第39話 高位魔神直属配下ドラバルの奇襲

 ディリオスはレオニード・ラヴローをまず牢屋から出した。

何が起きたのかを知るために。


「俺が悪魔を倒した後に何が起きたんだ?」



「……我々は正しき国にするために、今まで秘密裏にされてきたハウンド特殊部隊の施設にいきました。しかし王であったイシドルは、我々が特殊施設に行っている間に再び悪魔を呼び出し、城は簡単に制圧されました。


その事に気づいたのは、我々が施設で捕らわれて軟禁されて気づきました。リュシアン王子はハウンド部隊員たちがどうやって生まれるのかを知り、更に父である王イシドル自ら悪魔と契約を交わしていた真実に耐え切れず一度は心が折れました。


ハウンド部隊は三カ月で仲良くなった者や、恋人や愛し合った者同士で、殺し合いをさせて生き残ったほうがハウンド部隊になっていることを知りました。そして施設隊長や副長は暗示や記憶を上書きする能力者でした。


この牢屋にいる二人は深く愛し合っていたおかげで、相手を殺さずに戦い続け、強い者でもあったため特別二人ともハウンド部隊に所属していました。


我々が施設に軟禁されている間に隙を見て二人を解呪し、リュシアン王子をディリオス様との約束を思い出させて、奮い立たせて脱出しました。


ですが、ディリオス様に迷惑はこれ以上かけられないと王子は言い、グリドニア神国があるため西にも行けず南西へと道を進みました。悪魔の穴が近くにあったため警戒しながらこの街に到着しました。


そしてもうお知りでしょうが、ここの能力者の手に三人とも落ちました。しかし、悪魔との再契約にはナターシャ王女も貢ぎ物となっていたため、変わりにディリオス様を捕えるよう命令を受けたようで、我々を餌にしておびき寄せようとしていました。


私は逆に、ディリオス様なら必ず打ち破ると確信していましたので、安心しながらこれまでお待ちしておりました」



「レオニード、よく頑張ってくれた。ここから出るぞ」

彼に手を出したが「私は大丈夫です。王子たちを宜しくお願い致します」と言った。


「先に解呪した方が良いんじゃないのか?」


「出してからのほうがいいでしょう。いきなり暗闇の牢屋にいたら再び正気を失うかもしれません」レオニードは衰弱した様子で言葉を口にした。


「わかった。先に上へ連れて行こう」彼が合図するとアツキたちがそれぞれに肩を貸して階上へ連れ出そうとした。


火の灯にあたり、それぞれ出て行ったがディリオスは不信に思った。「まさかあれがリュシアンか?」


「はい。そうです。父である王が、道具として兄妹さまを貢ぎ物として、悪魔に差し出した現実を受け入れられず、ご心痛のためあのような御姿に……」


「無理矢理にでもイストリア城塞に向かうべきだった。お前たちが来ずとも俺は奴らから狙われている。今更悪魔どもに狙われようが関係ない」


「仰る通りです。申し訳ありませんでした」


「お前たちをイストリア城塞に送らせるが、今は再び天魔の激闘が始まった。ある隠れ家へまずは連れていく。そこなら絶対に安全だからだ。俺たちも上へ行こう」


ディリオスは階上へ上がる時に隣の広い牢屋の扉を蹴り破った。

「お前たちは自由だ。すきにしろ」


一言そういうと彼はレオニードと共に階上へ上がって行った。


「北部連合も我らに合流して今はイストリア城塞にいる。リュシアンやお前たちの事は仲間として接するようしっかりと伝えるように言っておく」


白髪の男にディリオスは話しかけた。


「リュシアン。久しぶりだな、話は聞かせてもらった……大変だったな」白髪の男は顏を上げた。


「俺は幼い頃から命を狙われてきたから大丈夫だったが、突然思いもよらない事が起きればそうなると理解は出来る」彼の心が痛いほどディリオスには分かった。そして彼は逆らわなければ成らない相手に対して、逆らえない性格が仇となった。


