底なし沼のトルマリン

岡山ユカ

第1話 厄災を導く子

 僕の国はまだ他の国とは違い、経済が発展していなかった。

 自然が多く…そして災害が多い国として知れ渡っていた。

 だからこそ、誰もこの国に来ることはなくなった。


 国の中で中央都市ではないけど一番大きな村に僕は生まれた。

 そして魔女を一番恐れる村に生まれた。

 僕は村人たちからの話だとこの地に昔からいる魔女に容姿が似ているのだという。

 だからこそ、自然災害が起こったら全て僕のせいにされてしまった。

 だけど他の国とは違い、処刑はされなかった。

 処刑してしまったら、魔女の怒りを買ってしまうという国全体の風習があった。

 容姿が近いのは魔女が愛す人間だからという仮説を提唱する人だっている。

 宗教的な違いというやつだろう、他の国と違うのは。

 「…お腹すいたな…」

 僕は村の外れにある古びた小屋で過ごしている。古びてはいるけど…過ごせないというわけではなかった。冬はだいぶ過ごすのが辛いけど…。

 「とりあえず…畑の様子を見ないと…」

 今はまだ秋、だけどもうそろそろ冬が近い。今年も乗り越えられるのだろうか。僕の服装はボロボロで耐寒性能などないに等しいのだから。幸いある程度の魔法は扱えることが出来るため暖を取るぐらいなら出来る。魔法が使えなかったらとっくに死んでいただろうけど…。凍死して誰にも埋葬されず死ぬだけだろう。

 僕が独自で作った畑の様子を見に行く。独学で畑の作り方を学んだ。村の人達に教えてもらったとかではない。頼んでもどうせ断られるだけだから。村の人達が新しい畑を作ると言ってその時にこっそり畑を作るというより耕す様子を見て僕も真似をしただけだった。しっかりと機能しているから問題はない。

 「…水は凍っていない。そりゃあ…そうだよね。まだ季節は秋なんだから。冬に…なっていないんだから」

 秋でも急激に冷え込む時がある。その時、ずっと畑は凍っていないか心配している。畑が僕の生命線でもあるんだから死んでしまっては僕が困る。だから僕が定期的に手入れしないと本当に僕が死んでしまう。

 …一時、こんな事を考えたことがある。

 自分はもう死んでもいいんじゃないか、と…。

 確かに今でも僕に生きる意味などない。むしろみんなは僕が自分で死を選ぶことを望んでいる。自分で死ねば魔女は怒らない。だって魔女が愛する人間が選んだ道だからと…。…だからもう全て楽になるためには…こんな人生終わりにしてしまえばみんなが幸せになれるんだろう。

 だけど僕は今なぜか生きている。死ぬのは嫌だと思っている。…その理由は理解できているけどその内容がなぜ生きる理由になるのかは理解できそうにない。

 「みんなと同じ存在になりたい」

 僕は魔女に愛されている人間ではない。それは僕自身が一番理解している。魔女は人間を滅亡へと導く存在であり、それに魅入られた人間も魔女を手伝い厄災を導くとされている。だけど僕はみんなを不幸にするつもりなんて一切ない。むしろこんな扱いされていても僕を含めてみんな幸せになってほしいと願っている。いつか…いつか僕が魔女に愛されている人間じゃないと証明できたらみんなと同じ…そしてみんなと一緒に幸せになれるから…と夢見ている。

 「…寒い…」

 薪を何本が持ってきて簡易的暖炉に火を灯す。もちろん魔法で。摩擦とかを利用して火を灯すマッチというものが大昔にはあったと聞くが…今はもうない。魔法を使うほうがゴミとかも出ずに環境に優しいというのが理由だ。

 「…」

 暖炉の近くに座る。ゆらゆらと揺らめく炎は暖かいけどどこか冷たかった。体は温まっているはずなのにどこか冷たかった。やっぱり、僕はまだこの人生に満足していない。…僕はただ普通に過ごしたいだけ…だからこそ行動を起こすべきなんだろうか。でも行動を起こして村の人達にどんな事を言われるのか分からない。…どうすれば僕は証明できるのかな…。

 僕は何度でもいい…聞かれていなくても無視されていても僕は言う。

 僕は魔女が愛す人間ではない。

 厄災を導く子でもない。

 …ただの…普通の男の子なんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る