第25話 待たせたな! 今まで邪魔されてた分、全部こいつらにぶつけてやる!

 機体を加速させている間も、熱量を示す計器は異常な数値を叩き出していた。

 だが冷静になって、肌で温度を感じると、コクピット内にゃあまったく問題がねぇ。警報のたぐいも鳴っちゃいねぇ。


 まるで、最初からこの異常な熱を叩き出すことを想定して設計したかのようだ。


「おかしくなったのは……赫竜エクスフランメ・ドラッヒェと戦いだしてから、か」


 雑魚をいくら狩っても、こんなことは起こらなかった。

 やっぱ、あのクソデカ竜がなんかやらかしてくれやがったな。


「とにかく、急がねぇとな! ドミニアやヴァーチアは……」


 広域レーダーを起動させながら、俺はアドレーアたちの元まで戻る。

 と、ようやくレーダーの端っこに味方を示す青い光点が出た。


「いた、とりあえず無事か! 映像最大望遠、様子見せろ!」


 別のウィンドウでモニターを映し、味方の状況を確かめる。

 そこには――多数の空獣ルフトティーアに襲われている戦艦やアドシアが、映っていた。


「クソ、ほとんどぶった斬ったはずなのにまだあんだけいやがったのか!」


 赫竜エクスフランメ・ドラッヒェに足止めされちまった以上、限界近い今の速度でも数分かかる。

 一番の先陣を切ったあの時点で、既に後続とは分単位で離れちまったからな。そんでもって、ドミニアやヴァーチアは置いてきたまんまだ。


 それが功を奏したのかは知らねぇが、陣形を保ったままで迎撃してる。だけど、あの状況じゃ限界が来そうだ。


三首竜サーベロイ・ドラッヒェ……!? この状況で……!』


 と、アドレーアの声が聞こえる。このぶんだと、あと少しってとこだな。


 だが、やべぇ敵がうじゃうじゃいるってのも、今の声で分かったぜ。三首竜サーベロイ・ドラッヒェ、アレは並のアドシアじゃ太刀打ちできねぇ。

 そんでもって……アドレーアたちが、想像以上に大ピンチなのもな!


 なんて思いながら、俺はヴェルリート・グレーセア背面に取り付けられた2基の砲台を起動する。

 機体と比較すりゃあ細見に見えなくもねぇが、ヴェルリート・グレーセアは通常のアドシアの倍を誇る巨体の持ち主。そんだけに、口径も当然でけぇ。


 砲身を展開したまま、アドレーアから聞いた有効射程圏内へと近づく。

 さっきの赫竜エクスフランメ・ドラッヒェ相手にゃあ、性能を知らねぇ以上使えなかったが――今は別だ。


 射程圏内突入まで3、2、1……射界内に味方なし、今だ!


「行けっ!」


 俺は機体の飛行姿勢を維持したまま、背中の砲台からビーム砲を放つ。

 モニター越しだからまだ明るさが処理されてるだろうが、それにしてもすごい光だなこれ。夜にぶっ放したら照明になりそうだぞこれ。


「どれどれ、効果は……」

『何ですの、今のビームは!? たった一射で、範囲内にいた空獣ルフトティーアが消滅しましたわ!』


 アドライアの声だ。

 乱戦になってたようだからなるべく端っこの空獣ルフトティーアの群れを狙ったんだが、それでもよく見えるくらいにゃ有効だったんだな。


 なら、背中のこいつは信用できる。

 あとは、前腕部――つーか手甲に着けた近距離砲だけだ。


 さて、ようやく戦闘区域だぜ。

 俺は手早く、無線を入れる。


「待たせたな! 今まで邪魔されてた分は、全部こいつらにぶつけてやるぜ!」


 それだけ伝えると、俺は手近な空獣ルフトティーアを屠り始める。

 数こそ多いが、どれもヴェルリート・グレーセアの敵じゃねぇ。


「戦えねぇ奴は下がってろ! 全部俺が平らげる!」


 双剣を振るい、通り抜ける度に空獣ルフトティーアがチリに返す。

 剃刀鳥クリンゲスフォーゲル空虎スカイティーガをはじめとした、低高度の種類ばかりだ。さばくのは造作もねぇ。

 たまに剃刀鳥クリンゲスフォーゲルの亜種、刃鳥メッサーバードもいるが、雑魚の中で用心するのはこいつくれぇなもんだ。こいつは重素グラヴィタビーム砲を撃ってくるからな。


 だが、俺とこのヴェルリート・グレーセアにとっちゃ、あってねぇような脅威だ。

 小型の――それでも5mはあるが――個体をほぼ駆逐すると、残った大型種が見える。「極地」クラスの褐色翼竜ラスト・プテリアが8体、それと三首竜サーベロイ・ドラッヒェが5体か。


 空獣ルフトティーアどもの行動は戦術的だが、集める個体にまとまりとか各個の役割とかが見られねぇ。

 ……もしかしたら、まだ戦術ってのが模索段階なのかもな。


「シメにちょうどいい奴らだ……まとめて叩き潰す!」


 一瞬だけそんなことを考えた俺は、すぐさま褐色翼竜ラスト・プテリアに突撃を仕掛ける。

 剣を構え――そのまま、手甲のビーム砲を撃ちこんだ。


「やるな!」


 手ごたえありだ。耐久力に優れるとされてやがる褐色翼竜ラスト・プテリアを、一撃でチリと化す。

 やっぱ、ヴェルリート・グレーセアの武装ってどれも使うに足りるな。威力が十分だ。


 とりあえず、手甲のビーム砲は不意打ちにも使えそうだ。

 そう思いつつ、俺は双剣を振り――ん?


「変だな? 陽影はるかげ月影つきかげが……輝いてる?」


 さっきは気付かなかったが、一度落ち着いてから仕切り直したからか、双剣が発光して見える。

 それにとどまらず、剣を振った軌跡が輝いてるように見えた。


「なんか、変わったのか? だが!」


 考えるのは後回しだ。

 俺が勝つのは決まってるが、それでも油断だけはせずに確実に潰す。


 一度剣を振るごとに、褐色翼竜ラスト・プテリア三首竜サーベロイ・ドラッヒェの体が“燃えて”チリとなる。

 最後の三首竜サーベロイ・ドラッヒェを倒すと同時に、部隊周辺の空獣ルフトティーアは消滅した。

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