第20話 ヒマだな。作戦共有してる間に、ひと汗かくか
「こんなもんか」
鍛錬相手のロボを5台ぶっ壊した俺は、ぐびぐびと水を飲む。
数日サボっただけで奥義を忘れるほどたわけじゃねぇが、やっぱ毎日適度にやってねぇとカンを忘れかけるな。
「あ、いた! ゼルくーん!」
「シルフィアか。どうした?」
ひと休みしてっと、シルフィアがやって来る。
トレーニングウェア姿……まさか、俺に模擬試合でも挑む気か?
「ゼル君に、私とひと試合してほしいと思って」
「やっぱりかよ」
ズバリ的中だったぜ。
ま、ロボ相手じゃ物足りねぇ。シルフィアなら、十分
「えーと、模擬刀はっと……あった。シルフィアの分だな、こりゃ」
ここにある模擬刀は、命中時に弱い電気が走るやつだ。
だが俺にとっちゃ、どうもいけ好かねぇ。
「おっ……いいやつあんじゃん」
だから俺は、スポンジ製の刀を使うぜ。硬めのやつだけどな。
電気が走るってのが、シルフィア相手に使う気になれねぇ理由なんだよな。
「ほらよ、それはお前の分な。俺のはこれでいいや」
二刀流を主とする、双天一真流。であれば、最初から二刀を構えるのは当然だ。
その一方で、シルフィアの流派は双天一真流じゃあねぇ。一刀流だしな。だから、渡した模擬刀も一振りだ。
「使い慣れてる種類の模擬刀だけど、随分と最新式だね、これ。今までのより使いやすい気がするよ」
「王族の艦だからな。装備も最新のじゃねぇと、収まりがつかねぇってもんだろ」
「そうだね。ところで、ゼル君の刀は柔らかそうに見えるけど?」
「振るとき以外はそれなりに
相手を殺さなきゃ、本当に木の枝でもいい。実際、何度かそれで戦って勝ったからな。
ま、今は手頃なスポンジ刀があるが。
「さて、どこでやる?」
「そこの広い場所がいいんじゃない?」
シルフィアの指す方向を見ると、ちょうどいい感じに広い空間があった。
本来はヨガとかダンスとかに使うんだろうが、確かにここならちょいと暴れても問題なさそうだな。
ボクシングで使いそうなリングもあるが、それじゃあだいぶ狭すぎる。
「そんじゃ、いくか」
俺はスッと、中段の構えを取る。
「お願いします」
対するシルフィアも、正眼に刀を構える。
流派こそ違えどちゃんと鍛錬しているため、免許皆伝の俺が見てもかなりのものだった。
「始めっぞ。覚悟しとけ」
最後にそれだけ言うと、俺はシルフィアの一挙手一投足に意識を集中させる。
まだ俺との差は埋まってなさそうだが、それでもうかつに仕掛ければ返り討ちにされかねない程度には強い。こういうのは、じれた側が負けるんだよな。
対するシルフィアも、焦って打ち込みにはこない。
俺が免許皆伝なのもそうだろうが、変なタイミングで仕掛ければさばかれる……と踏んでいるんだろう。いや、むしろ俺が一撃で仕留めるな。双天一真流には、反撃の技も念入りなまでにある。
当然のように、しばしこう着状態に陥る。
「先に仕掛ければ負ける」――そんな雰囲気が、この場を満たしてやがる。
だが、次の瞬間。シルフィアの気配が変わった。
これは打ち込みに来るなと思いつつ、俺は自身と二刀をいつでも動かせるように意識を切り替える。
「はあぁっ!」
案の定、シルフィアが仕掛けてきた。
そのまま正面から、俺の脳天に打ち込みに来るだろう。
「ふっ」
当然、その程度は予想済みだ。気配を探るまでもなく、俺は左手を高く掲げて防ぐ。
利き手は右だが、十分に鍛えてある左腕はシルフィアの打ち込みじゃあビクともしねぇ。
本来ならここで、反撃の技を繰り出しても良かったが――俺は軽く、シルフィアの左腕に模擬刀で触れる。
「はいよ、実戦なら今ので左腕がサヨナラな」
「ゼル君、今手加減したでしょ?」
「あたぼーよ。俺が一度で仕留めねぇ性格だと思うか? ただ、今日に関しちゃ、『もっぺん打ち込んでみろ』って思ってな」
「……ゼル君の意地悪。でも、勝つチャンスには乗っかるよ!」
奮起したシルフィアが、もう一度俺に斬りかかる。
今度は
だが、技が出るよりも先に、俺の動きがシルフィアに当たった。
刀で斬りかからず、体当たりで押し倒したワケだ。気配を読める俺ならではの技だが、密着しちまえば斬る以前の問題だからな。
なるべく怪我をしないような場所に当てつつも、背中から倒れるシルフィア。
ま、受け身取れてるから心配もへったくれもねぇが。
俺は右の模擬刀をシルフィアのそれの上から押さえるように添えつつ、左手で逆手に握った剣を眼前に突きつける。
「はい、俺の勝ち。もう一試合するか?」
「また負けちゃったよ……。ゼル君、動きが読めないんだよねー」
「俺はお前の動きが読めてるがな。んで、どうすんだ?」
「このままじゃカッコが付かないし、もうちょっと付き合ってほしいな」
「あいよ」
シルフィアと戦ってっと、楽しいからな。
あ、この後4連続で模擬試合を挑まれたけど、当然俺が全部勝ったぜ。いつかシルフィアには、全力の俺を超えてほしいもんだな。
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