第33話 さて、報告だ。あぁかったりぃ、またアンタかよ……

「さっぱりしたぜ」


 俺はヒルデより一足先に、シャワーを浴びた。

 ここんとこほぼ毎日アドレーアと致してたんでタフになってた気はするが、それにしても10連続か。ヒルデがただの人間だったら気絶してたろうな。


 さて、いろいろスッキリしたし、行くか。


「後で艦長室に来いよ。そこで話がある」

「はぁ~い」


 まだ余裕そうな声だぜ。

 さすが空獣ルフトティーア、体力のタフさじゃ人間なんてメじゃぁねぇ。


 つーて、ひとまず満足してもらってるからな。

 俺が相手してやるのはまた別でいいだろう。


 ああ、そうだ。

 アドレーアにライラがいるように、俺にもメイドみてぇなのが欲しいな。


「なぁ、ヒルデ」

「はい」

「次から俺を『ご主人様』って呼んでくれよ」


 遊び半分でこう言った瞬間、ヒルデは元気よく飛び起きた。


「はい、ご主人様!」

「うわっ!? いいのかよ……」

「はい! 私をしつけてくださる方を、いつまでも名前でお呼びするのは申し訳ないと思ってたので!」

「変貌早いなお前……」


 俺は驚きながらも、ヒルデを連れて部屋を後にした。

 あ、もちろんシャワーくらいは浴びさせたんで。汗だくだったしな。


     ***


「戻ったぜ……って、来てたか」

「うん。アドレーア様に呼ばれたから」


 シルフィアにライラ、アドライアが合流していた。

 まぁ、10回相手する時間あったら、そりゃあ来てて当然だわな。


「となると、そろそろ報告か」

「はい、ゼルシオス様」

「そうだ、アドレーア」

「何でしょう」


 俺はヒルデとライラを交互に見る。


「メイド服。余ってんの無いか? 翼と尻尾だけ通るようにカスタマイズして、こいつ――ヒルデに着せてくれや」

「は、はぁ。ライラ」

「かしこまりました。ですが、それは報告の後に」

「ったりめーだ。優先順位ってもんがあんのは知ってるぜ。しっかしよぉ、またあのエーレンフリートおっさんかよ……」


 と、アドライアから怒りの気配がする。


「相変わらずですわね……!」

「お前もな」


 右足による頭狙いの蹴りを、掴んで止める。楽勝だな。

 あと、相変わらず縞パンなのなお前。


「手より先に足が出るクセ。直せったぁ言わねぇが、ナイフでも仕込んどけばいいんじゃねぇか?」

「あら、それは良い話を聞きましたわね。では、その手を蹴り裂いて差し上げましょうか」

「ま、そうなったら避けるだけだ。また縞パン見せてもらうぜ」

「~~~ッ、この!」


 アドライアは足を振って、強引に拘束を逃れる。

 俺もそこまで本気で掴んじゃいねぇしな。


 と思ったら顔面めがけて蹴りが飛んできたので、今度もしっかりかわしてからアドライアを抱きすくめる。

 そして、耳元でこうささやいてやった。


「助けた礼は、いつでも受け付けてやるよ。ま、処女相手に変な真似はしねぇさ」

「この、卑劣な……!」

「おいおい、どういうお礼かは言ってねぇぜ?」


 ま、そう思わせるフレーズは言ったけどな! だが、ホントにお礼は何でもいい。言葉でもいい。

 その分の手当はアドレーアの給与として引っ張りだすから、な。


 と、ライラの気配がするのでアドライアを解放してやる。


「ほら」

「お見事です。それと、ゼルシオス様」

「あぁん? まだあんのかよ?」


 話はアドライアにしたこと……じゃあなさそうだな。


「この後、お時間はございますか?」

「報告後だろ。大丈夫だけど手短に済ませろよ、めんどくせぇから」

「もちろんです。それでは」


 スッ、とアドレーアの後ろに控えるライラ。

 今一瞬だけ仕事モード解除しかけてたけど、個人的な話っぽいな。


 なぁんて思ってると、モニター画面が点灯する。

 一拍遅れて、アドレーアとアドライア、シルフィアにライラが礼をした。フレイアとヒルデも、四人のやり方を真似て礼をする。

 俺はしてねぇが。あ、軽く右手は上げたわ。


 誰が映ってるか? そんなもん、おっさんエーレンフリートに決まってらぁ。


「ゼルシオスの都合が付いたと聞いて連絡を寄越したのだが……問題ないな。それにしても、相変わらずなようだ」

「今はプライベートだからいいだろ、おっさん。俺に頭下げさせてぇなら、なんか公的な式でも開くこったな」


 アドライアからの刺すような怒りが飛んできてるが、無視だ無視。


「式か……。話によっては、開くかもしれんな」

「うっそだろおい!?」

「私は本気だ。……さて、アドレーア。明らかに純粋な人間ではない、見慣れぬ二人の件も合わせて報告してもらおうか」

「かしこまりました」


 さっきの偵察で掴んだ情報を、アドレーアが要約して話す。

 つっても、いつの間にかデータはまとめてたがな。俺の端末にもコピーあるし。


「……このようにして、空間の歪曲わいきょくによって多数の空獣ルフトティーアが出現しました。ゼル……アルヴァリア男爵がいなければ、被害は拡大していたでしょう」

「ヴェルリート・グレーセアにも記録があっだろうから、それサルベージしたら簡単に証明できるぜ」

「ふむ、分かった。して、そこの赤髪をした二人は?」


 フレイアとヒルデに、話が振られる。

 ちょっと興味深いな。


「おや、お前は聞かされていないのか。ヴェルリートと、我ら母娘おやこが交わした約定の話を」

「約定……? まさか、お前……いや、あなた達は!」

「そう、私ことフレイアと娘ヒルデは、かつてヴェルリートの妻であった赫竜エクスフランメ・ドラッヒェだ。ヴェルリート亡き今、再び大空に戻っていたが、そこにいるゼルシオスとシルフィアに連れられ……こうして、王国に助力することとなった」


 おっさんエーレンフリートは、しばし絶句してやがった。……いつも振り回されっぱなしなだけに、正直、ちょっとだけいい気味だぜ。

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