悪役令嬢の妹ですが幸せは来るのでしょうか？

第16話 侯爵家・シガールーム

「ようやく結婚式が終わったな。ルーカス君おめでとう。これからもグリシーヌを宜しく頼むよ。ジョシュア君、君にも迷惑かけるね。ソニアの事は最低限でいい。宜しく頼む」

葉巻を咥えマルスは深く息を吐いた。

「義父上、これからもよろしくお願いします」

ルーカスは何かを悟ったかのような表情でマルスと葉巻を咥えている。横にいたジョシュアに至っては今にも泣きそうな顔をしている。まぁ、そうだろう。ソニアの儚げな仕草に騙された、とは言え馬鹿な奴だ。

「ジョシュア君は天国から一気に地獄へ落とされたな。トレニアが用意した書類を俺も見た。ははっ。美しい顔をした悪魔にまんまと騙されたな。ある意味、同士だ。これからも末永く宜しくな」

ルーカスは義父のマルスの前でも構う事なく不幸仲間が出来た事に乾いた笑いを浮かべた。

「まさか、トレニア嬢を売ろうとしていたなんて。僕は何も見ていなかった。トレニア嬢に虐められている、私は貴方しか見ていない、貴方だけだと言われて…。後悔しか無いです。

僕の領地に連れて行った時、彼女は領民達と仲良くなり、彼女を通して彼らは心を開いてくれたのに。彼女の良さを全て僕がダメにした。それにトレニア嬢は僕の心変わりにいち早く気づいていたのに僕を責めなかった。

トレニア嬢を失ってからトレニア嬢の良さを、大切さを思い知らされるなんて。儚げな姿に騙されて何にも見ようとはしなかった僕は大馬鹿過ぎました」

「そうだな。私もルーカスもトレニアが離れてから後悔ばかりしているよ。ファナも娘を売ろうとしていたとは思わなかった。ファナはこの後、病気療養のために領地の別邸に向かわせる。治らないなら、病死だな。

ルーカス君、グリシーヌの事は任せたよ。分からない事があれば執事に聞きなさい。あぁ、それからジョシュア君、ソニアに子供は出来ていなかったそうだ。君との婚約を確実にするための狂言だったようだ。まぁ、ベッドを共にしたのなら責任を取るのは当たり前なのだがね。どうせソニアから君に迫ったんだろうな。目に見える。

今年からソニアを学院に入れる予定だ。ソニアの我儘で周りの学生に被害が出ないように見ていて欲しい。

それと、トレニアから貴族籍を抜ける書類が送られてきた。君達はどう考える？」

ジョシュアはソニアに子供が出来て居なかった事にホッとした様子だ。余程追い詰められていたのだろう。

「トレニアには何の瑕疵もない。けれど、身近な者に植え付けられた不信感は拭えないのではないか？」

「お義父さん、ソニアの事は分かりました。僕はトレニア嬢が貴族に止まる気持ちにトドメを差してしまった。けれど、貴族に残るメリットは大きいと思います」

「けれど、我が家に籍を置く限り、また売られると思うのではないか？グリシーヌにしてもソニアにしても婚約者を紹介してやると言いそうだ。娘達の事だ、自分達が嘲笑いたいがために碌でもない奴を紹介するだろう。ソニアには前科もある」

「では、トレニアの希望通り除籍の手続きをし、いつでも籍を戻せるようにしておくか、他家へ養女として迎え入れて貰えるように手配するのはどうでしょう？」

「… そうだな。トレニアが除籍を願っている以上、希望を叶えてやるしかないな。私達に出来るのはトレニアの生活面や養女に迎えてくれる貴族探しやフォローをし、陰で支える事しかない」

「「そうですね」」

「トレニアには平民への手続き書類を送り、トレニアの侍女には復籍届と手紙を出しておく。ローサはトレニアを1番に考えて行動するだろう」

3人はチェスをしながら今後の行く末に頭を抱えていた。