そのふたりの関係を名付ける言葉を、私はまだ持たない

捕食者である妖怪と、しょぼくれたおじさんことテツオさん(捕食対象外)。
妖怪(美形)の利用するラブホテルの清掃員であるテツオさんですが、なぜか妖怪には好かれてしまうようで……
でも、食べたいわけじゃない。たぶん仲を進展させたいわけでもない、ただ、一緒にいると楽しいだけ。
テツオさんはテツオさんで、側に寄って欲しくはないけど、まあ、いたらいたで勝手にしておけ、という距離感。

でも、読者には分かってることがある。
おそらくは「知られてしまったら終わり」の関係ばかり結んできた妖怪にとって、自分のことを知っていて、そこにいて話をしてくれる相手がいる、ただそれだけのことが、なにより大切なのだということ。
テツオさんも、たぶんおなじような気持ちがすこしあるんだろうっていうこと。

そのふたりの間の引力、その関係の近似値はたぶん、『友情』なんだろうけれど、おそらくはふたりとも否定する。
そして正確には『友情』じゃない。
そう、そのふたりの関係を名付ける言葉を、だれもまだ持っていないのではないかと思うのだ。