第9話 性に合わねぇ言葉遣いすんのって、ホントクソ疲れるわ

 翌日。

 俺たちはドミニアに乗ったまま、王都“ヴェルハイム”に向かうこととなった。


 おっさんエーレンフリートの無茶ぶりを聞かされてた俺は、行く前からだいぶげんなりしてる。

 しゃーねーので、昨夜はアドレーアに添い寝してもらった。その前にたっぷり、タメ口と明日――今日この後の叙勲式のふるまい方に関して絞られたけど。あ、絞られたって言ったけど、今度はエロいことはしてねぇぞ。本当に添い寝しただけだぞ。


 んで。

 降りた早々、周囲がひそひそ話をしてやがる。ま、こんなクソ問題児が叙勲なんて、信じがたい話なんだろうがな。


 だが、これが現実だ。俺が三首竜サーベロイ・ドラッヒェを仕留めた功績を、ライラとアドレーアという立会人付きで認めてもらったんだ。俺は堅苦しいのは嫌いだが、褒められることは割と好きなんだよ。

 前世も今生も、褒められたことなんて少ねぇからな。その分、貴重に感じるぜ。


 考えごとしながら歩いてっと、いつの間にか目的地に着いてやがった。

 あーめんどくせぇ……でも独房にぶち込まれるよりマシか。嫌なんだよ、独房っつーか部屋に閉じ込められてたクソみてぇな子供時代を思い出すからな。


 さて、おっさん……いや、エーレンフリート陛下が来た。

 とりあえず、叙勲式が終わったらさっさと帰してもらおう。疲れる。


 俺は失言に注意しながら、叙勲式を受けたのであった。


     ***


「終わった~! はー、しょうに合わねぇ言葉遣いすんのって、ホントクソ疲れるわ」


 いつの間にかあてがわれてた自室のベッドに大の字に倒れながら、俺は全力で疲れを発散すべく叫ぶ。

 いやー、やっぱ王族や貴族どもってバケモンだわ。よくあんなの平気でいられんな、と本気で思ったわ。


 ま、今日から俺もその貴族なんだけどな! 男爵だんしゃくってやつだ。

 領地はぇけど、待遇としてあてがわれたんだと。アルヴァリア男爵家、ってやつだ。


 ぶっちゃけ、貴族になるとしきたりとか立ち居振る舞いとか、クソめんどくせぇ。ただでさえ騎士家でもいろいろめんどくさかったってのに、それより高位ってホントシャレになんねぇわ。後で覚えとけよおっさんエーレンフリート。あ、でもクソみてぇな実家より上の立場に立てたことだけは感謝だわ。や~いクソども、見てっか~?


 ちょっとだけスッキリした気分になったとこで、俺は靴を脱いで寝るモードに入る。

 特に何か空獣ルフトティーア討伐とかあるワケじゃねぇし、別にいいだろ。


 ところで……さっきライラがアドレーアになんか話してたけど、何だったんだ? 何となく、ヤな予感がするぜ。


 俺はベッドに体を沈めて、目を閉じた。


     ***


 夢でアドレーアとイチャついてたら……ライラの気配がするな。

 こりゃまためんどくせぇことになるぞ。


 俺は夢で別れを告げてから、上半身を起こす。


「ゼルシオス様、いらっしゃいますか?」


 案の定、ライラの声がする。なんだよもう、気持ちよく寝てたってのに。


「気づいてるよ。なんだ?」

「アドレーア様がお呼びです」

「アドレーアが?」


 いったい何の用なんだ?

 だが、アドレーアが呼ぶってんならしゃあねぇ。これがライラだったら蹴ってたぜ。


「しゃーねーな」


 俺はアドレーアの元まで向かった。


「何だよいったい」


 せっかく気持ちよく寝てたのに、叩き起こされたワケだ。いや、直接叩き起こしに来たのライラだけど。


「急にお呼びしてごめんなさい」

「はよ要件言えや。とっとと片付けて寝直すぜ」


 アドレーアとイチャつくのはともかく、まだ体が睡眠を欲してるからな。


「では単刀直入に行きましょう。ライラと模擬試合をしていただきたいのです」

「あん? ライラと?」


 言われて、俺はライラの顔を見る。

 紅那内くないって専用アドシアを持ってるほどだ、つえぇ上にアドレーアに信頼されてるのは気配を探らなくても伝わる。


 だが、まさかヴェルリート・グレーセアとやるんだろうか?


「機体の性能差がでかすぎて、勝負になんねぇんじゃねぇか? あとな、俺はこれでも双天一真流の免許皆伝者だ。ライラの強さがどんぐれぇか知らねぇが、嫌がらせとしか思えねぇんだが」

「ご安心ください。ハンデはちゃんと用意してあります。ゼルシオス様、貴方にはこの試合で、リヒティアに乗っていただきたいのです。と言ってもシミュレーターですが」

「シミュレーターか……」


 騎士学校時代にさんざん乗ったシロモノだ。双天一真流の練習に飽きたらすぐ、稼働中のに乗り込んでたぜ。

 おかげでアドシアの実技試験でもトップを取っちまった。下手よりいいが、いつのまにやら……ってやつだな。


「ま、アドレーアの頼みなら乗ってやるさ。それに、だ」


 俺はもう一度、ライラを見る。


「ライラ。隠してたようだが、俺への不満は見えてるぜ」

「えっ?」


 驚くライラ。ま、そりゃそうだよな。


「言っとくが、アドレーアのお付きであるアンタの地位を奪うつもりはねぇよ。俺はアドレーアと契約して、専属の騎士になっただけだ。ぶっちゃけアンタほどアドレーアを理解できてねぇし、俺はアンタのやってることをそっくりそのまま真似られる自信は一切ねぇ」

「そう、ですか……」

「だが、これで信じてもらえるとは思えねぇよ。それに、もう一つある」


 俺はライラに顔を近づけると、目の前で呟く。


「月並みだがよ……。“俺の力を証明してほしい”、そう言いてぇんだろ?」


 黙り込むライラ。だが、肯定の気配がする。


「決まりだな。よし、アドレーア。シミュレーターまで案内してくれや」

「もちろんです。あ、ちなみに」


 アドレーアが、いたずらっぽく微笑む。ロクでもねぇこと企んでんな、こりゃ。


「ゼルシオス様とライラの模擬試合の様子は、艦内各所にあるモニターで中継されますので」


 ほほう。

 だったらなおさら、負けらんねぇな。


 俺が勝って、ドミニアで好き勝手気ままに過ごせるようにしてやる!

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