!何ならお前ら今ここで決着付けても良いぞ?どちらか勝者と相手をしてやるよ!」


「黙れウドの大木!」


石田は拳を固く握り締めて今にでも天斗に襲いかからんばかりの鋭い眼光で睨み続ける。


「ちょっ…待てって石田……」


次の瞬間、目にも映らぬ速さで石田は天斗に向かってダッシュした。

天斗は極島を盾にするかのように背後に移動し逃げる……

石田はそれに合わせて極島の後ろに居る天斗を追おうと動いたそのとき……


再び


バシィー!


っという大きな痛々しい音が炸裂する。


「うぐぅ…」


そして更に


べチィ~!


という痛々しい音が鳴り響き、遂に極島が片膝をついた。


「上手いぞ黒崎!」


石田は親指を立てて天斗にGOODサインを送った。

天斗もニヤッと笑って頷いた。


「お前ら……」


極島は石田の迫真の演技に騙され二人の挟撃をモロに受ける。


「なるほど……やってくれるじゃねぇか……お前らもう許さねぇぞ……」


極島はダメージが重いのかゆっくりと立ち上がる。

連続してクリティカルヒットを喰らった極島の足は、実際のところ灼けるような痛みで震えるほどのダメージがあるが、たかだか中学生にここまで追い詰められたと悟らせたくはない。

強靭な精神力でまるで効いていないかのような余裕の笑みを浮かべる。


「おかしいな……こいつどんだけタフなんだよ……」


「あぁ、ダメージは確かにあるはずだぞ……効いていないってことはねぇだろ……」


「人はデカいだけで強いからな……こいつよりもあの鬼原ってのは更に強いのかな……」


透さん………早く加勢に行かなきゃ………


「黒崎~~!!!」


一瞬透の方に気を取られたのを極島は見逃さず、蹴られた方の足でなぎ払う!


ブオオオォ!


その動きはほとんど鈍っておらず、本当にNOダメージかと錯覚するほどのスピードで天斗の鼻面をかすめるが、間一髪後ろに退いてかわした。

その風圧が天斗の顔の皮膚を歪ませる。


「何気抜いてんだよ!マジで死ぬぞ!」


「………」


二人とも極島の一撃一撃が人を簡単に死に至らしめるほどの破壊力を秘めていることを実感している。


「リーチも違い過ぎるし、スピードも半端ねぇ……二人がかりでこれか……」


「いや、効いてないことは無いはずだ!軸足を変えてきたんだ。てことはダメージがある証拠だよ!」


「ごちゃごちゃうるせぇんだよクソガキ共!!!」


「ヨシ!じゃあ次はもう片方の足を…」


石田がそう言いかけたとき、既に極島は石田に向かって突進し、後ろに逃げかけた石田の手首を掴んだ。


ガシ!


「石田~~~!!!」


この極島という男、二メートル近い身長にも関わらず、瞬発力だけ見れば天斗や石田にも引けを取らない。

一度天斗が捕まってしまったのも、この巨体からは想像出来ないその瞬発力ゆえだった。


石田はその手を外そうと思いっきりもう片方の腕を上に振りかぶって極島の手首目掛けて振り下ろした。

しかし一瞬早く極島が自分の方へ引き寄せ、石田は自分の手で自分の腕を激しく叩く結果となってしまった。


石田はその痛みに顔が歪み腕に力が入らない。

そして更に極島は石田の身体を引き寄せたと同時にボディに強烈なパンチを入れた。


ボォキィ!


「かっはっ………」


石田の肋骨が折れる音がし、身体は宙に浮く。が、手を掴まれたままの状態だったので振子のように円を描きまた引き戻される。


石田は呼吸が出来ず口は大きく開いた状態でヨダレを垂れ流し、大きく見開いた目にも自然と涙が溜まる。


「もう一丁!」


極島は再び拳を大きく振りかぶる。


「止めろぉ~~~~~!!!」


天斗は空高く飛び上がり極島の延髄目掛けて空中回し蹴りを放った!


極島はそれを読んで石田を片手で天斗目掛けてブン回した。


天斗の体勢が崩れ両者の身体が空中で激しくぶつかり合ってしまった。


ドドォ~!


二人はほぼ同時に地面に落下し転がった。


「ハッ…ハッ…ハッ…」


石田はまだ呼吸がままならず、鳩尾辺りを押さえながらのたうち回っている。


「石田……大丈夫か石田!」


極島は苦しさで喘ぐ石田目掛けて更に大きく蹴り上げる体勢に入っていた。

天斗は石田に体当たりして横へ転がり避けようとしたが、極島の蹴りが天斗の左足を直撃し天斗の身体が大きく宙を舞った。


バシィ!


「がぁ~っ」


ドサッ……

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