第十二話 目覚め始めるものたち

「はい。今はまだ私も含めて皆、開花中だと思います。この特殊能力は自分自身で完全に何ができるのか把握することが一番大事だと思います。



それにより小隊などで戦闘する場合、個とは比較にならないほどの強さを発揮できます。私の場合は敵を見ていたら発動したので特殊能力がたまたま発動条件に合っていたため、皆よりも早く能力に目覚めたのだと思います」

サツキらしい理にかなうと答えだとディリオスは思った。



「事実、私の能力はさらに精度を増しています。今はあの天魔たちの弱点というか色で強弱の部分がわかります、天を舞う天使たちはほとんどが同じ色をしていますが、姿は同じでも強い者がわかります」

サツキは自分でも驚きながら話していた。



「サツキは元々冷静で賢明だからな。それぞれの特色や性格、好戦的さや気質、潜在能力などが発動しやすいとあの絵巻物には書いてあったが、そういうことなら納得できる」

ディリオスは話しながら自分でも理解していった。



 二人が話している間も戦いは止むこともなく激化していた。夜空に数えきれない太陽よりも明るい光が絶え間なく散っていた。そんな中、ディリオスは己の特殊能力に気づいた。



「サツキ。俺の能力はどうやらこれらしい」そういうと黒衣の内側を見せた。

「それは……浮いているのですか?」サツキは尋ねた。

「ああ、そして自在に動かせる。だがどうやら俺の力の源が原動力のようだが結局は身体能力上昇が強さの鍵になりそうだ。



精神と肉体を両方を自動で上げ続けているのが身体能力上昇のようだが、能力に大きく左右されるのはやはり原点である身体能力が一番必要になる。

己では扱いきれない能力者も出てくるはずだ。

扱い方が分からない者には危険だぞ。体と精神の扱い方が分からないものは無駄にエネルギーを使い果たしてしまう。



エネルギーが足りないのに能力を発動させたらエネルギーの源である生命エネルギーまで失っていくことになる。エルドール兵は横にならせて休ませておけ。死者がでないうちにな。



うちの者の中にもいたら身体能力上昇の修業をするのが賢明だろう。皆、ゆっくり休むように伝えてくれ。今日は戦いにならない」



ディリオスは目の前にある城壁の大きな石を少し浮かせて見せた。

「しばらく触っていると動かせるが、大きい物ほどやはりこの身体のエネルギーが必要なようだ。動力源の消費量は能力によって、かなりの差が出るはずだ。体力か精神かあるいはその両方かは能力次第ということになるようだ。

そして日頃から鍛錬している我々は動力源となるチカラも常人よりはるかに勝っているはずだ。



サツキの能力は直接的な戦いには影響は少ないが、能力を使うほど動力源は消費しているはずだ。おそらく能力者は全員その点だけは同じだろう」ディリオスはゆっくりと石を元の位置にもどした。



「サツキ。俺たちは元々暗殺の技を扱う者たちだ。他にも特殊能力に目覚めている者も多いはずだ。まだまだ弱いが、この力があれば確かに戦える。

幸いにも奴らは今のところ我々人間に干渉するどころではないようだ。

作戦を変更する全員城内に入ってしばらく様子をみることにしよう。

能力発動時間にも差があるようだからな。全員の変化を確認してみてくれ」サツキは頷いた。



「俺はここで様子を見ておく。まだ何が起こるか分からないからな。奴らの戦いを見届ける。また後で合流しよう」ディリオスの言葉に習いサツキは階下に姿を消していった。



(俺の考えが正しければ、この能力でこの武具の力を存分に引き出せるはずだ。身体中からみなぎる力を感じる。

俺の黒衣内の飛苦無は全て特殊な合金鋼糸でつなげてある。

常に動力を消費し続けているが、その分長い時間自由自在に扱えるということになる。


黒刀も切れ味は恐ろしいほど鋭くなり、それでいてとても軽くなっている。俺の基本的な能力は、物に自分のエネルギーを与えて操ったり切れ味などを強化できるようだ。今はまだその程度しか分からないが、戦ううちに色々学んでいくだろう。実戦が何よりも大事だからな。


仮に特殊能力がない者でも身体能力は相当高くなるだろうし、刃黒流術衆の技だけでも十分な戦力になる。能力者たちは自分自身の能力を完全に把握するまでは鍛錬させるべきだな。絵巻物に関する俺の考えは変わらないが、この特殊能力に関しては確かだな)



