第10話 ライラ、あんたも双天一真流習ってたのかよ

 俺がかつて乗ってたものよりも最新鋭なシミュレーターに乗り込むと、起動して画面が眩しく光る。

 軽く内部の操縦桿を動かすと、懐かしい、それでいて繊細な動きをしてくれた。


『ゼルシオス様、ライラ、聞こえていますか?』


 内部に取り付けてあるスピーカーから、アドレーアの音声が聞こえる。ヘッドセットに取り付けたマイクで、俺は返す。


「聞こえてっぜ。何だ?」

『今から説明する手順通り、操作をしてください。それで模擬試合が始められます』


 素直にアドレーアの指示に従う。つっても、騎士学校時代と何ら変わってねぇな。


 あー、ちなみにこのシミュレーターは2機が隣り合ってて、操作次第じゃ隣に乗った奴と模擬試合ができるってワケだ。俺の隣には幼馴染のアイツを除き、ほとんど誰も座らなかったけどな。せいぜい一回二回、くらいだ。

 理由? 俺は強すぎたんだよ。教官相手でも、アドシア戦じゃ全戦全勝。むしろ奮戦してくる幼馴染が異常なレベルだった。ま、それでも俺が全部勝ったけどな。


 当時を振り返るのもそこそこに、俺はライラと戦う準備を整えた。

 機体は当然、俺がリヒティアでライラが紅那内くないだ。シミュレーターの画面には、紅那内くないの全身が映り込んでいる。ライラからも、俺のリヒティアが見えてるこったろう。


 まさかさっき見せてもらった強そうなアドシアと、すぐやれるとは思ってなかったぜ。なんか転生してから、ちょっぴりロボオタクっぽくなっちまった。


「ライラ」

『何でしょうか』

「アンタとアンタの機体アドシアの腕、見せてもらうぜ。全力を尽くして、俺はアンタに勝つ」


 俺が言葉を区切ると、ライラの重い声が聞こえてくる。


『……そうはいきません。アドレーア様のために、私は強くあらねばいけませんので』

「ほぉ」


 面白れぇもんを聞けたな。ライラ、それがアンタの本音か。

 ならそれを、俺がこじ開けてやるよ。


『準備はよろしいでしょうか』

「バッチリだ」

『整っております』


 アドレーアの声をきっかけに、俺は意識を目の前の敵機くないに引き寄せる。

 俺がリヒティアに剣礼をさせると、紅那内くないも一礼で返してきた。試合前の礼は大事だ、それぐらい俺でもやんぜ。


『では……始め!』


 ハッキリと号令が聞こえた次の瞬間、俺たちは距離を取っていた。

 互いの姿を視界に捉え、高度を上昇させながら体制を整える。


 軽く動かした感じだが、リヒティアはやっぱヴェルリート・グレーセアよりはニブっちぃ。けどシュタルヴィント改よりはるかに動かしやすく、しかも素直だった。


 シミュレーターの設定じゃ、雲の量は少な目だ。

 ときどき身を隠すことはできても、基本的には青空で戦う。正々堂々、って言葉がピッタリだ。


 紅那内くないは徒手空拳のまま、その場で静止する。真紅が青空によく目立ってやがった。


「最初は射撃の腕前を見せろ、ってか? いいぜ、乗ってやる」


 リヒティアにマシンガンを取り出させ、左腕だけで構えさせる。右腕には剣を構えてる以上、片手撃ちになっちまう。


 そんなすがすがしい青空に、俺は銃弾をばらまく。

 やはりというか何というか、1kmキロも離れてちゃ紅那内くないにかすりもしない。だが、避けさせる程度にゃ使える。射撃も下手じゃないからな。


「おっと?」


 紅那内くないの動きを見てると、避けつつも俺に向けて迫ってくる。

 必中の距離まで詰めるのか、あるいは接近戦か。


「いいぜぇ、そうでなくっちゃ!」


 俺もライラの意気込みを汲んで、射撃しながら距離を詰める。

 だが、ライラはまだ撃ってこない。射撃武器が無いのか?


 ともかく、ここまで近づいたら射撃武器はもう使えねぇ。重いし残弾も少ねぇ以上、これ以上はデッドウェイトだ。ライラへの対策として、わざと予備弾倉も装備してねぇしな。

 紅那内くないに向けて、全力でマシンガンをぶん投げる。


 と。

 今まで避けるだけだった紅那内くないが、腕を振るう。両手には機体名と同じ、武器のクナイが握られていた。

 瞬く間に振り抜かれたそれは、今さっき俺がぶん投げたマシンガンを容易く両断する。


「上等!」


 俺はすれ違いざまに一撃入れようとして――ヤバさを感じ、とっさに剣での攻撃を中断した。


「ありゃあ……双天一真流かよ!」


 俺は紅那内くないに膝蹴りを叩き込み、ブースターの勢いそのままに離脱する。


 今の技は、双天一真流短刀術の“搦風からめかぜ”だ。あのまま剣を振ってたら、文字通りクナイを引っ掛け、そのまま搦め取るように剣を奪われちまってた。

 俺の習った双天一真流とは異なるが、紅那内くないが両手にクナイを握りしめ、取った構えにゃ見覚えがある。


 俺もリヒティアに、空いた左手に剣を握りしめさせる。

 そして、中段――胸の前でX字に剣を交差させるような構えを見せてから、俺はマイクでライラに呼びかけた。。


「ライラ……あんた、双天一真流習ってたな?」

『さすがは免許皆伝を許されたゼルシオス様。お見通しでしたか』

「使う得物えものが違っても、双天一真流の構えはバレバレなんだよ。ったく、こんなとこで同門と出会うなんざ思ってもみなかったぜ。あんまメジャーじゃねぇっつのに」


 俺は機体の左手で、剣を放り投げてはキャッチする。

 ただ遊んでるように見えっだろーが、これは布石ってヤツだ。


「だが、アンタも双天一真流習ってたのかよ。ライラ」

『アドレーア様のおそばにいるためです。私が強くあらねば、誰も守ってくれません』


 免許皆伝を持ってるからこそ、俺は逆に警戒心を増す。


 双天一真流の基礎だけを学んでても、戦う力は大きく向上する。対人用の剣術として練り上げられた流派は、たとえ使い手が生かじりであっても素人にとっちゃ恐ろしいもんだ。


 ましてや、ライラの修練度合いは……俺から見ても間違いなく、一流の域だ。

 半端な戦術じゃ、あの紅那内くないに、そしてライラに勝てねぇ。


 だったら、やるこたぁ一つだ。


「ライラ――俺も、本気出すぜ」


 俺は大きな呼吸をし、意識を再度紅那内くないに集中させる。

 そして中段の構えをリヒティアに取らせてから、前へと機体をし進めた。

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