「まさか父があそこまで堕ちているとは信じられなかった……いや……可能性はあると考えていたけど信じたくなかった。ナターシャを預けて正解だったよ。妹は元気かい?」


「ああ。毎日カミーユと会って幸せそうだ」


「今は再び、天使と魔族の戦が始まった。イストリア城塞までは距離があるから世界で一番安全な場所に今から非難する」


「そんな場所があるのかい?」


「ある。が、多少酒と肉がないと駄目だがな。ダグラス王が支援してくれているから安心してくれ」


「高閣賢楼の名は聞いたことがあるだろう? 今からそこまで行く」


「暇つぶしどころか、うちの連中も毎日通ってるほど、真実のみが記された書物が数え切れないほどある。そこを守っている知の番人が何者かは知らないが、敵ではない。そして敵はまだ来てないが来れば必ず守ってくれる。結界も常時張っているし、戦闘に置いては俺よりも強い。だからゆっくり休んでてくれ」


「わかった。ありがとう」


 地下から人影が見えた。上に恐る恐るゆっくりと顏を出してから上がってきた。いずれも若い女だけだった。


「誰に攫われてここに来たんだ?」

皆、若くて美し容姿をしている女性ばかりであった。


 一人の女性が身震いしながら男を指さした。アイロス・レアードだった。

ディリオスはもう安全だから心配しなくていいと伝えて、どこから攫われてきたのかを訪ねた。


この上の街や中にはグリドニア神国から攫われてきた女性もいた。ディリオスは彼女たちをそれぞれの場所に送り届けると言ったが女性たちは嫌がった。ディリオスは理由が分からず尋ねた。


理由は皆、同じだった。安全な場所に連れていってあげるとアイロスは、騙して彼女たちを自分の所有物としていた。


長い付き合いの刃黒流術衆の者たちは、ディリオスが彼女たちをどうするかは簡単に理解できた。そして同時にアイロスへの裁きは、目の当たりにしたくないほど恐ろしい罰になることを察した。


女性たちに安全な場所はもう少ない事を話した上で、イストリア城塞が一番安全だと説いた。そして入国したいのであれば守りながら連れていくと話した。


彼女たちは皆、不信そうな目でディリオスを見たが、しばらくして彼女たちは助け出してくれた彼を、信じることにした。彼女たちは感謝してイストリア城塞に行きたいと言った。


「サツキとジュン。お前たちは彼女たちに服装を用意してあげてくれ。他にも必要なものがあれば買ってあげてくれ。あとは、出来るだけいい馬を五頭用意してこい。アンナお前はここに長くいたのなら二人と一緒にいって案内をしてやってくれ」


サツキとジュンが汗をかいている事に気づいたアンナは不思議だった。寒いのなら分かるが暑いわけはなかったからだった。息遣いも荒くなっていた。


空気が息苦しくなったのは三人だけでは無かった。


ブライアンも感じ取れていた。戦いの時とはまた違う恐ろしさを出している、ディリオスに対して恐れを抱いた。

顔つきは普通だが背筋がゾッと、凍りつくほどの凄味を感じた。


「ブライアン? 大丈夫? サツキさんとジュンさんも同じだけど……」


「お前は分からないのか? 大将の強さ……じゃねぇな。恐ろしさを肌で感じるなんて、弱い奴の特権だと思ってた。分からねぇってのが良い事もある事を初めて知ったよ……」


アンナはよく分からない顏をした。



「あ! お兄さん! アイロスはダメだけど、残りの三人も連れていったらダメかな? 何も知らなかったはずだと思うの」


「それはこっちで済ませるから、お前はサツキとジュンを連れて、必要な物を揃えてこい。この三人の事は調べてから決める」



「俺もだが、カミーラもネイサンも大将に攻撃を仕掛けた。それでも許してくれるのか?」


「俺たちの世界ではあんな程度を攻撃とは呼ばない。俺が殺すつもりなら一瞬で殺せたしな」


「その前にお前たちは本当にこの女たちの事は知らなかったのか?」三人ともが知らなかったと答えた。


「それが本当なら連れていってやる。だが、もしも嘘だったらアイロスと同罪として、お前たちも生まれてきた事を後悔するように、最後の最後まで思い知らせることになる。それでも尚知らなかったと言うんだな?」

