第27話

「ん?誰だっけ?俺と知り合い?」


透は鷲尾のことを全く覚えてないといった様子で近づいてきた。


「あのさ…何で君はあんな奴等とつるんでるの?あいつらと関わったらろくな人生送れないと思うよ?」


鷲尾は透とは絶対に関わりたくないと思いその場を立ち去ろうとした。


「ねぇ?君まだ俺と同じ中学生くらいだろ?あんな奴等とつるまないで同級生と遊んだ方がよっぽど楽しいと思うよ?」


「うるせぇなぁ…余計なお世話なんだよ…」


鷲尾はやたらと絡んでくる透に、うっとうしいという表情を露骨に見せてそのまま歩こうとした。

しかし更に透は続ける。


「今はまだ仲間の信頼を失って失望してるかも知れないけど、君が本気で仲間のことを思いやり、仲間の為に尽くせば、いつかはきっと一人ぐらい君を本気で仲間だと認めてくれる人が現れるよ!」


「うるせぇなぁ!わかったような振りして説教たれてんじゃねぇよ!」


「あぁ、悪い悪い…余計なお世話かぁ…鷲尾君…」


あの野郎…俺の名前覚えてたんじゃねぇか…あいつ…初めから知っててそんなことわざわざ言いに来たのか?


鷲尾が立ち止まって振り返った時には既に透の姿は無かった。たしかに今の鷲尾の心の中は空虚で、何をやっても満たされることは無かった。むなしさを埋める為に自分を相手してくれるチンピラとつるんでみるものの、結局鷲尾は自分が上に立ちたい願望が根強く残っている。それからの鷲尾は同級生達や、新たに出会う仲間に協力を惜しむことは無かった。そうやって皆に尽くせばすぐに信頼を取り戻せると思っていた。しかし世間はそれほど甘くはない。180度急変した鷲尾だったが、仲間達からは陰で批判的な評価しか受けていないのが現実だった。


「あいつ何だよ急に…手のひら返したみたいに変わって…」


「そうそう、皆にシカトされて焦ったんじゃない?今頃媚び売るようなことされてもなぁ~」


「ほんとだよ!なに今更って感じだよな!今までお前はどんだけの事をしてきたと思ってんだ!って…」


表向きは鷲尾に再び付き従う者が出てきたようにも見えるが、いつまた鷲尾に期待を裏切られるのかわからない恐怖心から、誰も心を開くものなど居ない。それから鷲尾は中田のチームの元総長であった岩本という男に入会を申し出たのが、岩本は鷲尾の本質を見抜いて入会を拒否した。岩本はリンゴの箱の中に腐ったリンゴが一つでもあればたちまち他のリンゴも腐ってしまうのを恐れたのだ。そうして今のK会に入会を認められて、その中で臼井との確執によりNというチームを自ら立ち上げるという経緯に至ったのだ。



「さぁやろうか!蔵田の敵討ちだ!お前がどんなに汚い手を使っても俺は絶対負けるわけにはいかねぇ!」





一方薫、あずさ、天斗だが、あずさも男を相手にしても気後れることなど一切なく、対等にやり合うだけの力量があった。薫もフットワークを生かしちょこまかと動き回って相手を翻弄する。薫は後ろに天斗が付いている安心感から目の前の相手に集中することが出来た。しかしそれを追う天斗の方は相手をしながら薫を追うのだからかなり忙しい。

そんな中、天斗が薫に気を取られた一瞬、少しの隙が出来てしまった。その背後から鉄パイプを持った敵チームが天斗の後頭部目掛けて振りかぶった!

それを見ていた剛が、とっさに大声で叫びながら天斗に向かって猛ダッシュで駆け寄った。


「黒崎~~~~~~~!!!!!」


その声に反応した天斗が振り返らずにギリギリのところで攻撃をかわすことが出来た。剛は鉄パイプを持った男目掛けて後ろからジャンプして蹴りを喰らわせた。


「グフッ」


相手は倒れ込み、剛はその鉄パイプを奪って遠くへ放り投げた。


「剛!どうしてここへ?」


薫も振り向き剛に声をかけた。


「武田!お前…」


天斗も驚き目を見開いている。


「黒崎~!薫を守るのはお前じゃねぇ!だか、今はとりあえず薫を守るお前の背中を俺が守ってやる!」


この瞬間から二人の間にぎこちないながらも友情が芽生えたのだった。

天斗は軽くニヤッと笑ってすぐに振り返りまた薫のフォローに回る。


あずさは美夏の復讐とレディースを守りたい一心で、薫はあずさを怪我させたくない一心で、天斗は薫を守りたい一心で、そして剛は自分でもまだよくわかっていない天斗に対しての仲間意識で、それぞれがそれぞれの想いを胸に必死に闘った。




そして再び中田と鷲尾の闘い



「なぁ、鷲尾…お前は何の為に闘ってる?お前はいつも自分の為じゃねぇか?自分の力の誇示、自己満足、歪んだヒーロー願望!結局お前はいつもワガママな構ってちゃんなんじゃねぇのか?皆お前に付き従ってる振りして、逆にお前を利用して、お前が皆に媚びてる振りしてるのは実は皆知ってて、お前だけがそこに気付いていなくて、仲間だと思い込んでる奴等に実は笑われていて、だから裸の王様って言われた事にあれだけ逆上したんじゃねぇのか?お前みたいな自分勝手な動機で本気でお前の為に動いてくれるやつが居るって本気で思うのかよ?仲間をナメんじゃねぇよ!!!仲間ってのはな、お互いの信頼関係があって初めて仲間って呼べんだよ!お前はただのお飾りのボスなんだよ!仲間の為に報復だのなんだの、どんなにお前が走り回ったって、お前が本気で仲間を愛してやらなかったらそれはただのチームごっこに過ぎねぇんだよ!そこに気付かない限り、お前には永遠に誰も助けなんて来ねぇよ!」