彼の思案中も止むことのない大粒の雨のようにぶつかり、そして死者を出し続けていた。膠着状態こうちゃくじょうたいは止まることなくずっと続いていた。


天にはまだ無数の天使が翼を広げて飛んでいた。その様子をディリオスはしばらく眺めていた。そしてサツキの言葉を思い出した。

(指揮官があの中にいるって言っていたな)あまりに予想外な事が連続し、それに圧倒されいつもの冷静さにかけていた。


 男は息を整えいつもの自分に戻った。よく見たら全ての隊列が連携をとっていることにすぐに気づいた。そして天使の一部隊が魔の穴ではない場所に舞い降りていった。


(地上からも攻める気か、一部隊如きではすぐにられて終わりだろう。わざわざそうする理由がない。穴に押し込めたほうが絶対的に有利なはずだ。一体何のためだ?)魔の穴が視界に入っていない勇気ある者はそう思った。



(魔族が少ないのなら地上戦も考えられるが、天使が数で勝っているはずだが天使が徐々に押し負けだしている。


魔物は先に出たから兵数的には少ないはずだが、奴らは人間を食って力を上げていたのか。だから天使が押し負けだしてきたのか。魔物と戦った俺には、どうしても確かめなければならないことがある。確証を得るまでは言うべきではない。


是が非でも魔の穴まで近づいて、確かめなければならない。今後の戦いを左右する事だ。俺たちと奴らとの戦いに絶対必要な情報だ)



彼は思索しさくしていた答えをまとめて決意した。奴らが弱いうちに確かめるのが最善だ。

 

 どこからか男の声が聞こえた。聞き覚えのある声だった。

サツキの兄アツキだった。アツキの声だとすぐに気づけなかったのには理由があった。ディリオスは階下を見たが見当たらず、気配も一切ないのに対して声だけが聞こえたからだった。


 まだ特殊能力に対する事を理解しきれていない自身を強く責めた。攻撃型の特殊能力者と戦う恐ろしさを体感してはいないが、想像はできた。

だが、そう単純な能力者だけなはずはない、難解な特殊能力者との戦いを考えたが考えるだけでは答えは出なかった。


それほどまでに特殊能力の恐ろしさを理解していながら、即時に事態を理解しなければ死は確実に訪れると、瞬発的な発想力と判断力、創造力がさらに絶対的に必要だと感じた。


(アツキ。お前の特殊能力か?)ディリオスは念じるように話しかけた。


(そうです。離れた距離の人と直接話せることが、私の特殊能力のようです)


(丁度よかった。俺は魔の穴を見てこようと思っていたところだ。気になる動きを天使が見せだしたから、様子を確認したいんだ。俺の予測の範囲内だと今後の戦いを大きく左右する程重要なことだ。俺一人なら見てすぐに戻れる)


(アツキ! 聞いてるのか?)アツキに再度呼びかけた。


(どう返事すればいいのかわからなくて……)


(よし、わかった。今から俺が力を開放する。サツキに俺のチカラが今戦っている天魔どもに通用するかどうか聞いてみてくれ、奴らにバレないよう一瞬だけ力を込める)


(サツキが言うには司令官にはバレると言っていますが、逆に膠着状態こうちゃくじょうたいの今しかないと言っています。天魔の司令官が襲ってくる可能性は低いとサツキは判断してますが、もしも襲ってきたら神木の森へ入ってくださいと言っています)


(神木の森に? まあいい。今は時間が惜しい、天使や魔族にバレないくらい瞬発的にいくぞ)

(サツキに伝えましたので、いつでもどうぞ)



 ディリオスは一瞬だけ内に秘めている力を開放した。

己でも正直驚くほどだったため、すぐに力を隠した。

下位の天使は下位であるが故、そして一瞬であったため気づかなかったがディリオス自身が信じられないほど驚いていた。

不可能を可能にするほどの恐ろしい程の力であると感じた。



(どうだったか聞いてみてくれ。今ので、約半分くらいのちからだ)

(……聞くまでもないくらいですが、一応聞いてみます)アツキは心臓を生でつかまれているようなほどの気持ちになり胃液が上がってきた。ディリオスのあまりの力の強さに姿は見えずとも震えて鳥肌がたった。



(サツキに聞きました。行かせたくはありませんが、くれぐれも力は絶対に開放しないでとのことです。

特殊能力はサツキのような察知系の能力者がいなければ気づかれませんが、身体能力を出すと天魔が闘いを一時止めることになるほどだとサツキは言っています)