三人とも知らなかったと答えた。


「アツキ。どんな奴らか調べると同時に女の事を本当に知らなかったのか調べろ。三人ともそこに並べ」

「わかりました。すぐ調べます」


そう言うと彼はかれらの額に手を当てた。

「アツキ、相当鍛錬したんだな。ちょっと前のお前なら、厳しくなっていただろう」


「ディリオス様の組手を見てたから、皆あれから鍛錬も毎日してますからね」



「この男はトレヴァー・オルコックという名で、能力名“水面の多重人格者”一瞬だけ水のようにしてすぐに再び元の硬さに戻る能力者ですね。


この男は彼女たちの事は知らなかったようです。悪党ではないですね。アイロスを信じ切っていたのに裏切られた事に対して怒りを感じます」

アツキは手を放して次を調べた。



「この者の名前はカミーラ・アビントン。能力名“復讐なる癒し人”物や人を鉄に変化させる能力者ですね。カミーラ自身を鉄に変える事も出来ますが動けなくなるようです。


人間を鉄化することも出来、他のあらゆる物を鉄に変えることが出来るようです。エネルギーを消費するほど強度を増したり、破損した場所などの修復もできます。

怪我や重症を負った人間を一度鉄にしてから修復することも可能です。


先ほどのは能力の一端ですね。この女も確かに知らなかったようです。トレヴァーに対して好感を持っているようです」アツキは素早くかれらの心を覗いていった。

カミーラは照れからか、下を向いた。



「この男の名前はネイサン・バルス。能力名は“夢幻の蜃気楼”貴重な幻術系結界型能力者ですね。建物もそうでしたが、本物のように幻術をかけることが出来ますが、あくまでも建造物や森や川といった人間のような生命が宿らない物に限定されるようです。


幻術をかけている間は術者の思い描く物を、見せることが可能なようです。この男は結界型だったため女か男かは分からなかったようですが、

地下牢に複数名の人間がいる事は知っていたようです」



「結界型は感知能力も多少あるから仕方ないな」これで終わりだな。


「一応聞く。強制もしない。俺は天使と悪魔の奴らと戦うと決めて戦い続けている。はっきり言っとくが、相当強い敵だ。去る者は追わない。金を渡してやるから消えるか一緒に来るかは自分で決めろ。


命の保証は出来ないが、意味のある死を望む者だけ城門前にこい。誰にも責めさせはしないし、誰も責めない。俺たちは戦い続けてきたから、逃げたくなる気持ちは尊重する。ほら、受け取れ」


