第3話 暗い洞窟の魔女

 僕は山道を通り、そして暗い洞窟へたどり着いた。ここに魔女がいるとされている。

 魔女…対面するのは怖いけどみんなのためでもあり、僕のためでもあるのだから…頑張って入るしかない。決意したから。

 「…だいぶ暗い…」

 その辺に落ちていた長めの枝を拾い、魔法で火を灯し、簡易的な松明を作る。ある程度明るくはなったが…まだ先が見えないほど暗い。かなり深い洞窟みたいだ。迷子にならないように注意しよう。…一本道だったら一番いいんだけどな。

 洞窟は枝分かれしているかと思ったけど…まさかの一本道だった。途中で分かれ道とかもなく…ただただ一本の道を歩いていっているだけだった。だけど…どれだけ経っても歩いても…先に続かない。

 「…魔女だから何でもあり…なのかな」

 こういうのは大体ループしており、同じ場所をぐるぐる回っている。いわゆる「無限ループ」というやつだ。…でもまだ無限ループと決まったわけではない。…だから一回確かめておかないと。本当に…ここは無限ループになっているのか…。

 氷の魔法を使い一部の岩を炎でもなかなか溶けない氷にする。この洞窟は松明の周り以外…かなり冷え込んでいる。外が寒いというのもあると思うけどこの洞窟自体が外の気温と同化しやすい性質があるかも…いや、外よりも寒くなる構造をしているかもしれない。だからなかなか溶けないだろう。…これを目印にしてもう一回僕はこの洞窟の奥へ進み出す。

 数十分、歩き始めていたころ、氷の岩が目に入った。やはりここは無限ループになっていた。…それなら正規ルート…つまり無限ループから解放される道を探す。無限ループから出て魔女の場所に行ける道を探さないといけない。…こういうのは大体壁沿いになにか隠されていると思われる。なにかないかと壁沿いを注意深く観察してみる。…すると何かあった。

 「…これは…えっと…点字?…う〜ん…」

 点字とは珍しい…点字は目が見えない人限定だと思っていたから。最近、回復魔法は治療魔法にもなっており、一時的だが目が見えることができる。そして目が見えない人でも見えるようになるメガネもある。…だから今どき点字は珍しい…。

 「…ギリギリ…読めるかな」

 村の書物を深夜に読み漁った時代もあり、点字の書物も読んだことがあった僕はなんとか…というかある程度点字は読むことが出来る。そこまで熟知しているというわけではないけど。点字の需要性はとても低くなっている影響でもはや消滅しかかっている。学校でも学ばれなくなった。

 点字の内容は…なんとか読める。内容は…えっと…。

 「た…い…だ…怠惰?…で…いる…ことで…とび…ら…が…め…の…まえに…あら…われる…」

 怠惰でいることで扉が目の前に現れる…?全く意味合いがよくわからない。怠惰…それはなまけているという意味…う〜ん…何もしないという意味もあるかもしれないから…何もしなければ扉が現れるのかな…。

 そう思い僕は座る。ただただこの冷え切った洞窟の中で松明の火で暖を取りながら扉が現れるまで待っている。この解釈が合っているのかは分からないけど…。

 「…ん?」

 何か雰囲気が変わっている気がする。そうしたら洞窟の先が扉になっている。そこに…何かあるのかな。というより魔女がいるかな…。…会ったらまず殺されそうだけど…それはそれでも…村の人達にとっては良い事かもしれないけど…魔女の子じゃないって証明できる…僕の死と引き換えに…。

 「…わ…」

 扉の先は遺跡のようになっていた。古びているけど神秘的な印象を受ける遺跡だった。

 目の前の石碑に誰かがもたれかかっていた。髪の毛が黄色で目に包帯を巻いている小さな女の子がいた。…もしかしてこの子が魔女なのかな…。どうしよう…話しかけたいけど寝ていそう…。それに魔女の怒りを買ってしまいそう…でも話を聞くためにも…起こさないと。

 「…あの〜」

 「…ねてない」

 「え?あ…ご、ごめんなさい」

 寝ているというわけではなかった。まさかのただもたれかかっているだけだった。包帯で目を隠している事と動かずにいたから寝ていたと勘違いしていた。こっくりこっくりと動いていたら本気で寝ていたかもね。

 「だれ?」

 「それは…あ、すいません…。名乗ります。エレク・ストーンと言います…貴方は魔女ですか?」

 「…まじょ?…まじょ…かも」

 返答の返し方がなんとも面倒くさそうな返し方だった。まさに…怠惰かもね。というか名前聞いていない…。名前聞いておいたほうがいいかも…。

 「えっと…魔女さん。貴方の名前は…」

 「…なんで、あなたにおしえないといけない?」

 あ…こりゃあ信頼されていなさそう。というか名前を教えるのを面倒くさそうにしているなぁ…。「なんで、おしえないといけない?」と言っているけど…ただただ面倒なだけっぽい…声の声量や声質から推測しただけど…。

 「…ただ知りたいだけなんです」

 「…。…ちつながっていない。とくべつなもの、ない。それなのに、しりたい?」

 「はい。…厚かましいと思っているんでしょうけど…」

 考えてみれば…初対面の人からいきなり名前を教えてほしいなんて…気持ち悪いと思われるし…何より厚かましいと思われるだろう。…会ったこともないし、信頼に値することもしていないのに自分の名前を教えるなんて…確かに訳がわからないかも。

 「…りゆう」

 「…貴方の存在が僕にとって関係ある存在ですから」

 「…あったことない。なのに?」

 「はい」

 「…」

 魔女は考え込んだ。目はどこに向いているのか分からない。そもそも包帯で隠されているから目線すらないのかもしれない。包帯を巻いているのは…目に怪我でもしているのかな…でも魔女なんだからそれぐらい回復魔法ですぐに治せると思うんだけどな…それなのに治していない?包帯で巻かれていることに対して別に何も思っていない?むしろその状態を受け入れている?

 「…おしえない」

 「…上から目線だと捉えるかもしれませんが…教えて下さい…理由を」

 「ある。けど、きらいだからおしえない。なまえ、きらいだから」

 …そういう理由なんだ…別に信頼していないというわけではない…いやそう思うには早すぎるかな。…僕も信頼しているというわけではないから…。

 「それじゃあ…魔女さんって呼んだ方が…いや…なんだかそれだと気味が悪いなぁ。…呼び名とか考えてもいい?」

 「ほかのひとに?」

 「あぁ…それこそ気味が悪いか…ごめんなさい」

 「…まじょってよばれるのわたしもきらいだから、べつにいい」

 「いいんですか…」

 なんだかあんまり掴めない子だ。魔女のはずなのに子供っぽいし…というか魔女の起源がこの時代になっても分からないとされている。だからこそ子供っぽい魔女もいるにはいるのかもしれない。目の前にいる魔女とかね。

 「…じゃあ…」

 目の前にいる子に名前をつける。つけるというより僕が魔女に対して呼ぶ、呼び名みたいな…ではなくて本当に呼び名なんだけど。

 「…チャロ」

 「…ちゃろ?」

 「はい。なんか思いついたからです」

 「…いいよ。それでよんでも。それにていねいなくちではなさなくてもいい」

 「それじゃあ…チャロ。…僕が君に聞きたい事があるんだ」

 「なに?」

 僕が魔女本人に聞きたかった質問。本当に僕はチャロに愛されているのか。…というか反応を見る限りそんな訳無いと思うけど…一応保険として。

 「…僕は魔女の子なの?」

 「…」

 ーちがう、わたし、にんげんをあいさないー

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