想い

 退役軍人バレト・ツゥアラネイアスは思案していた。彼が後見人を務めているシェリル・マックバリエトは自分の惑星に帰ったという連絡があったが、様子を探ってもらっている元部下の話によると、何やらあれこれ荷物をまとめ始めたらしいとのことだった。

『まさか……』

 シェリルは、根は真面目で努力家で頑張り屋なのだが、どうにも直情的で思い込みが激しく融通の利かない部分もあった。その為、指示されたことや命令されたことを無視してしまう傾向もあり、適性がないと諭したことで軍人になるのは諦めたとしても、早くに両親を亡くした彼女にとっての唯一の肉親だった兄を殺したブロブに対する復讐心までは冷ますことができたという実感はない。

 しかも、入植十周年のイベントそのものは滞りなく終わったものの、その中でイベント関係者が語っていたブロブハンターギルドと駆除業者共同によるブロブの一斉駆除の話を耳にした時に感じた胸騒ぎが現実のものになりつつあるという予感しかなかった。

 シェリルも、ブロブの駆除に参加するつもりではないのかと。

 何しろ、彼女が通う学校が近々夏季休講に入る筈だ。それがまた、何の因果か一斉駆除が行われる期間と一致してしまう。これを彼女が見逃すとも思えない。

 軍人は諦めたとしても、ブロブに復讐するだけなら駆除業者になればいい。軍人は厳しい規律や上からの命令には絶対服従ということが大事なのでシェリルのような自分の都合を優先し指示や命令を無視するタイプの人間にはなってもらっては困るのだが、民間企業に勤める分にはあまり口出しもできない。最低限の常識として指示や命令には従うのは当然でも、軍人のように<命令違反は銃殺>などという厳しい罰がある訳でもない。

 それで果たして彼女の暴走を抑えることができるのか……

 入植十周年の祝典が終われば、現在の住まいがある惑星に帰るつもりだったが、今は気楽な年金生活者でもあるバレトは、胸騒ぎを無視することができず、惑星ファバロフへの滞在期間を一ヶ月延長し、シェリルの動向を窺うことにしたのだった。

『シェリル……お前の兄の死は、私の判断ミスが原因であり、責任は私にあるのだ。ブロブは単なる野生動物に過ぎない。彼らに罪はない。彼らを恨むのはやめてほしい……』

 開拓団と共にこの地に降り立った時、部下達にせがまれて仕方なく撮った写真を見詰めながら、彼はそんなことを想った。

 軍人という職業柄、復讐に狂い人生を踏み外した者達を何人も見てきたが故の想いであった。

 彼はただ、シェリルに幸せになってほしいと考えているのである。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る