ディリオスは旅が出来る程度の金貨の入った袋を三人に渡した。


「お前たちはこの街から去るための準備に取り掛かれ、イストリア城塞までは距離がある馬も数頭買って彼女たちを乗せるか、リュシアンたちのように荷馬車にするかは

話してから決めろ。

俺はお前たちが想像している以上の事を今から決行する。見たい奴は残ってもいいが絶対吐くだろうからあまりお勧めはしない」


「ディリオス。もう馬に乗れる。荷馬車では時間がかかりすぎるから馬で行く」


「わかった。一番いい馬を五頭で大丈夫だな。だが、どの道、彼女たちの為に荷馬車は必要だ。あとネイサン、この女たちが身なりを整えるまで幻術で建物にしておけ」


「わかりました」


黒き者たち四人とも足早と外に出て行った。それに続いて若い女性たちもついて

ブライアン以外は準備をするためにも上に上がって行った。


「お前は見ていくのか?」


「俺の大将が変わることはもうねぇだろう。だから知っておきたい。強さだけじゃねぇ、冷徹さも無いと生き残れない、大将がどこまでのか知っておきたい」


「じゃあ、しっかり見ておけ。これが俺の能力だ」


漆黒の男がそう言うと、黒衣の中から数十本の見た事のない形状をしたナイフの一種のようなものが次々と出てきた。そしてそれら全ては浮いていた。


彼が心の中で“蝙蝠の舞”と念じるとそれらは蝙蝠のように一糸乱れずアイロスの周りを飛び始めた。黒衣の男は念じる強さを徐々に強くしていった。


本物の蝙蝠よりも遥かに速くアイロスを中心に狭めていった。

「俺はお前のような奴は嫌いだし、許さん。ゆっくり後悔して死んでいけ」


アイロスの皮膚に触れだし始めた。体中の傷が徐々に深まりを見せていき男の腕や足の肉は削ぎ落され骨が見えていた。肩からも骨が見えたが直ぐに砕け散りだした。


足の肉と骨は消えて、腕の肉も骨も細かく砕くようにじっくりと削いでいった。

ブライアンも見るに堪えない程の残忍さだった。死んだ顏だけが残っていたが、それもすぐに見えなくなった。


「ブライアン。俺はよく敵でなくて良かったと言われる」


最後の後片づけのように彼はアイロスの生きてきた痕跡を世界から消し去った。

肉片や骨すら残らず、血だけが部屋中に飛び散っていた。


「大将。あんた最高だ。悪魔よりも恐ろしいぜ」


ディリオスは再び苦無を黒衣の中にしまうと上へと上がっていった。


「準備は出来たか?」

「はい。出来ました、アンナが色々知り合いが多いようで助かりました」

「そうか。ご苦労だったな、アンナ」


「あの……アイロスは?」


「ああ、もう二度と見る事は無い。この世から完全に消してきた。生まれた事を後悔してたはずだ」ブライアンはその言葉を聞き、確かにその通りだと言わんばかりに苦笑した。


入口に立っていた大男にブライアンは話しかけた。

「おい、バルガ。これからはこの人が大将だ。くれぐれも怒らせるなよ」


「じゃあ行くか。敵が来ても騒がず、静かにしていたら大丈夫だ。来たら俺が、対処する。数が多い場合は急いで、高閣賢楼まで先に行っててくれ。その場合はブライアンが荷馬車を守れ」


「わかりました。敵はお任せします」アツキがそう言うと、一行は高閣賢楼に向けて出発した。


「サツキ。天魔はどんな感じだ?」


「今回は天使のほうが押してますね。まだ魔族のほうは副官は出て来てますが、指揮官に動きはありません。悪魔の指揮官の強さのほどはまだわかりませんが、今までと異質な事だけは確かです」


「天使の指揮官はどうだ?」


「まだ強さのほどは不明ですが、権天使は指揮官を含めて十三名います。指揮官の両脇には二名います。副官が十名で副官にはそれぞれ千人の大天使がついています。指揮官に付き従っている二名の権天使の強さはわかります。副官よりも圧倒的に強いです。


天使勢はまだ一角も落ちていません。お互いにカバーし合ってます。連携をしっかりとっていて、今までとは比べ物にならない、強さを発揮しています」


「厄介だな。それでも悪魔の指揮官に動きはないんだな?」


「はい。全く動く気配を見せません」


「それほどまでの状況でも動かないか、相当な実力者だと見ていいな。暫くは様子見で問題なさそうだな」


「しかし、天使勢はかなりの強さです。このまま放っておくのは危険では?」


「権天使に限ってだが、人間の味方らしい。書物に記されていた。人間を守るのが神からの使命らしい。善戦しているのは何よりだ」


「第七位の指揮官と、ヴァンベルグにいる悪魔との関係は何なのでしょうか?」


「ヴァンベルグを支配した悪魔は、前に倒した悪魔と同じ系統だと思う。知性も高く、実に手強い相手だった。第八位の悪魔の強さから考えて、ヴァンベルグの悪魔を踏まえていくと、正直言って相当ヤバい奴ってことになるな」


「悪魔の指揮官か、副官が動くまで様子を見る。仮に悪魔が俺の予想通りの強さなら、今天使勢を減らすと天使に勝ち目がなくなる」


「なるほど。了解しました。動きがあったらお知らせします」


「ああ。頼む」ディリオスは珍しく嫌な予感がしていた。天使も悪魔も相当強いのは分かり切っていた。どちらにせよ高閣賢楼に行くまでは、手出しは何があってもしないと決めていた。


ディリオスは自分の力が、かなり強くなっている事を理解していた。天使が勝とうが悪魔が勝とうが、次は第六位だと言う事を考えるだけで、自分の使命はいつ来るのか考えずにいられなかった。


