第31話

 私は部屋に戻る事を諦めてカイン様の後を従者と共に歩く形で王宮の中庭へ入っていった。


王宮の中庭の一角にはお茶が飲めるようなスペースがあり、私はカイン様に促されるように席に着く。


「あの、カイン様。つかぬ事をお伺いしますが、カイン様は王子殿下なのでしょうか?」


「ははっ。やはり知らなかったんだ。改めて自己紹介するよ。僕はカイロニア国第三王子のカイン。現在24歳。第二騎士団団長。婚約者はいないんだけど、この見た目だし、王子だし、騎士団団長だからご令嬢達からは大人気なんだよね」


私は従者が淹れてくれたお茶に口をつける。流石王宮。なんて香り高いお茶なのでしょう。そして従者のお茶を淹れるレベルも高いわ。


私、従者さんとお知り合いになりたいわ。お茶に目をキラキラさせていると、


「僕に本当に興味が無いんだね。そんなにお茶が美味しかったのかな」


「私とした事が、すみません。とてもお茶の香りが芳醇でうっとりしてしまいました。それに従者さんのお茶を淹れるレベルが高くて驚いてしまいました」


「あははっ。君って本当に面白いね。僕にこれっぽっちも興味を示さないなんて。それにしても、君の所作は平民では無いよね?何故かな?」


ばれてしまった。まぁ、気にする事でも無いわ。


「カイン殿下はサロニア国の第二王子であるディラン殿下をご存知ですか?」


「あぁ、彼ならよく知っているよ?」


「ディラン殿下の元婚約者、グリシーヌ侯爵令嬢は私の姉でした」


「君はあの美しいと評判だったグリシーヌ嬢の妹?こいつは面白い。それでどうして君が平民に?」


「まぁ、簡単に言えば、姉が婚約破棄をされ、私の婚約者と姉が婚約し、侯爵家の跡継ぎに変更されました。その後、新たに婚約者となった方は私の妹と婚約を交代する事になり、私は修道院行きか後妻に嫁ぐしか無くなったので平民となり、今は薬師として働いているのです」


「なるほど。普段から美男美女に囲まれた生活をしていたのか。納得した。で、トレニアは今何歳なの?」


「私ですか?20歳です」


「20歳で2度の婚約者交代とはついてないね。そりゃ男にも結婚にも興味が無くなるね。そんなトレニアに僕は興味が湧きっぱなしだよ。」


私はお茶を全て美味しく飲み干した。お代わりをしたいほど美味しいお茶だけれど、この場に長居はしない方が良さそう。


「私は婚約者に裏切られてこれっぽっちも婚約や結婚に興味がないのです。なので、私はこれにて失礼しますね。カイン殿下、美味しいお茶やお声を掛けて頂き有難うございました」


 私はお礼を言ってそっと席を立ち上がろうとすると、カイン殿下は私の手を取り部屋まで送ってくれるという。


他国の軍服に白衣を着た普通顔の平民の手を取りエスコートする王子。違和感がありすぎて怖い。部屋に着くまでの間、すれ違う人々の好奇な目に晒されて居た堪れなかったわ!


「殿下、エスコート有難う御座いました」


私はしっかりとお礼を言うと、


「トレニア、帰国までの間、何か予定があるのか?」


「いえ、特にはありませんが王都観光や王宮薬草園を見学しようとは思っております」


「そうか!では王都観光は僕に任せて欲しい。一緒に過ごしたい。楽しみにしていて」


カイン殿下はニコニコと笑顔でそう告げると去って行ってしまった。部屋に入ってからローサにさっきまでの出来事を話して聞かせた。


「お嬢様は本当に罪作りな方ですね」


ローサはニヤニヤしながらベッドに腰掛けている。そう、私達は客人という立場であるけれど平民なので平民にしてはかなり良い宿屋位の部屋が用意されたの。ベッドも2つ。私達にはそれでも充分なお部屋よ。ベッドでゴロゴロするとローサにすぐばれてしまうのが難点だけど。


「そうだ。お嬢様にタイラー侯爵様からお礼のお手紙と髪飾りを頂きました。あと、王宮薬師の方がサロニア国の薬草の話を聞きたいと面会申請がありましたよ」


「ローサ有難う。せっかくカイロニアに来たのに予定が埋まり始めていてのんびり2人で観光は出来るのかしら」


「まぁ、国外の情報は入ってくるのに時間が掛かりますからね。情報交換も兼ねていると思えば仕方がありません」


「そうだ。先程、カイン殿下とお茶をした時に従者の淹れてくれたお茶はとても美味しかったの。彼の淹れるお茶をまた飲みたいわ。難しいかしら」


「私はお嬢様ほど予定はありませんし、私が教えて貰うというのはどうでしょうか?従者の方に申請を出しておきますね。私が教えて貰えば良いかと思います」


「ローサ有難う!申請が通ると良いわね。楽しみだわ」


私達は部屋に運ばれてくる食事に舌鼓を打ちこの日は早めの就寝となった。私もローサも流石に長旅で疲れていたせいかベッドに入ってすぐに寝てしまったわ。



 翌日は朝食後に私は王宮薬師の仕事を見学しに行き、ローサは申請を出した後は自由時間となった。


薬師の方々の人数は多く、薬草育成部門や製薬部門、新薬開発部門、疾病情報部門などがありサロニア国の3倍の人は働いていたわ。考えてみればサロニアは少数精鋭過ぎるのよね。もっと人が増えれば良いのに。


 私は薬草園を重点的に見学させてもらい、サロニアには無い薬草がいくつかあったので株分けしてもらう事が出来たわ!私の領地の話をして土作りや肥料の話等様々な意見交換が出来たと思う。そして後日、カイロニアには無い薬草を送る事で話はついた。


交渉してみるものね。


これは絶対ファーム薬師長からボーナス弾んでもらわないと!頑張ったもの。


この日は薬師の見学で終わった。ローサが従者に申請していたお茶の件も『カイン殿下が騎士団で仕事をしている時間は空いているので』とカイロニア国の淹れ方や茶葉のレクチャーを受けれたみたい。



ローサの淹れるお茶が前より格段に美味しくなっていてびっくりしたわ。

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