第28話 あんたの娘が……!? 竜さらいってか、俺たちは!

「これでも、私はヴェルセア王国建国の日より前から生きていてな。歴史をずっと、空の高みから眺めていた」


 いったいいくつなんだこの経産婦……。


『あの、ヴェルセア王国建国って、7,500年前でしたよね? 確か、そう習ったんですけど……』


 思わずシルフィアが尋ねる。それ、俺が言おうと思ってたが……まぁいいや。


「その通りだ。私の年は軽く1万を超えるかな」

「どんだけ長生きしてんだババァ!」


 本気でツッコミが入っちまった。

 いや、あの、前世基準の年齢にしても4,000歳以上って……前世の皇紀よりなげぇぞ。


 つーか、その年齢としでアドレーアやシルフィアと大して変わらねぇ見た目って……。若作りにゃあ見えねぇけど、どうなってんだか。


「おや? 私に欲情したか? 経産婦であるこの私に?」

「否定できねぇのがいてぇとこだ」


 擬態っつーから本当の姿じゃねーんだろうけどさぁ……実年齢知っても、こりゃいきり立つって。

 俺も男なのをもう一度思い知ったぜ。


「擬態するならもうちょっと年食った姿にしてくれよ……」

「それでは不都合だからな。若い人間の姿が好ましい」

「どう好ましいんだか?」

「いろいろと便宜を図ってもらえるからな」


 あー……何となく、察した。

 が、変な好奇心が湧いた俺は、赫竜エクスフランメ・ドラッヒェに意地悪な質問をぶつけてみる。


「“初めて”は誰に捧げたんだ?」

「初めて? ……なるほどな。無論、ヴェルリートに、だ」


 意外と貞操はしっかりしてたのな。


「かくいうお前も、生息子きむすこではないようだが」

「生息子だぁ? 生娘のそっくりさんか?」

「男版だ」

「あー……。確かにな。ちょいと前に、あげちまったよ」

「なるほど、手の早いことだ。だが、お前の年齢ではそうでなくちゃな」

『ゼ、ゼゼ、ゼル君!?』


 おっと、いけねぇ。シルフィアいたんだった。


「すまん。お前のいる前で話すことじゃあなかったな」

『い、いや、それはいいんだけど……』


 本心っぽいな。話すこと自体は問題ないらしい。

 ま、俺のデリカシーの無さは今さらな話でもあっけどな。


 さて、いい加減に連れ帰るとするか。


「シルフィア。コクピットハッチ開けて、彼女を乗せてやってくれ。スペースはあるよな?」

『うん。十分空いてるよ』


 桜玖良さくらの胸部装甲がゆっくりと開き、赫竜エクスフランメ・ドラッヒェを招き入れる準備を整える。


 アドシアのコクピットは、広めに設計されてるのが常だ。俺のヴェルリート・グレーセアは、もっとひれぇがな。

 まぁ、シュタルヴィント改に乗ってたときも、十分広いと感じてたぜ。だからヴェルリート・グレーセアだけが特別なワケじゃあねぇ。


「では、また後での」

「ああ。俺のいる艦の艦長と、話をしてもらうぜ」


 赫竜エクスフランメ・ドラッヒェが乗り終わると、胸部装甲が閉じだす。俺はそのまま、手のひらの上だ。乗る理由もねぇしな。


「そんじゃ、とっとと帰るか……ん?」


 また、嫌な予感がする。

 今度は今までのとは比較にならねぇ、命にかかわるような嫌な予感だ。


「シルフィア! 今すぐ全速力でヴァーチアに向かえ!」


 俺は桜玖良さくらの手のひらの上にしゃがむと、シルフィアが気を利かせたのか、空いているもう片方のマニピュレーターで落ちないように覆いかぶせてくれる。


『ゼル君が言うならやるけど……どうしたの?』

「何か……とてつもないものが、来そうだ。それこそ、さっき戦った赫竜エクスフランメ・ドラッヒェと同等以上の……」


 隙間から漏れる風を受けながら、俺は上を見る。

 桜玖良さくらの機体だけが見えると分かってても、せざるを得ねぇほどに強烈な勘だ。


「レーダーは出来る限り広域にしろ!」

『やりすぎるとゼル君が危ないことになるよ!』

「ああ、だから“出来る限り”っつったんだ!」


 高出力のマイクロ波なんて、浴びたら肉体が爆発すっからな。

 前世で言う電子レンジだ。


「クソ、杞憂であってくれよ……!」


 なぁんて言うが、俺の勘ってのは、良い事も悪い事もまとめて当たるもんだ。前世からそうだったが、例外なんてのは一切なし。未来予知かと言いてぇくれぇに、次々と当たりまくったんだ。


『っ、レーダーに識別不明アンノウンの表示が!』

「何だ! アドシアか、空獣ルフトティーアか!?」

『最大望遠――』


 シルフィアの機体が、首だけを後ろに向けた気配がする。

 何だ、何が近づいてやがる……!?


『ッ、そんな!』

「おい、何だ! 何が来た!?」

『あのウロコ……赫竜エクスフランメ・ドラッヒェだよ!』

「嘘だろ!?」


 シルフィアの隣へと入らせたっつっても、赫竜エクスフランメ・ドラッヒェは「伝説」クラスだぞ!?

 そう都合よく、2匹も来てたまるか!


『聞こえるか、英雄の末裔よ』

「ゼルシオスだ!」

『では、ゼルシオスよ。あれはおそらく、私の娘だ。機体の中から見える映像から、考える限りはな』

「あんたの娘がどうしてこんな高度まで来てんだ!?」


 近くの空獣ルフトティーアが、怯えで逃げた気配は感じられなかった。

 襲撃後だから、この辺にゃあいねぇのか……?


 と、赫竜エクスフランメ・ドラッヒェは無線で、さらに状況を伝えてくる。


『考えられるのは……私を連れ戻すため、だろうな』

「人さらいならぬ竜さらい扱いってことかよ、俺たちは!」


 こんな短時間で出くわすにゃあワケがあると思ってたが、それなら腹立つことに納得いくぜコンチクショウ。


「シルフィア、援護頼んどけ! 今からじゃねぇと間に合わねぇぞ!」

『了解!』


 いまだ姿の見えねぇもう一匹の赫竜エクスフランメ・ドラッヒェから、最大速度で逃げる桜玖良さくら

 だが、距離は確実に縮まってきてると、俺は確信せざるをえなかった。

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