サツキはとまらない冷や汗をかきながら、アツキと話していた。


 同時に大きな希望も湧いた。ディリオスの強さは知ってはいたが予測を遥かに超えていた。

ただの身体能力上昇だけでこれほど強くなるのかと考えるだけで、先ほどまでは天使に恐怖を抱いていたが、圧倒的な力の前にすでに天魔の存在を忘れていた。


(身体能力はできるだけ消して行ってください。それではお気をつけて! 何かあれば私のことを考えて念じて頂ければ会話はできるはずです)


そういうとアツキはどっと疲れが出て、冷えた壁を背にそのまま座り込んだ。

座り込んでしばらくすると笑みを浮かべた。

 

ディリオスのために命を大事にして簡単に死ぬような真似はせず、厳しい道ではあるが、生きて、生きて生き抜いて彼のために少しでも役立とうと思った。


(わかった。予定通りならすぐに戻る。そっちは引き続きサツキに能力者探しを頼んでくれ)


 ディリオスにはどうしても腑に落ちない点があった。


(今、魔族と天使は互角の攻防を繰り返している。だとしたら俺が倒した魔物はナニモノなんだ? 全ての敵に翼は無かった。飛んだ時もただの跳躍でしかなかった。だがそれより更におかしいのは、あの程度の速度で仮に全力疾走したとしても、神木まで来ることは不可能だ。どうしてもそれを確かめたい。まだ敵が弱いうちに調べないと。予想は出来るが、確実でないと今後に響いて来る)


ディリオスの身体能力の向上はいちじるしく上がっていた。考えごとをしながら走っていたためディリオス本人も気づけなかったが、彼の身体は飛躍的に上昇中だった。


 無意識に神木まできていた。ここから俺の全ては始まった。手で触れて、ただそれだけを感じた。彼は特に意識せず神木に思いを募らせた。


(しかし、ここまでもうきていたのか……気配を殺して慎重に魔の穴が見える位置まで移動しよう)

ディリオスは光る森を抜けて光が影になる場所まで移動して伏せた。


 木々の騒めきさえも与えたくなかったため森を抜けて、簡易に作られた刃黒衆の休憩所に入った。森の端にありぼろぼろになってはいたが、姿を隠す程度は可能だった。彼は古小屋の窓から気配を断ってそっとのぞいた。


 魔族と天使は地上でも激しい攻防を繰り返していた。

それはおびただしい数で絶えず塵となって消え去っていた。

塵が視界の邪魔をするほど光る塵と黒い塵がどれだけの速さで殺し合っているのか経験をしたディリオスには分かった。


双方ともに常に数百数千の魔族は黒煙を立て続けに上げており、天使もまた光柱がたつほど戦っていた。その両者の死者の砂塵の中でも激戦が繰り広げられていた。


 よく見ると緑に散った赤い血が見えた。人間の頭や腕がそこら中に転がっていた。だが天使が天に昇って出てきたことにより人間の犠牲は少ないと分かった。そう考える自分が少し嫌になった。


状況から分析し、被害が少なくてよかったと、冷静に安堵する自分自身が嫌いだったが、幼子の頃からの癖になってしまっている自分を今更変える事など出来ないと。


 しかし、すぐに気持ちを切り替えた。戦いは始まったばかりであり、これから先が本当の戦いである以上犠牲者はこんなものでは終わらないと、己に暗示をかけるようにして納得させた。


 ディリオスは天から途切れることなく地上に降り立つ天使に殺気を殺して見つめた。魔族も同様であったが、天使と魔物には無かった。


(地に下りた天魔は翼が無くても飛べるのか? いやそんなはずはないはずだ)


空を舞う天使と地上に降りた天使は、格差のある天使なのかと思った。

空の天使は神典に必ず出てくる第九位の薄い衣をまとっているだけで脆弱な体つきであるのに対して、地上の天使は体つきも大きく、兜から足までを守る一式の装備を身につけていた。


武器は大きな槍で、競技用のような円柱で突きに特化した武器を持っていた。上空で舞う天使は二翼有しているはずなのに、地上に降りたら翼は消えていた。彼はさらに天高く見上げた。光る眩しさを越えて、彼が見たものは予想通りであった。

 

天使が地上に降りる瞬間に光る翼が消え、霧のような光がかれらの体を包み込んで武具に変わった。


(倒した魔物も大きさに見合わない爪や牙があった、天使と違って最弱の魔物の種類は幾種かいる。だから見落としたのか。しかし、あの痩せた天使が翼を武具にしたら見かけだけでいえば精鋭に見えるな。どちらが優勢かはわからないが、今はまだ俺たちが参入するべきではない。精々減らしあってくれって感じだな)ディリオスはそう思うと来た道を慎重に戻っていった。

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