第38話
~透VS鬼原~
鬼原が踏み込んで拳を振ったが、透はそれを左手でいなしてカウンターで拳を鬼原の顔面目掛けて繰り出す!
ゴッ!!!
それは鬼原の顔面右頬辺りを捉えた。
鬼原は一瞬2~3歩よろめいたが、踏みとどまった。
タッ…タッ…ジャリ……
鬼原は殴られた頬を手で触り
「ほう……けっこう強いじゃん?お前のパンチ」
そう言って軽く余裕の笑みを浮かべる。
「さっさとお前倒してあいつの加勢してやらなきゃなんねぇんだよ!」
「俺を倒す?出来ると思ってんのか?」
そう言いながら今度は透の顔目掛けてハイキックを繰り出した。その瞬間透がヒットポイントをずらす為に前に踏み込んで来たのを見て鬼原は軌道を途中で下げて透の腹に……
その衝撃をモロに胴に喰らってしまう。
ドッ!!!
「……………」
しかし透は蹴りを受けながらも、その足を捉え足首を挫こうと渾身の力を込めて回した!
「オラァ~!」
それを察知した鬼原が、軸足で地面を蹴って跳び、自分もその回転に合わせて身体を捻らせながら透の顔面に蹴りを繰り出した。
ヒュッ!
透はそれをかわすために途中で手を離し身を引いた。
鬼原の脚が空を切り、バランスを崩してその場に着地する。
透は、すかさずまた前に出て体勢を崩した鬼原の顔面目掛けて蹴り上げる。
ビュッ!
鬼原は防御出来る体勢では無いため、回転して着地した勢いのまま地面を転がり辛うじてそれをかわす。
そしてすぐに立ち上がり透の追撃を牽制する。
「チッ……少し脚を挫かれたか……」
鬼原の顔は相変わらず余裕とも取れる笑みを浮かべてはいるものの、その表情には若干の苦悶が浮かんでいるようだった。
「やっぱ一筋縄じゃ行かねぇか……けっこう俺もマジでお前を倒す気でやってんだがな……」
透も不敵な笑みを浮かべながらも、そこにはそれ程余裕は感じられない。
~天斗VS極島~
このままじゃ……いずれやられる……
ならば絞め落とすしか方法は無いか……
しかし、あいつデカ過ぎんだよ……
何とか首を下げさせないと……
天斗は再びローキックを繰り出した。
極島はその威力を身を持って感じているため、脚を引いてそれをかわした。
天斗の蹴りを放った脚は空を切り、大きな隙が出来てしまう。
極島はその隙を見逃すはずも無く踏み込んで後ろを向いている天斗に側面から薙ぎ払うように蹴りを放つ!
天斗はそれを目視せずに身を反転させながら高くジャンプしてかわし、着地と同時に極島の軸脚に思いっきりローキックを浴びせた!
ダッダッ!!!
バッチィ~~~!!!
不意を突かれた極島はこのローキックをかわす術が無く、モロに喰らって一瞬だが眉根を寄せて大きく顔が歪む。
痛みに耐えかねた極島が体勢を崩し重心が下がったところで天斗は素早く極島の背後に廻り込み、背中に飛び乗ってガッチリと極島の首をホールドした。
天斗は、この極島という男がどれ程タフかを知っているため、自分の太ももかと思える程の首をホールドし容赦無く絞め上げていく。
ギチギチギチ……
この男は……へし折るくらいやらないと効かないだろう……
堕ちろ……堕ちろ……堕ちろ~~~!!!
天斗は渾身の力を込めて絞めていく……
極島の顔はどんどん真っ赤に染まり苦悶の表情を浮かべるが、ゆっくりと天斗の肩を掴み引き剥がそうともがく。
ガシ………
「うらあぁぁぁぁぁ~~~~~!!!」
必死にもがく極島もさすがに体勢が悪く天斗を引き剥がすことは無理だと感じ、今度は天斗を背負ったまま思いっきりジャンプして背中から落下した。
ドドォ~~!!
