第23話 伝説の巨竜が、俺に何の用だ?

「ほぉ……降りてきた、と」

「そうだ」


 赫竜エクスフランメ・ドラッヒェは、真紅のドラゴンそのまんまな見た目と裏腹に流暢な人語を喋る。しっかり知識を叩き込んでなけりゃ、今頃は声も出せなかったぜ。


「何のためだ?」

「警告のつもりでな」


 警告だと? 空獣ルフトティーアである赫竜エクスフランメ・ドラッヒェが、俺に?


「どんな警告だ?」

「侵略――そう言えば、伝わるか?」

「お前は言葉を端折はしょりすぎてんだろうが」


 言わんとすることは分からんでもねぇが、それでもキッチリ話させる。

 アドレーアとの通信は、わざとずっとオンにしたままだからな。


「それもそうだな。端的に言おうか――極空の白塔エクスグレン・ルフトゥルム重素グラヴィタが、枯渇しつつあってな」

「だから俺たちの住む世界を狙う、と?」

「その通りだ。そして、お前たちにとっては不可解な出来事があっただろう?」

「少なくとも俺にゃあ心当たりがあんな」


 高度1,000m以下への空獣ルフトティーアの侵入、それに今までになかった戦術的行動。なるほど、戦争の前ぶれってワケか。

 気配からしても、嘘をついてる様子もねぇ。


「しっかしよぉ。だったら、テメェが指揮官かどうかを疑っちまうな」

「違うと言ったところで、お前は信じるか?」

「俺は信じられるぜ」


 気配が読めるからな。

 状況、それに目の前の存在エクスフランメ・ドラッヒェの“格”を考えりゃ、普通は疑いたくなるが……コイツは本当に、指揮官じゃねぇ。


「疑っておきながら、か?」

「人間としてなら自然な考えだろうがよ。俺は違うって分かってっけどな」

「なるほど、私に答えを引き出させたか。それでこそ、英雄の末裔よ」

「あぁん?」


 こいつも俺を、英雄の末裔と言いやがった。


「その機体に乗っていれば、それすなわち英雄の末裔の証明だろう」

「そういうことかよ。じゃあ、例えばだが……過去にこのヴェルリート・グレーセアと、やりあったってぇのか?」

「まさしく」


 だろうな。でなけりゃ、今までずっと眠ってたはずのヴェルリート・グレーセアを知ってるワケがねぇ。俺でさえも、探し当てるまで知らなかったんだぜ?


 なんて思ってると、赫竜エクスフランメ・ドラッヒェから殺気が出てくるのを肌で感じる。


「さて、私は同胞たちの戦争とは無縁だが……その機体を見れば、血が騒がずにはいられなくてな」

「先祖の恨みってヤツかよ、はた迷惑なクソ竜が! 俺は行かなきゃなんねぇ場所があんだよ!」

「その前に、私に付き合ってもらおうか。なに、恨みなどない。ただ、英雄の末裔の強さを見たいだけだ」


 赫竜エクスフランメ・ドラッヒェから放たれる殺気、そして熱気が強さを増す。

 ヤロウ、問答無用でる気か!


「上等だ! 速攻!」


 俺はすぐさま、“無影むえい”を繰り出す。

 狙いは首の根本にある、目立つ傷だ。


「かつての英雄と同じく、か。だが、二度は受けんぞ」


 赫竜エクスフランメ・ドラッヒェは巨体をわずかに動かすと、“無影”を真紅のウロコで無効化する。


「チッ、そう容易くはいかねぇか」

「ずいぶんと昔に受けた傷でな。ウロコが剥げている以上、そう簡単に同じ場所へもらう訳にはいかないのだよ」


 防御力を見せつけられた気分だ。

 角度を付けたのはともかく、ウロコだけで“無影”が簡単に弾かれるとは思わなかったぜ。さっすが「伝説」、ケタ違いの強さだ。


 しかし、さっきから温度を示す計器の数値が上がりっぱなしだ。

 内部は空調が効いてるが、気配は熱を伴った殺気をビンビン感じてる。下手したら、直接内部に熱が来なくても蒸し焼きにされちまう熱さだぜ、こりゃ。


「どうした、それまでか?」

「ハッ、調子に乗んなよクソデカ竜。まだまだッ!」


 弾かれたっつーても、“無影”は距離が離れるほど威力が落ちる。

 普通の空獣ルフトティーアなら必殺の間合いでも、赫竜エクスフランメ・ドラッヒェ相手なら通じなかったのがさっきの一撃だ。


 だが、それがどうした?

 遠距離が通じねぇなら、別の手段で攻撃すりゃあいい。それに、ヴェルリート・グレーセアのダメージはゼロ。

 じゃあ、俺の得意な近距離っつーこった!


 なんて思いながら、俺は再び“無影”を繰り出す。


「悪くないな。だが、避けるには容易い」


 赫竜エクスフランメ・ドラッヒェはあっさりと、一撃をかわす。防御すらせず、飛ばした斬撃を無意味と化した。

 だが、それは俺の狙ってた通りだ。


「よそ見してんじゃねぇよ!」


 回避の隙を突き、俺の勘が示す最適な道のりを飛んで死角へ潜り込む。

 俺はヤツの古傷に、全力の斬撃を叩き込む。自慢のウロコが無い剝き出しの皮膚に、月影つきかげの刃は確かに傷を付けた。


 ……だが。


「これで決着ケリ付くほど、ヤワじゃあねぇわな」


 俺は健在な赫竜エクスフランメ・ドラッヒェを尻目に、攻撃後の離脱を済ませた。

 そのまま双剣を中段に構え、次に備える。


「面白れぇ。そう簡単に、俺を逃がすつもりはねぇってことかよ」

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