第32話

 滞在3日目はカイン殿下と王都観光に出かける事となった。もちろんローサも侍女として一緒に。


「トレニア、今日は僕の事をカインと呼んで?」


「わかりました。カイン、宜しくね」


 街を出歩くため今日は平民の格好をしている2人だけど、カイン殿下の美しさは全然隠れていない。私とは釣り合わなさ過ぎてなんだか謝りたくなったわ。


 私達は王都で1番有名な時計塔を見学したり、丘へ上がって絶景を眺めたりしたの。そして時計塔の絵葉書を父とファーム薬師長宛に出してみた。


これこそ旅の醍醐味よね。


「トレニア、お腹が空いた?お勧めの所があるんだ」


私はカイン殿下に連れられ入ったのは1軒の食堂。


「こういうお店は入った事は無い?」


「ありますよ。私、平民になってもう3年は経ちますし、自炊もしていますよ」


「トレニアの手料理を食べてみたいな」


カインはそう言いながら席に着くとすぐに店員がメニュー表を出した。


「カイン、凄いですね。聞いた事もない食べ物ばかり。どれを選べば良いか分からないです」


「良かった。ここはカイロニアの全土の郷土料理が食べられる店なんだ。僕がお勧めなのはこれとこれ」


「では、私はカインのお勧めを頂きます」


カインは手を挙げて店員を呼び、料理を頼んだ。横の席のローサやカインの従者達もそれぞれ頼んだみたい。


 店員がすぐに運んできた料理は煮込まれた骨つき肉がゴロリと皿の上に乗り、香草や野菜も添えられてとても良い香りがする。カインは厚く切って焼かれた肉に香辛料がまぶしてあるステーキのような食べ物だった。


「どうやってこの料理を食べるの?お肉は齧り付くの?」


「そうだね。こうやって齧り付いて食べるんだ。それとこの硬いパンをスープに浸して食べる」


私は教えられた通り肉に齧りつくと中から肉汁が溢れて目を見張る美味しさ。


「美味しいっ」


カインも大きく肉を切り分けて齧り付いている。


「良かった。ここの店は肉料理が美味いんだ。今まで何人かの令嬢を連れて来たけどみんな齧り付くのを嫌がってね、デートは失敗さ」


カイン殿下は苦笑いしているけれど、普通はこんな所に普通は貴族令嬢は連れて来ないわよね。令嬢が齧り付くなんて端無くて嫌がるに決まっているわ。


「まぁ、普通はそうでしょうね。はしたないですもの」


「トレニアは他の子と違って美味しそうに食べてくれるなんて嬉しいよ。僕は幸せ者だな。トレニアの事をもっと知りたいよ」


「私はもう貴族ではありませんからね。郷に入っては郷に従い美味しい物をお勧めの食べ方で頂きます」


肉に齧り付いている私を見るローサの視線が痛いのは気のせい。気にしない。


「僕が親しくなる令嬢達がみんなトレニアみたいなら良いのに。そういえばこの間、令嬢と王都で一緒にアクセサリーを見ていたんだけど、カイン様と2人だけの指輪が欲しいと言われて買ったんだよね。でも、別の令嬢達と王都デートする時に同じように毎回言われるから指輪だらけになってしまうんだよね。困った。けれど、トレニアには僕の瞳色の指輪を僕とペアにして着けて欲しいな」


「ごめんなさい。大変申し訳ないのですが、私、薬師なので薬の調合をする時に装飾具は影響が出てしまうので着ける事は出来ないのです。普段使いも平民が高価な物を持っていると狙われてしまいますし、ご遠慮させて頂きますね」


カインはそれなら仕方がないよねとあっさり引いてくれたわ。なんで私と令嬢達を絡めて話すのかしら?


もしやモテ自慢!?

やんわりと断ったけれど大丈夫よね?なにかモヤモヤするわ。


ご飯を美味しく頂いた後、カイン殿下にお土産を買いたいとお願いして商店に連れて行って貰った。



「ローサ!ここでお土産を買いましょう?」


商店は所狭しと商品が並んでおり、品揃えが豊富で驚いたわ。そして見た事の無い商品に心ときめかせてしっかりと選んだ。


 ファーム薬師長とヤーズ薬師とロイ薬師にはブランデーとコロンを。ナザル薬師、ターナ薬師、レコルト薬師、マテオ薬師には地エールを買ってみたの。


カイン殿下に相談したらエールが美味いと言っていたけれど、小さな入れ物では味が落ちてしまうらしく、樽ごと購入する事になってしまった。殿下が帰国時に積んでくれると約束したからね。


普段から忙しくしているせいか薬師同士で飲む事が無いのでみんなが飲めるかは知らないのよね。きっとみんな飲めるはず。私とローサは自分用にお菓子や髪飾りを買った。もちろん父にもブランデーと葉巻を買ったわ。


帰国したらローサに届けて貰う予定にしてる。当初の目的は達成されたわ!




私達は王宮まで戻りカイン殿下にお礼を言う。


「カイン殿下、今日は有難う御座いました。とても楽しかったです。お土産も買う事が出来たし、貴重な体験も出来て一生の思い出が出来ました」


「それは良かった。僕もトレニアと過ごせてとても楽しかったよ。もっと2人で会いたい。他の令嬢と君はこんなに違うとは信じられないよ。もっと君を知りたい。このままこの国に残って欲しいくらいだ」


「ふふっ。有難う御座います。殿下からそのような言葉を頂いて本当に嬉しいです。その言葉を胸に今以上に国に帰って仕事に取り組めそうです」


「… なんだか僕の思いは伝わっていないような気がするな。残りの4日はどうするのかな?」


「明日はゆっくり休暇をいただいて最終日は荷物を纏めて馬車に乗せる予定です。間の2日はまだ未定です」


「そうか。じゃあ、また中庭でお茶が出来そうだね。従者に時間が決まったら連絡させるよ。トレニアとお茶を一緒にしたい」


「分かりました。カイン殿下お待ちしておりますね」


私は部屋の前でカイン殿下に礼をするとカイン殿下は上機嫌で去って行った。

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