「ぐわぁ……」
極島の重量をモロに受けた天斗は、あまりの圧力に気が遠くなりかけるが、ここでホールドを外してしまえば次にこのチャンスが訪れる保証が無いため力を弛めずに絞め続ける。
対する極島も、苦しさに耐えかね天斗を下敷きにしてグリグリと自分の体重をかけて圧し潰しもがく。
クッソ……苦しい……けど……こいつを倒すにはこれしか無い……
天斗が諦める事なく絞め続けるので、今度は後ろに手を伸ばし天斗の顔に手を当て親指を天斗の目に当てると思いっきり押し込む。
天斗はそれを辛うじて顔を振り外すが、極島は執拗に何度も追撃してくる。
天斗は止む無く首をホールドしていた腕を離しその手を掴んで止める。
天斗に隙が出来た瞬間、極島は天斗を背中で下敷きにしながら地面を思いっきり蹴って天斗の頭の方へ後転するようにして立ち上がる。
その回転する勢いに乗った極島の全体重が、天斗の小さな身体にモロにのし掛かり、地面に押し付けられ身悶える。
ミシミシミシ……
「うがぁ……」
まるで断末魔のような叫び声は極島の大きな身体に掻き消されてしまう。
天斗はあまりの苦しさにしばらく身動きが取れなかったが、極島も痛みと苦しみで反撃に出ることは出来なかった。
極島はまだ目の前が暗く光が血走っている。
「やってくれたなクソガキ……ハァ……ハァ……」
首を押さえながら息切れ切れに極島が言った。
「クソっ……」
天斗も千載一遇のチャンスを破られ悔しそうな表情でゆっくり立ち上がる。
周りにいる男達も、この天斗と極島の攻防、そして透と鬼原のハイレベルな攻防を交互に見やり感嘆の表情で見入っている。
しかし、誰もが見ているだけで加勢しようという者は居ない。
それぞれが鬼原と極島の勝利を確信しているからだ。
透はチラリと天斗の様子を横目で確認して安堵のため息をつく。
「何だよ!人の心配してる場合か?どのみちお前ら二人とも生きて返すつもりはねぇからな!それと、この街の悪共は全てぶっ潰してやるから心配すんな!」
「だからさっきから何なんだよ!?何の目的でお前らわざわざ遠征しに来てんだよ!?」
実は鬼原達は天斗達とは異なる地方から遠征している。その目的とは鬼原が将来的に抱いている大きな夢のためだった。
鬼原はありとあらゆる組織を潰し、将来的に恐怖という力で裏社会を牛耳る壮大な計画を立てている。その地盤固めの一歩として、自分にとって邪魔になる存在の芽を摘もうとしている。それと同時に自分達に力で服従させる仲間を作る。端から見れば実に馬鹿げた思想だが、今の鬼原にはそれだけが生きる意味となっている。
「その内わかる時が来るさ!まだまだ計画の序盤の段階だからずっと先のことだがな……」
鬼原はそう言って拳を固めながら透に近づく。
透は一般人のレベルでは卓越した格闘センスと腕力を有し、格闘技というルールに縛られないケンカに於いてならば、ちょっとした格闘家をも凌ぐ実力の持ち主であった。しかし、鬼原もまたいくつもの武道武術に長けていて、透の扱う技にもある程度の免疫がある。しかし、透の扱う技には、一般に習うスポーツとしての武道武術とはいくらか異なるものがある。それが鬼原にとっては厄介な点だった。
鬼原がジリジリと間合いを詰める……透は静から動に転じる素早さでカウンターを狙う技を最も得意とする。それを知って鬼原はうかつに仕掛けることが出来ないでいる。
鬼原のこめかみから緊張の汗が流れる。
鬼原は空手の構えでゆっくりと前へ出る。
ジリッ、ジリッ……
いよいよ両者の間合いが詰まる瞬間、先に動き出したのは透だった!
透は一歩踏み込みモーションの小さい突きを繰り出すが、鬼原はそれがボクシングでいうジャブと同じで、相手とのリーチを確認する為に出した突きだと思い込み一歩引いて避けただけだった。
しかし、透は更に一歩踏み出し鬼原の手首を取りに出ていた。
とっさに鬼原はその透の手をかわし後ろに下がっていた。
鬼原は背筋に冷たいものが流れるのを感じる。
こいつは打撃も関節も投げも全て使える……しかもそれは古武術の技だ……もし少しの怪我でも負ってしまえば途端に集中力が半減してたたみ掛けられるかも知れない……
油断出来ん……
鬼原も透同様、敗北という言葉を知らない。一つ透と違う点は、透が誰かの為に体を張るのとは正反対に鬼原は自分の力を誇示し力で人を従わせたい欲求が人並み外れて強い。言わば支配欲の塊である。
無敗を誇る強さを自覚している自分に対して、ここまで威圧感を覚える相手との対峙に焦りを覚えるが、それを見せることはプライドが許さない。
鬼原は無自覚に動揺していく。
そしてお互いが睨み合い相手を崩す戦法を練っていた。
そのとき、不意に天斗の痛々しい悲鳴が透の耳に入ってきた。
「ぐあぁ~……」
透は鬼原に警戒しつつも天斗の様子を見た。
透の目に飛び込んで来たのは、天斗の足が地面から1メートル近くも宙に浮いた状態で極島に片手で首を掴まれている。
天斗は脚をバタバタさせて極島にキックを浴びせようとするが、極島が腕を動かしてその軌道をずらす為、クリーンヒットせずに力無い蹴りがポコポコと身体に当たるだけだった。
「黒崎~~~!!!」
透は思わず叫んで駆け寄ろうとしたが、透が振り返った隙を鬼原は脚にローキックを放った!
透はそれを察知し上に跳んで空中で鬼原に飛び蹴りを繰り出す。
鬼原はそれを腕でブロックする。
透は鬼原の腕を壁代わりに使い反対に跳んで天斗の方へと駆け出した。
その時、この廃倉庫の外から数十台のバイクと思わしき爆音をとどろかせながら何者かが迫ってくる。
その聴き慣れない爆音に、ここにいる全員が何事かと外の方へと目を向ける。
透達にとっても鬼原達にとっても、お互いが敵の加勢がやって来たのかと警戒心を露わにした表情で見つめていると、入口のドアを蹴破って入ってきたのは意外な顔ぶれだった。
「おい!ウチの島荒らす輩共!!!」
そう言って金属バットやら木刀やら鉄パイプやらを手にした黒い革ジャン姿の男達がざっと20人ほどゾロゾロと入って来て鬼原達と睨み合う。
その中の一人、他とはいくらか背丈は小さいながらも、体格は服の上からも鍛え抜かれたのがわかるほどガッチリとした少年が前に出て
「何だよ!なっさけねぇなぁ!!!お前何やられてんだよ!?」
そう言って極島に片手で絞め上げられてる天斗の側まで近づきいきなり極島にローキックを繰り出す。
ブォッ!
極島はローキックをかわしつつ、近づいて来た少年に向かって天斗をまるでぬいぐるみでも放るかのように投げつけた!
少年は飛んでくる天斗を身を屈めてかわした。
ドドォ~……
「痛っつ………お……お前……」
天斗はその少年の顔を見て目を見開いていた。
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