Day17 星夜祭(お題・流星群)

「差し入れにきました~」

「いつもありがとうございます! そこに置いて下さい!」

 今日から星夜祭せいやさい。戦場のようだったリサさんのお家の食堂のお昼時間が終わり、私は今日も渡されたおやつを公会堂事務局の祭りの実行会に差し入れた。

 公会堂の前の立て札には、これから三日間の祭りの演目が書かれ、今は喜劇をやっているらしく、奥からどっと笑い声が聞こえてくる。

 広場には大鍋が火にくべられ、まだ昼を少し過ぎたばかりなのに器を持った街の人々の列が出来始め、周囲の屋台からは賑やかな値段交渉の掛け合いが響いていた。

「さてと……」

 とりあえず、人影は暗くなってこないと解らない。私はのんびりと祭りの会場を回り出した。

 からくり人形の人形劇を見、側の屋台で売っている焼きリンゴを影丸と分けて食べる。ぶらぶらと歩いていると、一際長い行列の出来ている屋台があった。

「……なんだろ?」

 覗いてみるとあの星の玉、星の気のこもった水を瓶に詰めた水中花の屋台だ。

「あ! 聖騎士様!」

 飛ぶように売れる水中花に額に汗をかきながら、お客の相手をしているおじさんが私に向かい満面の笑みを浮かべる。

「お礼がしたいので、そこで待っていて下さい!」

 

「実はあの後、水中花の工房を訪れて聖騎士様の話をして、出来た瓶を外で星の光に当ててもらうようにしたんです」

 そして、不思議な星の玉が光る水中花だと売り出したところ、実際、夜に玉が浮かぶのを見たお客から「本当だ」と噂が広がり、昼過ぎには完売してしまうほどになったという。

「商魂たくましいのね」

「そりゃ、もちろん。商売人ですから」

 お礼にとおじさんが一つ、売らずに残した水中花と近くの屋台で買ったお茶をくれる。

「特に今日は昼間から光り出しまして……」

 それを見た人が次々並び、あの行列になったという。

 お茶を飲みながら瓶を見る。紙の花の間にぼんやりと光る玉が浮かんでいる。

「これは?」

「今夜、流星群が流れるからなんだそうです」

 工房の人の話だと、空にあふれる星の気に反応して昼間から光っているらしい。

「へえ~! 今夜流星群なんだ!」

 小さい頃、山際にあるオークウッド本草店の薬草畑の作業小屋に泊まったとき、ガスと地面に寝ころんで眺めたことを思い出す。

「どうも、今年は流星群と星夜祭が重なるそうで」

「素敵な星夜祭になりそうね!」

 まあ、私はガスもいないし、スージーさんのことでそれどころではないけれどっ!

 ほくほく顔で屋台をしまう、おじさんにお礼を言って、私はうっすらと光る水中花を手に、また祭り会場を回り出した。

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 沢を滑っていく彼女の頭上、星が煌めく夜空につい、ついと光が流れる。

 流星群。水が星の気を吸い、彼女にもまとわりつく。

 足下から徐々に秋の陰が星の気に入れ替わる。日に焼けた肌、茶色の髪、愛らしい華やかな顔立ち。

“……ジョン……ジョンに会いたい……”

 沢が小川に小川が川に変わる。

 眼下の祭りに光り輝く街に向かい、星の気をまとった彼女は川を降りていった。

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