第8話 うわめんどくせぇ話きたわ、格式ばったヤツだろこれ

「艦長室? さっきの部屋か」


 アドレーアとした場所だな。


「参りましょう。恐らく、何か方策を定められたはずです」

「ああ」


 呼ばれて行かねぇワケにも、だしな。

 俺たちは足早に、艦長室へと向かった。


     ***


「戻ったぜ」


 俺が入ると、アドレーアはさっきまでの笑顔を消して真剣な表情になってやがった。何かな予感するぜ、オイ。


「あのモニターの前に、立ってくださいませ。今すぐ」

「あぁん? こうか?」


 正直意味が分かんねぇが、文句を言ってられる状況じゃあねぇ。

 言われた通りにしてると、ライラも、そしてアドレーアも隣に立った。


「くれぐれも、ご無礼のなきよう。私に対しては構いませんが、お父様――現ヴェルセア王国国王陛下にだけは」


 おいおい、今からとんだ御仁ごじんと話をすんのかよ。シャレになんねぇ。


 なんて思ってると、目の前のディスプレイにイカツイおっさんが映る。


「よくぞ英雄の末裔を連れてきたな、アドレーアよ。しかし、お前が連れてくるとは、正直意外だったぞ」


 このおっさんこそ、ヴェルセア王国現国王――エーレンフリート・ルフテ・ヴェルセアだ。

 モニター越しだってのに、凄まじい威圧感が来るぜ。前世と合わせて70年――この世界に換算しても115年相当は生きてきた俺だけど、こんな威圧感はそうそう出せたもんじゃねぇな。

 ただ……だからって話しにくいとは、俺には思えねぇや。


「ありがたきお言葉です。お父様」


 うん、やっぱアドレーアもちょっと緊張してるわ。ビミョーに震えてるわ、声。

 そんな俺たちの様子をよそに、おっさん――エーレンフリートは、話し出す。


「しかし、英雄の末裔は随分と暴れたい放題だと聞いたがな。大人しくしておるのは……アドレーアの影響か?」

「そうだよ」


 俺が口を開くと、アドレーアから「まずい!」という気配を感じる。

 が、どうも敬語は性に合わねぇ。


「ほほぉ……そうかそうか。それは、頼まれたからか?」


 うん。やっぱこのおっさん、タメ口くれぇじゃ怒らねぇわ。

 威圧感はあっけど、ぶっちゃけ割と話しやすいタイプだわこれ。


「あぁ。俺を本気で好きって言ったんだ、頼みくらい聞いてやる」

「その割には、だいぶくだけた言葉遣いだな」

「騎士学校一番の問題児舐めんじゃねぇぞ、おっさ……陛下。言葉遣いくれぇくだけねぇで問題児やってられっかっての」

「そこは『おっさん』でも良かったのだが。お前のような性格の者は珍しいからな、多少は許すぞ」


 「な? 問題ねぇだろ」……なんて思いながらアドレーアを見ると、顔が真っ青になってやがった。

 おいおい、美人が台無しだぜ。


 ライラもライラで、止めるに止められねぇって表情を浮かべてやがる。おっさんエーレンフリートがいいっつってんだからいいだろ。

 ああいうタイプは、ホントにヤバかったら直接間接問わず、ちゃんと警告出してくるっての。


「じゃあいいや。“おっさん”」

「何だ?」

「何で俺呼んだの? あー、直接呼びつけたのはアドレーアだけど」

「そうだな……」


 おっさんエーレンフリートがしばし黙り込んだ末、話を切り出す。


褒賞ほうしょうのためだ」

「褒賞だぁ?」

「うむ。扱い上ではあるが民間人ながら正規軍の援護を敢行したこと、多数の空獣ルフトティーア討伐、加えて『稀少』クラスの高脅威空獣ルフトティーア討伐。騎士学校卒業後の初陣ういじんとしては上出来も上出来だろう」


 そんなもんなのか?

 ま、確かに三首竜サーベロイ・ドラッヒェはあれだけのアークィスじゃ対処しきれねぇもんだった。普通は大隊――32機がかりでようやく1体を倒すレベルなんであって、たった1機で完封した俺がおかしいんだった。騎士学校でぶっちぎりの成績取ってた頃から、だいぶ強さの感覚がマヒってきたけど。

 あ、でも敵対しちゃいけねぇ相手くれぇは分かるから、そこは安心だ。


「そこで、勲章は間違いなく差し出そうと思っているのだが……何か欲しいものはあるか? 通常であれば褒賞金となるのだが、それ以外の場合でも功績に見合えば許そう」

「特にねぇな」


 ぶっちゃけ、何か特別に欲しいもんなんて今はねぇしな。


「そうか。では勲章と褒賞金の授与……そして、“アルヴァリア家”の家名を授けよう」

「おぉい!?!?」


 特大級の不意打ちが来やがった。


「あのな、俺はアルヴァリア家なんて……!」

「『勘当されてせいせいした』、だろう? アドレーアから聞いている」

「だったら何のつもりだ! タメ口の仕返しか!?」

「仕返し? ほほう……本当は違うのだが、そういうことにしておこう」

「テメェ!」


 クソ、俺が口を滑らしちまうとは!

 これは本気でマズいぞ……!?


「さて、ゼルシオスよ」

「何だよ」

「アルヴァリア家の家名を授けるとは書いたが、勘当されたお前を元の家に戻すという真似はせんぞ。私でも難しいからな」

「あぁん……?」


 どういうこった?


「お父様。つまりそれは、ゼルシオス様の代から、新しく独立したアルヴァリア家となるのでしょうか?」

「その通りだ」

「おいおい、そんなまだるっこしいことなんで……」


 なんでするんだ、と続けようとした矢先におっさんエーレンフリートが先回りしてきた。


「お前を切り捨てた家への復讐だよ。正確には、その手伝いと言ったところだがな」

「おっさん……?」

「そもそも私は、アルヴァリア家が鼻についていたのだよ。代々積み上げてきた誇り、というのかな。だが、やつ現当主はそれを勘違いし、傲慢さをにじませてきた。そんな中、ゼルシオスという跳ねっ返りの暴れぶりときたら何だ。手を叩いて笑ったよ」

「もしかして、俺の味方なのか?」

「ああ、そうだ。私はお前の味方だ、ゼルシオス」


 ニコニコ笑顔を浮かべるおっさんエーレンフリート

 だが、俺はまだ嫌な予感を抱えていた。


「さて、授与式は王都で行う。期日は以下の通りだ」


 と、俺たちが持ってる腕輪からホログラムが出てきた。ホント便利だなこれ。


「あぁ、そうだ。ゼルシオス」

「まだ何かあんのかよ、おっさん」

「今は閉じた場なので一向に構わないが、授与式で私を『おっさん』呼ばわりしたら不敬罪でドミニアの独房に放り込むので覚悟するように」

「……へいへい」


 こいつが嫌な予感の正体だったよ。


 ほんっと、このおっさん食えねぇわ。

 ともあれ、あれよあれよという間に俺たちの王都行きが確定しちまった。

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