中田の言葉は鷲尾の傷付いた心を深く深くえぐっていく。鷲尾はあまりの心の痛みに耐えきれなくなってついに発狂した。


「うっせぇんだよ~!!!!!仲間仲間って…俺だって必死にやってんだよ!必死にやってるけど…どうしても埋められない奴らとの溝が…俺にだって…俺だってそんなことはわかってんだよ…わかってるけど…わかってるけど…俺は…」


俺は…皆から嫌われてる…好かれたい…皆に好かれたい…皆ともっと楽しく仲間として笑い合いたい…でも…どうしたら…


「鷲尾…一度失った信頼を取り戻すのはお前が想ってる以上に難しいんだよ!何故ならお前が一番で居たいと思うからだ!お前が皆の上に立っていたいと思う限り、誰もお前と同じ目線でなんか居られるわけがねぇ!仲間ってのはな、上とか下じゃねぇんだよ!本当に相手を思いやる気持ちがあるなら、その目線は常に相手の心の中に無きゃダメだ!本気で相手を心配して、本気で相手を思いやって、本気で相手を愛してやらなきゃ何も変わることはねぇんだよ!そこから初めて信頼関係ってのが生まれるんだよ!俺は蔵田があんな目にあわされたのが心の底から痛いんだよ!苦しいんだよ!切ないんだよ!だから、俺はお前らみたいな人の心を持たない人種が大っ嫌いなんだよ!それでも蔵田は言ったんだ。鷲尾達とやり合えば仲間達がどうなるかわからないから、だから抗争は止めてくれと…仲間の為に自分の悔しさ圧し殺して必死に俺を止めたんだよ!それが仲間を束ねる資質なんだよ!わかるか?お前には愛情の本質が何もわかっちゃいねぇんだよ!」


「もういい!グタグダと説教たれやがって!俺はお前と話し合いをしに来たわけじゃねぇんだ!俺だってお前ら潰して仲間の為に…仲間…の…仲間…」


鷲尾は自分の仲間の復讐に燃えてここまで乗り込んで来たのだが、中田の言葉に今の自分には本当に仲間と呼べる者の為に闘っているのかわからなくなっていた。


「どうしたよ?何か迷いが生まれたか?あ?裸の王様が仲間の為に俺達と闘いに来たんじゃ無かったのか?」


鷲尾が混乱しているところへ更に傷口をえぐる。鷲尾は血圧が上がりすぎて頭がくらくらしていた。


「鷲尾~!一からやり直せ!お前の足りないものに気づいたら、今度こそお前に本当の仲間が出来るかもしれねーぞ!」


「だからゴチャゴチャうるせぇっつってんだろが!」


ダダダッ!


鷲尾が中田に向かって突進した。


今は四の五の考えても仕方がねぇ!とにかくこいつらブッ倒して…それから考える!


「中田~!」


「鷲尾~!」


鷲尾が跳んで拳を思いっきり振りかぶる。中田がそれをかわして背後に回り込み鷲尾の腰に腕を回して思いっきりのけ反りバックドロップをかました!鷲尾は後頭部から落ちて強打したが、効いていないのかすぐに立ち上がった。


「効かねぇよ!」


鷲尾がそう言ってまた突進しようとした時足がもつれてバランスを崩す。中田は前のめりに倒れてくる鷲尾の顎に膝を合わせてクリーンヒットした。鷲尾の脳天が揺れて倒れそうになるが、それでも踏みとどまった。


「中田ぁ!効かねぇよ!そんな蹴りなんか全然痛くねぇよ!」


「そうか、なかなかタフだな!」


鷲尾はフラフラとした足取りで尚も中田に殴りかかる。しかしその拳にはほとんど力がこもっていない。

中田はヒラリとかわしてそのまま鷲尾は数歩中田の横を通りすぎる。


「鷲尾!とどめだ!」


中田はそう言って鷲尾の肩を掴み思いっきり殴り倒した。鷲尾はその場に倒れ意識を失った。


「ちゃんと効いてんじゃねぇか!」


そのタイミングで一台のバイクが駆けつけた。

バイクから降りた男はゆっくりと歩いてきて、まっすぐあずさの元へと近づく。そしてあずさの目の前で立ち止まり


「あずさ、怪我は無いか?」


「大丈夫だよ!薫が私のフォローに回ってくれたから!」


そして男は薫の方へ向いて


「薫、お前も大丈夫か?」


「大丈夫!天斗が私のフォローに回ってくれた」


もう一度男はあずさの顔を覗き込んで


「あずさ~、お前…顔が赤く腫れてるぞ!どうした?」


「こんなの、蚊にでも刺されたんじゃない?」


「そうかそうか…で?その蚊はどこだ?」


男は周りをぐるりと見回す。そしてNのメンバーの一人が


「俺だよ!俺がそいつをはっ倒してやったんだよ!そのクソ生意気な女をよぉ!」


男はNのメンバーの津田という男の方を向いて


「あぁ…お前か…」


そう言ってゆっくりと津田の前に詰め寄る。そして男が拳を振り上げたとき、いつの間にか意識を取り戻した鷲尾が叫んだ!


「待ってくれ!!!頼む!頼むから…ちょっと待ってくれ!」


鷲尾は千鳥足で男の元へと歩み寄る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る