第32話 こいつ筋金入りのMじゃねーか? でも、けっこう可愛いな

「アドレーアか? 終わったぜ、これから帰る」


 手を焼かせたおてんば娘を手の上に乗せるなんつー皮肉じみたことをしながら、俺とヴェルリート・グレーセアはドミニアに向かっていた。

 あぁ、もちろん娘竜のこたぁ話してっぜ。


 あと、艦隊はメチャクチャにされた割に、死傷者ゼロなんつー奇跡みてぇな結果だった。ま、負傷者はそれなりに出てっけど、買う恨みもいくらか控えめだろうな。ホント、空獣ルフトティーアとか極空の白塔エクスグレン・ルフトゥルムの謎を知ろうって矢先にとんでもねぇことしでかしてくれたんだからよ。


 ちなみにアドシアの損害は48機。実働戦力90機の半分以上だから、赫竜エクスフランメ・ドラッヒェの力はダテじゃねぇってのがよくわかるぜ。実際はこれに戦艦への損傷もある。

 ドミニアやヴァーチアは性能もあって無傷だが、援軍に来た正規軍のカラドリウス、あとその護衛戦艦のアトラスとギガースは砲台のほとんどが潰されたって話だからな。


 ホントとんでもねぇ真似してくれたぜ、このクソガキ。年が上とか知ったこっちゃねぇ。尻をブッ叩きたくなる。


 それはそうと、この後どうすっか。

 そう悩んでるうちに、ドミニアが見えたぜ。


「これから着艦する。許可よこせ」


 さっさと許可をもらうと、俺は手際よく着艦を済ませた。

 さて、娘竜を連れて行きますかね。


 生で見てみっと、けっこう可愛いな。真紅の髪に、真紅の瞳。竜ならではのツノと翼、そして尻尾。母竜に似てんな。

 ……正直、けっこう俺好みだぜ?


「おら、行くぞ」

「……」


 返事もせず、俺をじっと見てる。

 あれ、こいつ喋れたよな?


「おい」

「……イケメンだぁ」

「あぁ?」


 何突拍子もねぇこと言ってんだ、こいつ?


「私をメチャクチャにしてくれた人がこんなにイケメンだったなんて……惚れそう」

「俺のことか? 顔はそんなに悪かねぇつもりだが……」


 面と向かってイケメンと言われちゃ、いくらか照れちまうぜ。

 と、そんなことよりも。


「いいからとにかく来い! 話がある連中が待ってんだ」

「はぁい」


 娘竜は甘ったるくとろけてそうな声で、俺に返事した。懐かれちまったか?

 あー照れるし腹立つし、腕引っ張ってくかコンチクショウ!


     ***


「おら、入るぞ」


 俺はドミニア艦長室に、ノック無しで入る。

 先に来てた母竜が、娘竜を見るなり一発頬をぶちやがった。いい音したぜぇ……。


「まったく、お前はなんてことをしてくれたんだ」

「ごめんなさぁい」


 娘竜が謝るのを見た母竜は、すぐに怒りを消す。

 さすがだぜ、言うことだけ言ったらすぐ終わり。うちのクソ親父と違って、いい親だぜまったく。あ、“元”クソ親父か。


「あら、ゼルシオス様」


 アドレーアが俺を呼ぶのは、俺に今さら気づいたってワケじゃねぇ。


「なんだ?」

「先ほどまで、生死の綱渡りをされておられましたものね。うふふ」


 なんかニヤニヤしてるな。……あ。

 俺の男としての本能がコンニチハしてたわ。ズボンパンパンだわ。


「あー……なんか、な」

「あの、でしたら私が」


 と、娘竜が名乗り出る。

 ……こいつ変態なの?


「アドレーア」

「時間でしたら、まだたっぷりございます。お父様への報告も、完全に撤退へ移行してからでも遅くはありませんので」


 察しがいいなチクショウめ。


「あいよ。母竜」

「ずっと、娘に男を教えてやろうと思っていたのだ。いい機会だと思っている」

「俺は責任取らねぇ……っつーか、一途にゃなんねぇぞ。ハーレム目指してっからな」


 言った。言っちまった。

 普通そんなこといったらぶっ殺されもんだが、さて……?


「ハーレムでしたら、お父様が既に。お母様……いえ、おきさき様は二人いらっしゃいますので」

「既に言っていたのに、何を今さら。私は構わんぞ。この子が良ければな」

「もちろんです。時々お仕置きしてくれれば、それで」


 娘竜までダメ押しかよ。

 はー、逃げ場ねーじゃねぇか。


「つーか、まだ足らねぇのかよ」

「はい。それに、ゼルシオス……さんは、まだ私にしたそうに見えますよ? お仕置き」


 こいつ筋金入りのMじゃねーか?


「しゃーねぇなぁ。そこまで言うなら、してやるよ」

「やった! ありがとうございます」

「あと、いつまでも母竜娘竜じゃ呼びづれぇわ。なんか名前決めとくか」


 “エクスフランメ・ドラッヒェ”から取って……と。


「決めた。母竜おまえが『フレイア』、娘竜おまえが『ヒルデ』な。どうよ?」


 割と似合ってそうだな。

 あ、ちなみに母竜のは、北欧神話からな。一応知ってんだよ前世で。


 で、肝心の反応は……っと。


「フレイア……いい名だ」

「ヒルデ、けっこう響きが可愛いかも」

「問題なさそうだな」


 ナイス、俺。

 そんじゃ、お仕置き決行ですかね。


「ヒルデ。行くぞ」

「はぁい」


 そういうワケで、俺はベッドルームでヒルデに“お仕置き”をたっぷりとしてやるのであった。

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