第24話 ヴェルリート・グレーセアに、真の力があるってのか!?

「ぬううっ……私も衰えたとはいえ、一撃を見舞うか」


 本気の一撃は、しかし赫竜エクスフランメ・ドラッヒェを倒すには至らない。耐久力は三首竜サーベロイ・ドラッヒェ以上だな。


 とはいえ、今の一撃が通じるなら、倒せねぇワケでもねぇな。


「どうした耄碌もうろく竜。その程度か?」

「まさか。我が力は、いまだ振るわれていない」


 その言葉と同時に、レーダーが高濃度の重素グラヴィタを検出する。

 間違いねぇ。高高度にいる空獣ルフトティーアが持つ防御手段、重素障壁グラヴィタ・ヴェンデだ。突破する手段は、ごく限られる。


「引きこもって安全な場所からなぶり殺し、ってかぁ? いい趣味してんぜ!」

「まさか。この壁に絶対の自信など寄せていない」


 俺は挑発をしながら、あるものを探す。

 飛び回ったが、近くにあるはずだ。気配はそう遠くねぇ。


「俺が突破できるような言い草だなぁ?」

「そうだ。かつて私は、この壁をその機体に破られたのだよ。ゆえに、今の傷が付けられたのだ」

「俺のご先祖様、ってか? テメェと喧嘩なんざ、何しでかしたんだかな」


 さらに挑発を重ねつつ、俺は気配の位置を掴んで飛行する。


「行き違いというものだ。ところで、逃げるつもりかな?」


 背面のサブカメラが捉えた映像は、俺のヴェルリート・グレーセアに追い付きそうな速度で飛んでくる赫竜エクスフランメ・ドラッヒェがバッチリ映ってやがった。

 なんつー速さだよ。


「逃がすつもりはないぞ。まだ私の目的は、果たされていない」


 と、警報が鳴る。

 熱源探知――赫竜エクスフランメ・ドラッヒェが持つ、炎のブレスだ。かすっただけでもアドシアの外装をかす威力、まともに食らいたくもねぇ。


 俺は機体をひねりつつ、ブレスを回避する。

 まだ横にいでくる気配を感じつつも、目的のものを見つけた。


「よっと!」


 目的のもの――三首竜サーベロイ・ドラッヒェ重素臓ゲー・オーガンを掴むと、薙ぎ払うように吐いてきたブレスを急降下でかわす。

 重素障壁グラヴィタ・ヴェンデへの対策の一つ――習い、実践してきたことだ。


「おや、それは」

「気づいたようだな。そうだよ、テメェのバリアをぶち貫く道具だ」


 俺はヴェルリート・グレーセアが握りしめた重素臓ゲー・オーガンを、重素障壁グラヴィタ・ヴェンデへ投げつける。

 最初はただ、べちゃりと音を立ててくっつくだけだ。だが、ここからが本番だ。


「面白い。試してみるがいい」

「随分と余裕ぶっこいてんなぁ! 後悔すんなよ!」


 俺は呼吸を整え、奥義“疾雷しつらい”の構えを取る。

 切っ先を敵に向け、瞬きよりも短い間で刺し貫く技だ。


 余裕か、あるいは別の意図か。

 両方を滲ませながら、赫竜エクスフランメ・ドラッヒェは何もせず見ているだけだ。


 気に食わねぇ……その余裕、突き崩してやる。

 俺は息を吸い終えると、一気に操縦桿を押し込んだ。


 次の瞬間、矢になったかのような勢いで、ヴェルリート・グレーセアが前へと進みだす。

 生身で使ったこともあるこの技だが、やっぱアドシアだとだいぶ違うな。


「はあああああぁっ!」


 一気呵成に、前へと進む。

 感覚がスローになるのを実感しながら、切っ先が重素臓ゲー・オーガンに触れるのを確かめる。

 その勢いのまま、重素グラヴィタを帯びた大剣が重素障壁グラヴィタ・ヴェンデに触れ――そして、あっさりと突き破った。


 言うまでもなく――赫竜エクスフランメ・ドラッヒェの古傷を、再びえぐる。


「ぐううぅっ……!」

「ハッ、余裕ぶっこいてた割には大したことなかったなぁ!」


 そのまま赫竜エクスフランメ・ドラッヒェを押し込みながら、大剣を根元まで突き刺す。

 だが、それでも赫竜エクスフランメ・ドラッヒェを、倒しきった手ごたえがしねぇ。弱点に二発叩き込んでんのに、まだ消えねぇなんてマジかよおい。


 なんて思っていたが、よくよく考えると行動不能にさせるだけで十分だ。押しのけて、アドレーアたちのいるとこまで戻りゃいいんだもんな。

 それに、今の赫竜エクスフランメ・ドラッヒェにゃ、動ける余力は残ってねぇだろう。何でか知んねぇが、こいつを倒す気にゃあなんねぇ。


「そっちが邪魔したんだから、お望み通り押し通ったぜ……あばよ」

「待て」

「何だよオイ?」


 その言葉で、俺はハッとする。

 敵意は消えてたが、機体の熱が上がりっぱなしだ。赫竜エクスフランメ・ドラッヒェが炎を操る空獣ルフトティーアっつっても、ここまで上がるのは異常じゃねぇか?


「今の一撃は解の一つだ……だが、私が考えうる限りの最高の解では、なかったな」

「何だと? 傷ついておきながら、負け惜しみを――」

「負け惜しみではない。最高の方法で私に一撃を見舞えば、私は既に消え去っている」


 おいおい、マジかよ。

 今の一撃でもだいぶ本気込めたってのに、それでもまだ足んねぇってか?


「どういうこった?」

「その機体の真の力を、お前は引き出せていない」

「なっ!?」


 今でもつえぇヴェルリート・グレーセアなのに、まだ隠してる力があるってのかよ!?


「既に機体は、真の力へと目覚めつつあるようだぞ。後はお前が気付くか、だ」

「異常な熱があるってことか?」

「ああ。だが、それを目覚めさせる方法は、お前自身で見つけるのが使命だ。私はそのための契機を、与えたにすぎん」


 契機だと? まるで俺を鍛えるかのような言い方だ。


「……テメェ、敵なのか味方なのかどっちだ」

「時が経てばいずれ知れよう。今は敵で良いだろうがな」

「そういうことにしとくぜ。今は時間が惜しいんだからよ」


 ただ俺を見つめる赫竜エクスフランメ・ドラッヒェに背を向け、俺はドミニアやヴァーチアの元へと全速力で向かいだした。

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