静謐なる懺悔は赦されるために。その温もりは手放さないために。

 双子の弟を事故で失った主人公の男性は、その記憶に囚われながら生きていた。弟を見殺しにしかできたなかった主人公を、誰も責めてくれなかった。そのことが、余計に主人公を苦しめた。
 そんな懺悔の日々の中で、主人公は一羽のウサギを飼っていた。しかしある日、そのウサギが脱走し、行方不明となる。良心の呵責に苛まれつつも、会社員として日々を送る。主人公の唯一の心の拠り所は、商店街の親しみやすい人々の存在だった。その商店街の中に、ポーランド雑貨の店主の女性がいた。
 主人公は女好きで人たらしの同僚にペースを乱されながらも、この雑貨店の女性店主に惹かれていく。その女性のポニーテイルに、どこか見覚えがあった。
 そして、思わぬところからのウサギが帰還し、女性との過去の接点を思い出し、主人公は命の重さについて考えるようになる。
 しかしある日、ポーランド雑貨の店に彼女の姿がなかった。代わりにいたのは、女性の兄を名乗る男性で……。

 静謐な雰囲気の中に、ひしひしと伝わる生きづらさ。
 まるで主人公の胸の内を描写したかのような、明けきらぬ夜にいるような感覚で拝読しました。それとは対照的に、活気ある商店街の描写も、芯の通った女性の描き方も、見事としか言いようがない一作で、まさに眼福!
 キャラクターはもちろん、それぞれを引き立たせる設定や場所、筆力、全てにおいてハイクオリティです。

 拝読していなければ、損していました。
 是非、是非、御一読下さい!

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