Day18 帰ってきた彼女(お題・旬)

 今日のリサさんのお家の食堂のオススメメニューは旬のキノコと芋と薫製肉の煮込み。

 私はおやつの差し入れをリサさんとジョンさんに譲って、リサさんのお父さんとお母さんと一緒に仕込みのお手伝いをしていた。

 カラン……ドアが開いて、若い女性の声が入ってくる。出迎えるお母さんの後ろに着いて、入ってきた女性達の顔を伺う。

「……違うみたい……」

 祭り見物の合間、休憩にきたお客さんだったらしい。お母さんが奥のテーブルに案内する。

 厨房に戻るとお父さんがこちらを見る。私は首を横に振った。

「リサさんとジョンさん、スージーさんに会えたかなぁ……」

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ちょうどお昼が終わった頃、食堂に男の人が駆け込んできた。

「スージーが帰ってきた!!」

 厨房のジョンさんに向かい叫んだ男の人は『小麦通り』で宿屋をやっているスージーさんの叔父さんだった。

 叔父さんの宿屋も祭りのお客でいっぱいで、そんな中、お客さんを祭り会場に送った宿の人が、スージーさんを広場で見かけたという。

「きっと船で帰ってきたのだろう」

 嬉しそうに告げる叔父さんに、リサさんとジョンさんがそわそわし始めたのを見て、お母さんが「行ってらっしゃい」と探しに行くよう勧めたのだ。

 私はジョンさんの代わりに……といっても大したこと出来ないけど……仕込みの手伝いと、もし行き違いになってスージーさんが食堂に来たとき、二人に知らせる為に残った。

「ガスには悪いけど、本当に良かった」

 ……まだ胸はモヤモヤするけど……。

 影丸はガスに連絡に行って貰った。彼は主従契約を結んだガスと私の影なら瞬時に移動出来る。

「これ水中花ですよね。素敵、光ってる!」

 昨日屋台で貰った後、私が食堂の窓際に飾った水中花を見てるのか、お客さんの声が聞こえる。

「星の玉というらしいです。今夜も流星群だそうですよ」

 お母さんの言葉に歓声が上がる。

「ん?」

 ふっと厨房の窓の向こうに星の気が過ぎった気がした。窓に目を向ける。祭り二日目。通りを歩く大勢の人の気配に、それはすぐに消えた。

「なんだろ?」

 あ~あ、ガスと一緒にお祭りで流星群を見たかったなぁ~。彼は今頃『白嶺の方』のお山の近くに着いたところだろうか?

「ジョンさんとスージーさん、ロマンチックな再会になるなぁ~」

 ちょっとうらやましい。私は剥き終わった芋をお父さんに持っていった。

 

 リサさんとジョンさんはスージーさんに会えなかったらしい。夕前、がっかりした顔で帰ってきた二人を

「長い間、留守にしていた叔父さんの宿に先に帰ったのかもしれないよ」

 お母さんが慰める。日が傾くと夜の催しに向け、腹ごしらえする人で食堂が混み始めた。

「店が終わったら、スージーの叔父さんの宿に行ってみるよ」

 ジョンさんが厨房に立つ。私はお客さんで埋まったテーブルに、接客用の頭巾とエプロンを締めて気合いを入れた。

 

 ※ ※ ※ ※ ※

 

“……ジョン……ジョンに会いたい……”

 以前のように厨房の窓から中を覗き込む。

 さっき見たときいなかった彼は、お父さんと一緒に竈の前に立って、平たい鉄鍋で魚を焼き、並んだ皿に盛りつけていた。

「川魚のハーブ焼き、三人前、出来たよ!」

「は~い!」

 お店の方から赤い髪を頭巾で覆った、赤い瞳の元気そうな女の子が来て、お皿を盆に乗せる。

「今夜は一段と混んでますけど大丈夫ですか?」

「体力には自信がありますから!」

 ジョンに明るい笑みを向ける。

“……ジョン……その子……誰……?”

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る