11.商人として生きていく

 紙と万年筆、インクの店を開いてから一時間ほど、全くお客さんは来なかった。

 それもそっか~、文房具なんて毎日使うような文化じゃなさそうだもんな~。

 いきなり失敗した!


『異世界で文房具屋を開いたけど、全然売れなくて涙目』


 と、ツブヤイッターに書き込んだ。

 するとポンポンと返事が返ってくる。


『アホか、そんな世界で文字をかける人間がどれだけいるんだよ』

『どうして調味料にしなかったの? コショウとかは貴重品だから売れると思うよ』


 健吾けんご陽菜ひなの両方に呆れられた!!

 えーえー、そうでしょうとも。でも。


『調味料は全然売って無いんだよ。塩なんて小さな袋で銀貨四枚だぜ? コショウなんて売って無かったんだよ』


 ちなみに宿屋の素泊まりが一泊で銀貨五枚、朝晩のメシ付きで銀貨六枚だった。

 銀貨一枚が千円程だと思う。

 つまり、塩は四千円もするし、コショウなんて見なかったから、下手したらこの世界には無いかもしれない。

 そんな物は売れないだろ?


 ポンポンポン

『思った以上に文明が進んでないのか』

『その街に売っている物で、一番多いのは何だったの?』

『またまた失礼します。調味料は慎重になった方が良いでしょう。場合によっては国が管理している事がありますから』


 と、最後は異世界おじさんからだった。

 え? 国で管理? なんでそんな事するんだ?


『調味料を国が管理するんですか? じゃあ供給は安定してたりします?』

『いえ、貴族が買い占めるパターンが多いでしょう。商人と貴族がグルになり、価格を吊り上げるのです』


 げ! お貴族様が絡んでくるのか! それは面倒だな……調味料はやらなくて正解だ。

 

『じゃあ調味料はじっくり様子を見てからにします。他に気を付ける事はありますか?』

『市場調査をされたようなので、紙などは売っても問題ないでしょう。しかし貴族や教育を受けた者しか買わないかもしれませんね』


 そゆ事ね、やっぱり失敗かも。


『ナイフや包丁などはいかがでしょう。あまり文明が進んでいない世界なら、刃物の出来も悪いでしょうし、安物でも高く売れるかもしれません』


 おお! それは言えてるな!

 アメイゾンで検索すると、ナイフ・包丁の類は山のように出て来た。

 しかも安い!


『わかりました、刃物の相場を調べてみます』

『頑張ってください。それと、実演販売をする事をお勧めします。ではまた』


 実演販売? ああ、切れ味を実際に見せるって事ね。

 ポンポン


『刃物か。確かに庶民が毎日使うし、飲食店が多いなら売れるかもな』

『最初はあまり高級な物はやめて、お手頃価格の物を売って見たら?』

『おう、ちょいと刃物の相場を見て来るわ』


 結果から言うと、大成功だった。

 この世界の刃物は鋳物いもの(鉄を溶かして型に流し込む)がほとんどで、しかもぎ方がとても荒い。

 だから露店のナイフで手で持った紙を切ろうとしたらキレ味が悪く、紙が破れてしまった。


 俺が売る物は安物でも紙がキレイに切れるし、耐久性も高い。

 店頭で手に持った紙をスーっと切ったら、まあ立ち止まる立ち止まる。

 バカ売れした。

 しかも評判が広がり、貴族連中に紙と万年筆も売れるようになった。


 何とか安定して収入を得ることが出来た俺は、他にも売る物を増やし、街では有名な露天商になっていた。

 しかし……それも長くは続かなかった。


 モンスターが現れたからだ。

 最初は数匹かと思ったら、なんと数万を超えるモンスターが街に向かってくるという。


「え? それって大丈夫なのか? 城壁はゴツイから大丈夫なのか? 兵士は?」

 

 と心配をしていたら、数日後には戦闘が開始された。

 城壁の上には沢山の兵士が並び、矢や魔法を撃っている。

 魔法……あるんだ。


 俺も商人という事で、物資の提供を依頼された。

 切れ味のいい刃物を売っていたからな、軍には目を付けられていたらしい。

 しかし依頼されたのは矢だった。


「矢? アメイゾンに売ってるのは知ってるけど、カーボン製の物を売っていい物かな……」


 そんな事を考えていると、大きな音と共に城壁にヒビが入った。

 慌てて城壁を見ると、外から何かがぶつかっているようだ。

 や、ヤバイ……のか?


 街の人達も慌てふためき、逃げまどっている。

 マジで? あんなゴツイ城壁が壊れるのか?

 カーボンがどうこう言ってる場合じゃないかもしれないな。


 俺は矢を百本購入し、軍の施設に持って行った。

 随分と珍しい矢だから最初はいぶかし気だったけど、弓兵らしき人が矢を見たら気に入ったらしく、もっと大量に欲しいと言われた。


 仕方なく次から次へと持って行ったけど、モンスターって一体どれだけいるんだ?


「モンスターの数は数万はくだらない。随分と減らしたが、それでも一万以上は居る」


 一万……ふと机に置かれた木の板を見ると、人間の絵と、その横には人間と同じ大きさの未知の生物、そして段々と大きな未知の生物の絵が描かれていき、一番隅には人間の十倍以上はある大きさの生き物が書かれていた。


 コレが襲ってきてるのか!? シャレになってない!!


「矢が、矢が底をつきそうだ!! 早く補充してくれ!!」


 怪我をした兵士が施設に転がり込んできた。

 数万のモンスター……さっきの矢があってもあっても足りないだろうな……仕方ない!

 俺はアメイゾンで次から次へと矢を購入し、矢は方々ほうぼうへと運ばれていった。


 それから数日後……やっとモンスターの撃退に成功したと知らせが入った。

 俺が購入した矢の回数……五千回越え。

 十二本セットが二千円程だから、一千万円以上も使った事になる。

 アメイゾンの残りポイント……


「四万七千……百二十一円……ま、マジかよ……」


 ただこれのお陰か、スマホの最後のアイコンが表示された。

 地図アプリだった。

 しかも世界地図で、かなり詳細な事がわかるようになる。


 地図を見るとこの街はどうやら国の首都の様で、国としては随分と小さい。

 他にも大きな国は沢山あるし、行こうと思えば地図を見たら簡単に行けるな。

 あはははは、商売しまくって、ここでの損失を絶対に取り返してやる!!


 数日後、俺は城に招かれていた。

 着た事もないスーツの様な物を着せられて、国王に会っていた。

 どうやら俺は、国を救った一人らしい。


 矢を大量に調達した事が評価されたみたいだ。

 言葉はスマホ経由でしかわからないけど、俺はこの世界で認められたようだ。

 貴族になるつもりはないけど、もらった勲章を使えば他の国でも優遇されるらしい。


 金もたくさんもらえたし、もらった金をスマホアプリの換金・交換を使うと、何とアメイゾンポイントに交換できた。

 俺はこの金を使い、この世界で大商人になってやるぜ!

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SNSを使って異世界で成り上がる!~異世界SNS活用法~ 内海 @utumi

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