彼は荷馬車に横になって大空を見ていた。

そこには空は無くて、天使が埋め尽くしていた。


それは街を出てからずっと続いていた。果てしなく遠い空にも天使がいた。彼は久しぶりにぼーっと過ごしていた。


ミーシャもこのくだらない空を眺めているのかと思うと、消し去りたくなった。彼女のために青空を見せてあげたかった。


セシリアも一緒にいるから危険な目には合わないことは知っていた。彼はミーシャの事を考えながら優しい顔つきで、ぼーっと空を見つめていた。



「動き……?!」サツキが叫ぶよりも速く動いた。


 ディリオスは一瞬で黒い刃を抜いて襲ってきた者と、空中で鍔迫り合っていた。黒き男は力を一瞬緩めて刀を刀で流して、敵を自分よりも先に地面へ下ろして、上空から激しい刀激を繰り出した。


そしてディリオスは強い一撃を与えると、その隙に地上に降り立ったと同時に、更に黒刀を上から振りかぶった。相手はそれを受けようと剣を上げた。漆黒の男は黒刀を手放して、その力のまま上から黒刀を振り下ろした。


その瞬間に間合いを詰めて、漆黒の戦士は暗殺拳を使い激しい拳打を浴びせたが、敵は動かずそのまま手放しで操っていた黒刀を受け流した。ディリオスは左手に黒刀を持ち直して攻撃の構えを見せた。


まるで大木を殴ったような感触だった。外側が堅く中まで通らない千年樹のようにその悪魔は動じることも無かった。通常ではなく本気でやらないと、厳しい相手だと即座に分かった。


両名が地上で見つめ合っていた。


「お前ら三人もいれば気づいただろう。早くいけ! こいつの獲物は俺らしい。お前たちに手を出そうとしたら殺すだけだ。分かったらさっさと行け!!」


ディリオスは本気の脅しを口にした。しかし悪魔の狙いは最初から、今もまだ自分しか見ていないと知っていた。



皆、急いで高閣賢楼に向かって走り出した。

ブライアンも全く気付く事も見ることも出来なかった。


あの一瞬で、刀を抜いて応戦できるディリオスに対して、彼はついてきて良かったと誰よりも思っていた。生き様や死に様に誇りを持って人生を貫きたいと思っていたが、どいつもこいつも駄目な奴らばかりだと心で嘆いていた。


しかし、ディリオスは本物だった。彼の噂は耳にしてはいたが、噂に尾ひれは付き物だ。どうせ大した奴ではないだろうと思っていたが、誰一人気づかない一瞬に、あの状態から応戦した事に感服していた。


ブライアンは後ろを振り向いたが、二人は対峙したまま動いていなかった。いや、ディリオスが動かさないように止めていた。もう彼が小さく見えるほど距離は取っていたが、彼の殺気は劣る事なく肌に突き刺さるほどだった。



「見事だな。噂以上だ」魔の者であろう者は口を開いた。

二人は目と目で視線を外すことなく見ていた。


「そっちもな。噂は聞いたことはないが、相当な強さだ。お前が指揮官か?」


「そうだ。俺は最高位魔神であらせられるドラクル侯爵の直属の配下ドラバルだ」


「こんな所で遊んでいていいのか? そろそろ動かないとまずいだろう?」


「だから動いた。空をみれば一目瞭然だ」


ディリオスは思わず空を見た。


奴の牙が首に噛みつこうとした刹那に、対する男は左手の腕輪を上げて吸血鬼の口元を塞ぎ、そのまま胸元に両手で発勁を入れた。両の手での内殺拳に牙を持つ魔物は、苦しそうに後退した。漆黒の男もギリギリであったため、冷や汗が出ていた。


「つまみ食いのつもりだったが、お前と今戦えば天使どもに負けるとわかった。奴らを倒したら次はお前の血を貰いに行く」


「貴様は吸血族か? 話にしか聞いたことはないが厄介そうだな。出来れば天使どもに倒して貰いたい」ディリオスは本気でそう思った。


「ふふふ。面白い奴だ。気に入った。奴らを倒したらお前を配下に加えてやる」


「悪いが俺はお前に従う気はない。天使どもを蹴散らしたら本気で相手してやる」


ドラバルは跳躍して黒い翼を出すとそのまま飛び去って行った。その速さは襲ってきた時よりも、速かった。


その空には穴が空いて青空が見えていた。それは天使勢の一角が崩れた事を意味していた。


ディリオスは高閣賢楼に向かって疾走して消えていった。






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