第19話 ようやく合流かよ。時間かかるもんだな

「……それが本当だとしたら、我が国の全ての将兵に対空獣ルフトティーア戦術を改めさせねばなりませんね」


 アドレーアとライラは、重そうな表情をして頷いてやがる。

 ま、それもそうだ。今まで本能任せの空獣ルフトティーアが急に戦術的行動を取りだすなんざ、そうそう信じられるもんじゃねぇわな。


 だが、あの気配は引くべくして引いた、って感じだ。

 恐れをなして逃げたときの恐怖を抱いている様子が、あの空獣ルフトティーアの群れにゃあ無かったからな。

 遠からず、また戦いそうだぜ。


「検証はしてもらうか。だが、当たってる確信はあるぜ」


 俺はアドライアの左脚を放し、アドレーアの元に寄る。

 机の上に、ドカッと腰かけた。


「何はともあれ、とっととレーダーのふざけた仕様を撤廃するこったな。高度に関わらず、接近してくる空獣ルフトティーアは脅威とみなす。それが一番だろうよ」

「そうするしかありませんわね」


 言うが早いか、アドレーアはすぐさま無線を取り出す。


「私です。レーダーの仕様変更を。高度1,000m未満に本艦が位置する状態であっても、空獣ルフトティーアの探知を継続するように。ヴァーチアにも共有してください」


 手短に命令を済ませると、アドレーアが俺に向き直る。


「これでよろしかったでしょうか?」

「もちろんだ。あ、あと俺のヴェルリート・グレーセアのスペックの話……まだだったよな?」


 俺は聞き逃した話を、改めて聞くようにせっついた。


     ***


「なるほどな」


 ヴェルリート・グレーセアのスペックや、まだ知らねぇ武装の話を、俺はアドレーアからひと通り聞いた。

 二刀流を主体に戦う俺ではあるが、射撃や砲撃武器も適切に使えば戦術の幅が広がる。何より、剣や刀といった近接武器だけに頼り切らないのが、双天一真流のやり方だ。使えるものはすべて使え、である。


 他にもヴェルリート・グレーセアのスペックの話があるが、これまた驚愕だ。

 出力はリヒティアの比じゃねぇ高さであり、だが信じられねぇくれえ大昔に作られた機体でもある。どうりで装甲表面は劣化してたはずだ。

 逆に言えば、劣化してたのは装甲表面くらいなもんだが。なんつーバケモンだよ。


 そんな伝説級のシロモノが、今まで誰にも見つからずに眠ってたってのか?


 だが、今俺が乗ってるものは、紛れもなくそういう機体だ。

 現在でもある程度部品などに互換性がありつつ、肝心の心臓部……エンジンは謎の技術で出来てる。仕組みからして違うらしいし……1つじゃない、とも聞いたな。


『艦長、友軍艦隊が到着しました』


 と、部屋に無線が流れてくる。

 アドレーアはゆったりとした仕草で無線機を取ると、すぐさま返した。


「繋げてください。挨拶をします」

『はっ』


 モニターを映す手はずを整える。

 さて、正規軍の艦長はどんな奴かな……? 俺はアドレーアの机から降りると、そのままアドレーアの後ろに回り込んだ。


 ややあって、モニターが白髪はくはつ白髭しろひげのオッサンを映す。


『アドレーア第4王女殿下におかれましては、まことご機嫌うるわしゅう。こちらは北部方面軍第3艦隊旗艦きかん“カラドリウス”艦長、ユリウス大佐でございます』

「ユリウス大佐、大儀たいぎです。予定通り、3隻の到着ですね」

『はっ。このカラドリウスと、護衛戦艦の“アトラス”、“ギガース”がおります』


 護衛戦艦。今乗ってるドミニアやヴァーチアよりも、ひと回り小せぇ戦艦だ。

 あ、ヴェルセア王国じゃあ、ある程度デカけりゃ全部ひっくるめて「戦艦」なんだと。


 アドレーアと……ユリウス大佐っつーのか、あのオッサン。まったく、堅っ苦しい挨拶だぜ。

 俺はわざとらしく、あくびをしてみせる。


「ふあ~ぁ……」

『おや、そちらの御仁ごじんは?』

「俺か? 俺はゼルシオス・アルヴァリア。アルヴァリア男爵っつーと、通りがいいんだろうがな」


 とっとと俺を知ってもらうために、敢えて男爵を名乗る。他意はねぇぜ。


『そうか、貴方がアルヴァリア男爵か。その節は、私の部下が世話になった』

「おぉん? 何の話だっけ?」

三首竜サーベロイ・ドラッヒェ討伐の件だ。君の奮闘無ければ、被害はもっと広がってた』


 あー……あれか。


「あれは俺が好き勝手するのに邪魔だから、ついでに叩っ斬っただけだ。誰かのためじゃない」

『それでも、私の部下の被害を最小限に抑えられた。そのことについて、礼を言わせてくれ』

「言うだけなら勝手だ」


 なぁんて素っ気なく言ってみたが、ぶっちゃけ悪い気はしねぇ。

 ま、自由のついでに得るのも悪かねぇな。


 と、抗議の視線が刺さる。

 面倒くさくも視線の主を見ると、アドライアだった。「私の挨拶を邪魔するんじゃ、ありませんわ!」とでも言わんばかりだ。


 適当に切り上げるかな。


「ま、そういうことで俺も戦力だからな。つーて指揮権は……アドレーアのもんだが」

『構わない。事情は把握している』

「そんじゃ、続きは別の奴に」


 特に長居する理由もぇので、アドライアに出番を譲ってからは艦長室を去る。

 そういや、最近は鍛錬をサボり気味だったぜ。いや、最低限はしてっけど。


 俺はさび付きだした体にカンを取り戻させるため、トレーニングルームへと向かった。

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