第30話 よくも艦隊をメチャクチャにしてくれたな、テメェ。痛ぇのの一発は覚悟しろよ!

『マシンガンが効かない!? うわあぁっ!』

『そっちに行ったぞ! クソ、なんて機動性だ!』

『また1機、撃墜されたぞ!』


 突如現れた赫竜エクスフランメ・ドラッヒェの娘竜によって、艦隊は大混乱に陥ってるのが無線でよく聞き取れる。

 現状、気配を探ればあれでも人死には出てねぇ気がするが、万一誰かが死んだら今後がだいぶ難しくなるのは容易に想像できた。死ぬのが人間側じゃあ元より、娘竜や母竜でも大問題だ。


「シルフィア、急げ! 俺は気にしなくていいから、とにかくドミニアまで向かえ!」

『了解!』


 生身じゃあ限度がある。

 運が良くて取りつく程度で、それもすぐに振り払われて殺されるのがオチだ。今は一刻も早く、ヴェルリート・グレーセアの元に戻る必要があった。


『こちらグライフ2、グライフ1がやられた! 脱出はしたが……ぐうぅっ!?』


 なんて言ってる間にも、次々と味方がやられていく。

 だけど、妙なことがある。


 無線を聞くたびに、脱出の様子が必ずあることだ。

 まるで、娘竜のヤツ……手加減しているように見えるぜ。


「おい、赫竜エクスフランメ・ドラッヒェ……じゃねぇ、経産婦!」


 確かめてみるために、俺は母竜に無線を入れる。


『何だ、ゼルシオス』

「通じたよ。……それよりだ。テメェの娘は、アドシアの中に人がいるのを知ってんのか?」


 なぁんて質問すると、母竜のため息が漏れ聞こえる。


『ハァ……当たり前だ。あのが何年生きてると思ってる。ヴェルセア王国が誕生したよりも、ごくわずかに短い程度だぞ』

『え、7500歳足らずなんですか娘さん?』


 シルフィアが思わず叫ぶ。いや、あの、それ俺のセリフ!


『その通りだ。ヴェルリートが健在の時に産んだ娘だからな。そして、私は空獣ルフトティーアであり、ヴェルリートは人である。この意味が、分かるか?』

「人と空獣ルフトティーアのハーフってんだろ?」


 何を今さら。


『そうだ。そして、ヴェルリートのいた当時から、アドシアなるものは存在していた。そのヴェルリート・グレーセアがまさにそうであったように』

「オーケイ、もう分かったぜ」


 そりゃあ知ってるってワケだ。

 だが、俺の疑問は尽きねぇ。


「じゃあ、何でパイロットを殺さずにいるんだ、あいつは? 見た感じ、お前が連れ去られてたのにキレてたイメージだぞ?」

『元々遊び好きな子でな。親思いの子でもあるのだが、遊びたがりなんだ』

「遊びでアレかよ!?」

『死人は出さんように遊んでるぞ。人間が好きな、稀有けう空獣ルフトティーアだからな』

「言ってることとやってることがメチャクチャ過ぎんだろ……」


 俺の予想の数十倍、ぶっ飛んだ理由だった。

 あの娘竜、俺より自由人してるぜ。


 だが、かりに母竜の言ってることがホントだとしても、やっぱいつ死人出てもおかしくねぇわアレ。

 つーか、誰がどう見ても敵対的行為だろ! クソ、あのおてんば娘め。


『ゼル君! 着いたよ』


 と思ってたら、シルフィアから到着のお知らせが来たぜ。

 格納庫の奥に、ヴェルリート・グレーセアがいる。


「はいよ! 降ろしてくれや」

『了解!』


 よし、今すぐ娘竜を止めに……と、その前にシルフィアに言っとくか。


「……母竜頼むわ! アドレーアにも話してっけど、くれぐれも傷つけさせんなよ!」

『分かってる!』


 シルフィアの力強い返事を聞きながら、俺はヴェルリート・グレーセアに向かう。

 さっきまでとは違って、漆黒に戻ってやがった。起動しねぇと光らねぇ、ってか。


 俺はすぐさまコクピットに乗り込むと、起動プロセスを終える。


「よし、これからおてんば娘を止めるぜ!」


 赫竜エクスフランメ・ドラッヒェといえど、ヴェルリート・グレーセアの前じゃあ敵じゃねぇ。

 とはいえ、今は乱戦になってる。さっき見えたからな。


「出るぞ!」


 合図をして、すぐさま発艦する。

 相変わらずの猛烈な加速だが、気にしてる余裕なんてねぇ。


「……あいつ!」


 また1機、アドシアが撃墜される。脱出は無事に出来てるが、腹部から下が容赦なくぶっ壊されてるぜ、あんちくしょう。


『ひっ!?』


 ……ってオイ! 今のはアドライアの悲鳴じゃねーか!

 娘竜あいつ、ヴァーチアのブリッジの前にいやがるぞクソが! しかもブリッジの真ん前に、ライラの紅那内くないが見える……まさか、ライラごとまとめて潰す気か!?


「何してやがんだこの野郎!!」


 気づけば俺は、全力で操縦桿を前に押し込んでた。

 そして、鈍い感覚が全身を襲う。


 そう、俺は赫竜エクスフランメ・ドラッヒェに、体当たりを敢行してたのだ。

 通常のアドシアの倍はある巨体がぶつかれば、全高100mの赫竜エクスフランメ・ドラッヒェでもただじゃ済まねぇ。


 勢いのままに機体を推進させ、ヴァーチアから強引に引き離す。

 しばらく進んで艦隊から離れた頃に、俺はタンカを切った。


「よくも艦隊をメチャクチャにしてくれたな、テメェ。いてぇのの一発は覚悟しろよ!」


 殺すなと言われた上に、殺すつもりなんかさらさらねぇ娘竜。

 だが俺は、好き放題暴れまわりやがったこいつに一発入れてやらねぇと気が済まねぇでいた。


 だから俺は――双剣を腰に下げたまま、ボクシングの構えを取った。


「双天一真流奥義、無刀八刀むとうはっとう。剣が無くても、つえぇんだよ!」

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