第2話 厄災の原因

 僕は簡易的なキッチンに立っていた。今日の夕御飯を作るために。…と言ってもあんまり凝った料理は作れない。ほとんど野菜か肉を焼いて塩をまぶしたものだった。それでもなんとか生きている。タンパク質と炭水化物は毎日必要なので畑に芋を植え、そしていつも野生動物を狩りに出かける。…そして芋以外の野菜はほうれん草で鉄分不足を解消するためだった。そして飲み物はいつも湧き水。魔法で浄化しているからちゃんとした飲料水になっている。

 「…(もぐもぐ…)」

 話し相手がいないため僕の食事はいつも薄暗い部屋で一人寂しく食べていた。テーブルも小さいものしか作れなかった。魔法の才能はあるけどDIY…つまり何かを作り上げる手先の器用はは持ち合わせていなかった。たまにだけど畑の野菜収穫の時に小鎌を使って収穫しているけど…腕を切ってしまう時がある。回復魔法で速攻で治したが治さなかったら出血多量で死んでいる。魔法を使って一気に収穫したところだけど指定したものを方角や範囲などを設定して切り取る魔法は実在しているが、僕には扱えない。上級魔法と言うやつだった。

 僕は中級魔法と初級魔法なら扱える。…一つだけつかえる最上級魔法はあるけどだいぶ魔力の消費が凄いためほとんど使っていない。この世界は魔法にもランクが存在して、初級魔法は誰でも使える初心者用の魔法。中級魔法は平凡クラス。上級魔法は才能を持つ者が扱える。そして最後の最上級魔法は一握りの天才しか扱えないとされている奇跡の魔法とされていた。僕はなぜか一つだけ使えるけど全魔力を消費して使うためあんまり使っていない。

 魔力が尽きると魔法使いは極度の体調不良に陥る。今までの体内環境ががらっと変わってしまうのが原因らしい。数日も経てば魔力は全回復するらしいがそれまではほぼ体を動かせないぐらいの体調不良に陥るらしい。これを「魔力切れ」と呼ばれる魔力を持つ、つまり魔法使い限定の現象。

 「…ごちそうさまでした…」

 小さく響く僕の声。その声は誰も聞いていないし、聞いてもくれない。食器を浄化魔法で洗おうとしたその時…。

 きゃああああああああああああ!

 …村から悲鳴が聞こえた。なんだろうって思っていけないことだと知っているけど村の人達が心配だったから村に行ってみることにした。

 村についた時には…もう手遅れだった。一軒の小さな家が全焼していた。その家の目の前で泣き崩れる女性の姿があった…。その光景を見て僕はここで起きたことを予測できた。…とても悲しい事実を。

 寄り添いたい…大丈夫?と言いたい…けど…僕はみんなに嫌われている。みんなは僕のことが嫌い…魔女が愛す人間だと思っているんだ。寄り添っても魔女の手下へ勧誘していると思われて…どうせ離されるだけなんだろう。そして何も言わせないために僕のお腹を蹴るのだろう。…魔法ではない物理攻撃が一番痛い。

 「私の…娘が……。…あぁ…うぅ…!」

 …あぁ…やっぱり、そうだったんだ。全焼した家の中にまだ誰か取り残されていたんだ。そして…あの女性はその大切な人を失ったんだ。娘…親にとっては自分の命と等価となる存在…それを失ったということは実質、自分のもう一つの命を失ってしまったような事だった。

 「これも全て魔女の子の仕業だ!」

 「もう嫌だ…魔女の子のせいで…みんなが殺されていくなんて…」

 …まただ。また僕のせいにしている。村の人達が言っている「魔女の子」というのは僕のことだ。…だけどお願い…僕はこんなことやっていない。僕が…僕が殺したなんて…。僕はみんなのことを殺すなんて絶対にしない!

 「…ここにいても仕方がない。俺の家に泊まれ。明日…娘さんの葬式を行おう」

 みんなが全焼した家の目の前からバラバラに散らばった。…みんながいなくなった時に僕は全焼した家の目の前にいた。誰かの悲しさが伝わってくる景色だった。冷たい風が吹いてきた。その冷たさは誰かの悲しさや孤独感を表しているのだろうか。みんな…死んでいってしまうのかな。みんなこのような気持ちを経験して生きていくしかないのかな。

 そう思うと…なんだか行動しないといけないと思った。でもまだ村の人達の目が怖い。…見つかったら何をされるか分からない…そう僕は怯えている。…でも行動しないとみんなが悲しい気持ちになってしまう。…そして僕も一生このような人生を送っていくことになる…。…怖い…けど…頑張るしかないんだと思った。立ち止まって…そしてそれだけで終わる人生なんて何も価値なんてない。…だから行こう。僕の無実を証明するためにも…動かないと。

 でも具体的にどうすればいいのか分からない。これも…不注意から起きたただの事故だと思うんだけど…それなのに…どうしてそう思えないのだろう。…何か僕の記憶の中に心当たりになるものが…?

 僕の頭の中を僕自身が隅々まで探していると心当たりになりそうな記憶を見つけた。ある日…こっそり村に行って村の人達の様子を見に行っていた時に盗み聞きしてしまったお話を。

 「…最近、畑の様子が…」

 「魔女の仕業じゃないかしら…この近くに暗い洞窟があるでしょう?」

 「あぁ…村の伝承で魔女が住んでいると言われている…もしかしてそこの魔女が畑を…」

 「魔女は説得しようとしても聞かない。絶対的な人類の敵なのだから」

 …村の伝承。それは僕も昔聞いたことがあった。この村に生まれているのだから知らないわけがなかった。

 この村の近くにある小さな山道。そこを進んでいくととても暗い洞窟がある。そこにはこの地の滅びを望む魔女が住んでいると…。

 …魔女は厄災を生むとされていた。もし、それが本当なら…僕はやるしかない。僕自身の無実を証明するには魔女から確認を得るのが一番手っ取り早い。…だから…僕は危険だとされていても暗い洞窟に行こう。僕自身の無実を証明するためにも…。

 厄災の原因を調べ上げないといけない。

 だけどもし、本当に僕が魔女の子だった場合…。

 その時は…村の人達に迷惑がかからないように僕は誰もいない場所で死のう。

 魔女の子は人類の敵なのだから…僕は人類の敵にはなりたくないから。

 …死ぬよ。僕は生きる価値なんてなかったんだって。

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