乱入

「!?」

 ブロブにシステムに侵入され操られているカルシオン・ボーレのパワードスーツが手にした荷電粒子砲のスイッチが入れられる瞬間、彼のパワードスーツの足元で突然、爆発が起こった。それによって射線がずれ、数万度もの熱を持った重粒子の束はフィとシェリルのいたところから数メートル離れたところを掠めてその先にあった山肌を溶解させた。

「な! あ!?」

 何が起こっているのかまるで理解できないカルシオン・ボーレの目の前で、荷電粒子砲が爆発、それを制御する為のシステムがダウンしたことを告げるメッセージが眼前に表示される。

 それは、荷電粒子砲そのものが爆発したものではなかった。グレネードだ。何者かが放ったグレネードが直撃し、故障させたのである。もともと安全の為のマージンを無視した最大出力で何度も放たれたそれは、そもそも自壊寸前であったところにグレネードの直撃を受けて内部の構造が完全に破損したという訳だ。

 だが、その程度の爆発ではパワードスーツには何の影響もなかった。表面が多少煤けただけである。

 するとパワードスーツは壊れた荷電粒子砲を放り出し、腰のボックスから何かを取り出し構えた。鉄さえバターのように切り裂く、超振動ナイフだった。

 しかしその動作を行っているのはやはりカルシオン・ボーレではなかった。彼は何とかコントロールを取り戻そうとするのだが、まったくどうすることもできなかった。

「馬鹿な! 馬鹿な!! どうして私の言うことが聞けないのだ!?」

 子供のようにベソをかきながら、彼はただ、自分が操る筈だったパワードスーツに操られ、人形のように振り回されるだけだった。


 そんな彼の前に、二人の男が立っていた。白髪交じりのがっちりとした体格の男と、三十くらいのまだ若くやはりがっちりとした体格の男だった。その立ち姿と顔つきからしてもうその辺りのただの体力自慢ではないことが分かる。バレト・ツゥアラネイアスと、その元部下で現在はタクシードライバーをしているネドルであった。

 バレトとネドルの手にはそれぞれグレネードマシンガンが握られていた。二人が、カルシオン・ボーレのパワードスーツの姿勢を崩し、荷電粒子砲を破壊したのである。

「ブロブを排除する。お前は左、私は右だ」

 バレトが短く命じると、ネドルが左に走り、バレトは右に走った。走りつつ、グレネードを放つ。左右に分かれながらも同士討ちにならない角度を互いに維持し、攻撃した。

 元とは言えさすが軍人という動きだったが、グレネードは全て空中で受け止められ、ブロブには届かなかったのだった。




「なんだ…!? 何が起こってやがる…?」

 何度も迸ったまばゆい光の帯と、町の方で上がる黒煙に、ゲイツはただならぬものを感じ取っていた。

「こりゃあ、ブロブどころじゃないな。尻をまくって逃げるのが正解だ」

 そう判断したゲイツの動きは迅速で躊躇いがなかった。目的の洞窟のすぐ傍まで来ていたが即座に踵を返し、撤退を決めた。それが彼の強みでもあっただろう。危機回避能力の高さだ。恐らく、ヤバいと判断すれば金銀財宝が目の前にあっても迷わず放り出して逃げる。

 ゲイツはそういう男だった。


 だが、撤退中の彼の視界に、不可解なものが飛び込んできた。カルシオン・ボーレのパワードスーツを相手に戦闘を行う二人の男の姿だった。その動きですぐに軍人崩れだと分かった。しかし、グレネードをことごとく空中で受け止められて攻撃が届いていない。

 グレネードは、ブロブを倒すには最適の武器ではあるが、弾速がどうしても遅いので、反応さえできればこの程度の芸当は不可能ではなかった。だが何かおかしい。カルシオン・ボーレと元軍人が戦っているということ以上に、パワードスーツが何かおかしかった。

「ありゃ、ブロブ…か?」

 パワードスーツの表面にブロブが張り付いているのが分かった。それでゲイツも察してしまった。

「おいおい…ブロブに操られてるってことか…?」

 カルシオン・ボーレが元軍人とあんな風に戦わなければいけない理由が思い当たらず、しかもカルシオン・ボーレのような素人が元軍人二人と互角の戦いをしているという事実だけで、ゲイツはそれに気付いてしまったのである。

 本当に勘の働く男だ。

 あまり首を突っ込む気は毛頭なかったが、この時点では彼の嗅覚が危険を訴えてこなかったこともあり、バッグから何かを取り出して手際よく組み立て始めた。

 ほんの数秒で組み上がり彼が構えたのは、スナイパーライフルだった。弾丸はもちろん麻酔弾。それを躊躇なくパワードスーツに向けて、引き金を引いたのだった。そしてすぐに銃を分解し、バッグに収めて再び走り出した。これ以上は関わる気はなかった。

 だがゲイツの放った麻酔弾が、状況を大きく変えることとなった。

 目の前の人間が放つグレネードには対応できていたブロブが、自分の探知外から放たれた、グレネードよりもはるかに弾速の早い麻酔弾には反応できなかったのだ。麻酔弾は確実にブロブを捉え、薬剤を注入する。

 効果はすぐに表れ、カルシオン・ボーレのパワードスーツを操っていたブロブの動きが鈍り、バレトの放ったグレネードをその身に受けて、きれいに爆散したのだった。


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