第29話 クソ、話を聞きやがれおてんば娘!

『前方に味方! アークィスが3機だよ!』


 安心したように叫ぶシルフィア。

 だが赫竜エクスフランメ・ドラッヒェは、アークィスがたった3機でどうにかなる敵じゃねぇと俺は思ってた。


「どこまで近づいてる!?」


 桜玖良さくらは機体の特性上、狙撃も可能なカスタマイズだった。その分、レーダーやカメラの精度が高められているはず。

 赫竜エクスフランメ・ドラッヒェの速度を考えりゃ、そろそろ見える範囲まで追い付いてきててもおかしくはなかった。


 と、シルフィアに確かめるよりも早く、アークィスが反応する。


『あのウロコは……!』

赫竜エクスフランメ・ドラッヒェだと!? こんな低空にか!?』

『だが、こっちに向かってきてるのは間違いない!』


 やっぱ見えてんだな。じゃあ、もうシルフィアには逃げててもらうか。


「シルフィア! 俺たちをドミニアまで逃がしてから、あいつの迎撃に向かえ!」

『了解!』


 今の桜玖良さくらじゃ、撃墜されたら大ごとだからな。つーか、俺は間違いなく死ぬ。


 と、桜玖良さくらがアークィスたちの脇を通り抜けた瞬間、アークィスが発砲を開始した。生身で聞くとうるせぇ音だな。

 だが、それで倒せるとはまるっきり思えねぇ。


『撃て撃て! 近づけさせるな!』


 俺はどうにか後ろを向きながら、アドシアの指の隙間から戦況を覗き見る。

 うん、案の定効いてねぇな、銃。100mmミリ砲が豆鉄砲だ。ウロコだけでアドシア用の盾が作れるんじゃねぇか?


 と、赫竜エクスフランメ・ドラッヒェの気配が変わる。


「避けろ! 早く!」


 俺は叫ぶが、アークィスは攻撃に夢中で――3機とも、胸より下を一撃でえぐり抜かれた。あの位置ならコクピットは無事だろうが、衝撃はどれほどか。

 直後、自動で作動したであろう脱出装置により、3つのコクピットが排出される。


 俺は顔の脇に着けたままの無線機で、素早くアドレーアに連絡を入れた。


「こちらゼルシオス! 赫竜エクスフランメ・ドラッヒェ1体がそちらに急行中! アークィス3機が撃墜された、各機は桜玖良さくらの援護を頼む!」


 まだ、前列に位置する正規軍の戦艦にもたどり着けていない現状で桜玖良さくらが撃墜されれば、その時点で俺は終わりだ。運が良くて行動不能、悪けりゃそのまま殺される。

 あと、しれっと撃墜も伝えてあるが、あれは救出部隊の出動要請も兼ねたモンだ。前世同様に、パイロットは貴重な存在だからな。


『ゼル君! 攻撃位置やタイミングの予測は出来る!?』

「あいよ、やってやるぜ!」


 俺の勘を、俺に次いで信頼してんのはシルフィアだ。さすがに突拍子もねぇことを言えば驚かれるが、それでもこうして戦術などに用いた経験は何度もある。

 と、早速攻撃の気配がするぜチクショウ。容赦なしだなおてんば娘!


「ッ、来るぞ! 高度を下げろ!」


 言い終えると同時に、すぐに桜玖良さくらの高度が下げられる。

 隙間から見てみれば、さっきまで機体のいたとこを爪が薙ぎ払っていやがった。


 だが、これだけで行動が終わるとは思ってねぇ。


「ブレス来るぞ! 加速しろ!」


 赫竜エクスフランメ・ドラッヒェの最たる攻撃手段、ブレス。

 さっきコクピットに入れたやつの子供らしいが、それでも火力に大差はねぇ。


 速度が上がり風が肌を突き刺さんとするのを実感しつつ、俺はさらに薙ぎ払いを警戒する。


「左から来るぞ!」


 機体が赫竜エクスフランメ・ドラッヒェに対して右に大きく傾いた直後、炎が通り抜ける。

 あぶねぇ、下手したら輻射熱で俺、死んでんぞ。


『やめろ!』


 と、桜玖良さくらのコクピット内にいる赫竜エクスフランメ・ドラッヒェが攻撃の中止を呼び掛ける。


『私はわけあって、この機体の中にいる! 今すぐ攻撃を中止しろ! でないとお母さんは怒るぞ!』


 そうだった。今俺たちを襲ってるのは、乗せている赫竜エクスフランメ・ドラッヒェの娘だったな。


 話せないのか、話さないのか。空を飛んでやがる赫竜エクスフランメ・ドラッヒェが、俺たちを見る気配を放つ。

 敵意はいったん、落ち着きつつあるようだ。


『落ち着いた……?』

「今はな。母親の声をちゃんとわかってて何よりだぜ」


 だが、すぐに赫竜エクスフランメ・ドラッヒェの敵意……いや興味は、別の場所へと向かう。


『待て、何を……!?』


 母竜――もう紛らわしいので母娘おやこで呼び分けるわ――が慌てて止めるも、おせぇようだ。

 最悪だ、艦隊が襲われる! 話を聞きやがれおてんば娘!


 とにもかくにも、向かっちまった娘竜を止めなくちゃなんねぇ。

 赫竜エクスフランメ・ドラッヒェの耐久力だと、艦砲射撃でもそうそうくたばらねぇからな!


「アドレーア、赫竜エクスフランメ・ドラッヒェがそっちに行ったぞ! 迎撃準備!」

『ゼルシオス様、ご無事のようですわね。かしこまりました、ただちに砲撃準備を始めさせます』

「あと、桜玖良さくら――アドシアの受け入れ準備! 大事なお客さんを連れてるからな、くれぐれも攻撃するなよ!」

『合わせて厳命しますわ。どうか、ご無事で』


 俺はそれだけ言うと、桜玖良さくらのコクピット内にいる母竜に伝える。


「許せ。荒っぽい方法になるが、止めなくちゃなんねぇ」

『分かった。だが、殺さないでくれ。あれでも、私の可愛い娘なんだ』

「知ってるよ。だからさっさと、俺はドミニアに戻る。でねぇと、止める以前に艦隊が死ぬぜ。シルフィア」

『大丈夫! ドミニアに着艦すればいいんだよね!』

「そうだぜ。急ぎで頼む」


 桜玖良さくらがさらに加速したのを肌で感じながら、俺たちはドミニアへと向かっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る