第33話

 私は翌日、宣言通りゆっくり、ぐーたらゴロゴロとベッドで過ごし、王宮の庭園も見学させて貰った。


次の日は朝からカイン殿下がお昼を一緒にしたいと知らせが来たので騎士団まで出向く事になった。




 騎士団棟へ向かうと、お昼には少し早かったようで騎士達が訓練場で訓練をしている。その横には見学スペースがあり、ご令嬢達のキャーキャーと黄色い声がしている。


どこの国でも騎士ってモテるのね。


 私がそんな事を考えながら騎士団棟へ入ろうとしていると訓練をしていた騎士の1人が手を挙げてこちらへ走ってきた。… カイン殿下だわ。令嬢達はその姿を見て黄色い声が凄い事となっている。『私を見つけてくれたのね』『私に手を振ったのよ』と小競り合いが起きそうになっていてあっという間にカイン殿下はご令嬢達に取り囲まれた。


私と食事予定だった気がするのだけど、これは、難しそう。私は従者の方に食事は無理そうではないかと話をしてみた。従者の方もカイン殿下の姿を見て苦笑いしながら『そうですね。とりあえず、ここではご令嬢達に囲まれてしまうので団長室へ案内します』と団長室へと案内されてソファに座った。


従者の方がうちの殿下がすみませんね、と言いながらお茶を淹れてくれる。仕方がないわよね。モテる男は辛いですわねって笑顔で返しておいたわ。


しばらくするとカイン殿下はやれやれと言いながら部屋に入ってきた。


「トレニア、ごめんね。遅くなってしまった。魅力あるご令嬢達が中々離してくれなくて困ってしまったよ」


「カイン殿下はモテモテですね。羨ましい限りです」


「トレニアが僕の事を想ってくれるだけで充分なんだけどね」


カイン殿下は戯けて私に手を差し出す。


「トレニア嬢、お手をどうぞ」


カイン殿下にエスコートされそのまま王宮のカイン殿下の執務室へと向かう。普段は騎士団団長として団長室を使っているのだけれど、王子としては別に王宮に執務室があるのだとか。すれ違う人達の視線が痛い。そうよね。他国の軍服に白衣着て王子殿下にエスコートされている女って。


ドレス着れば良いじゃないと思われるけれど、嵩張らなくて動き易くてポンポンに優しいのはズボンなの。もう、一生ズボンでいいとさえ思っているくらいなの。因みに昨日出かけた時の服は紺のワンピース。唯一持って来た服。ローサが居なければズボラ化が止まらないと自分でも思う。


「トレニア、昨日は楽しかったね。またトレニアと出かけたくなる。本当にサロニアに帰ってしまうのかい?」


「ええ。カイン殿下と街へ出た事は一生の思い出です。サロニアに帰ったらここで頂いた薬草達のお世話もありますし、新薬にも取り組めそうですもの。今からワクワクしているんです」


薬草の事を考えると早く国に帰りたくなってしまったわ。やりたい事だらけなの。執務室に入った。従者が運んできた食事をカイン殿下と和やかな雰囲気の中頂いていると、外から騒がしい声が聞こえてきたので手を止め、扉の方を振り向く。


カイン殿下も気になったようだ。


従者が外の様子を見ようと扉を開けた時、1人の令嬢が部屋へ入ってきた。


「カイン様!また女を連れ込んだのですか!私という者が居ながら」


また、なのか。私は何人目なのかしら?よく分からないけれど。私は明後日帰りますよー安心して下さいと言いたい。言わないけれど。


カイン殿下は突然入ってきたご令嬢を窘めるけれど、ご令嬢は興奮冷めやらぬ感じ。なんだか私はここに居ない方が良いのかしら?食事は殆ど済んだし、部屋に帰るのが良さそうね。


「あ、あの…」


ご令嬢はキッと私を睨む。私は、わー凄いご令嬢だわ!と思ってしまったけれど平然を装っている。


「カイン殿下、お食事有難う御座いました。カイロニア国の話が聞けてとても有意義な時間を過ごさせて頂きました。帰国後はお話の通り新薬開発に取り組めそうです。ご協力有難う御座いました。では失礼しますね」


あくまでカイン殿下と真面目な話をしてましたっ!という感じを出し、礼をする。ご令嬢はまだ興奮している様子だったけれど、私の話した内容や素振りからそれ以上口を開く事は無さそう。


カイン殿下は何か言いたそうだったけれど、無視で良いわよね。やはりモテる男は辛いのね。


さて、私は部屋に帰って先程までの出来事をローサに話して聞かせた。


「トレニアお嬢様、カイン殿下は絶対後悔していますよ。今まで令嬢達にいい顔がしたい、八方美人選手権世界大会1位なのでしょう。お嬢様、これ以上カイン殿下に近づいては駄目ですからね?不幸になるだけですから。そういう奴は紙屑同様、ポイするのが良いです。そんな奴ポイです、ポイポイ!」


珍しくローサの言葉が荒い。


「ふふっ、そうね。全く気にしていないわ。ちょっと修羅場見ちゃった?位しか思ってなかったわ。でも私が去った後、どうなったのかは気になるかな」


 それから少しした後、カイン殿下の従者がお花を持って、謝罪と明日は邪魔が入らないようにするので改めて一緒に食事をしようと誘いのお手紙を頂いたけれど謝罪は受け取るがお誘いは丁寧に断りを入れておいた。


従者の方も分かってくれているようで『まぁ、仕方がないですよね』とあっさり帰っていった。


私は翌日薬師達に挨拶をして最後の日は荷物を纏めてみんなが見守る中、技術者達と共にサロニア国へと帰国の途についた。

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